中医協総会 患者申出療養第1例目を報告 運用面での課題も「制度本来の趣旨から逸脱」
公開日時 2016/10/20 03:50
厚生労働省は10月19日の中医協総会に、患者申出療養の第1例目として、東京大学医学部附属病院が申請した、腹膜播種陽性または腹腔細胞診陽性の胃癌に対する「パクリタキセル腹腔内投与及び静脈内投与並びにS-1内服併用療法」を報告した。患者申出療養は、未承認の先進的な治療と保険治療を併用する新たな保険外併用療養制度として、今年4月1日に施行された制度。この日の中医協総会では、大規模な症例数を集積する実施計画が提出されたことから、患者起点ではなく、エビデンス構築に重きが置かれているとの指摘が相次ぎ、「制度本来の趣旨から逸脱する」との声もあがった。医療機関主導の研究としては、先進医療という制度がすでにある中で、明確な線引きを行うことも求められ、実施計画書の策定など制度の運用面での課題が浮き彫りになった。
患者申出療養は、困難な病気と闘う患者の思いに応えるため、先進的な医療について、患者の申出を起点とし、安全性・有効性等を確認しつつ、身近な医療機関で迅速に受けられるようにする制度だ。第1号となった技術は、腹膜播種陽性または腹腔細胞診陽性の胃癌に対する「パクリタキセル腹腔内投与及び静脈内投与並びにS-1内服併用療法」。標準療法のS-1+シスプラチン療法を対照薬として、先進医療の枠組みで第3相臨床試験を実施。臨床試験全体では有意差が示せなかったが、腹水を調整して感度分析を行うと有意差を示している。このデータだけでは十分に有用性が示されていないことから、未承認薬迅速実用化スキームを活用し、公知申請が検討されている。
ただ、治療選択肢のない疾患であることから、一定の有用性を発揮する可能性が示されたことは、患者にとって福音も大きい。先進医療下で実施される患者の適格基準を満たさない患者から申出を受け、臨床研究中核病院である東大病院が、年齢や全身状態(PS)、転移状態や前化学療法の規定など適格基準の7項目を緩和した実施計画を作成。これに基づき、9月21日の患者申出療養評価会議で審議された。適格基準は厳格であれば有効性・安全性のエビデンスを構築できる確率が高まる一方で、緩めすぎてしまうと安全性への懸念も生じる。そのため、患者申出療養評価会議では、一部適格基準を厳格化する形での修正がなされた上で承認した経緯がある。なお、実施計画では、先進医療下の臨床試験で治療継続中の患者30例を含む予定症例数100例を対象にした臨床試験を行うとされている。
◎“エビデンス”重視の先進医療との線引き求める
この日の中医協では、予定症例数が100例と大規模であることなどから、“患者申出”という趣旨に反するとの意見が相次いだ。診療側の中川俊男委員(日本医師会副会長)は、あくまで申出のあった個人の患者への実施を否定するものではないと断った上で、「エビデンスを出すことが目的ではなくて、従来の治療に遠距離、近くに先進医療をやっている医療機関がない、年齢が超えていたなど微妙なずれで先進医療を受けられなかった患者に対して患者申出で治療が受けられるという光がさす仕組みだ」と述べた。これらの患者数は大人数にはならないとの見方を示し、個別患者の評価を求めた。その上で、「100例集めるのであれば、(医療機関が主導して実施する)先進医療Bだ。新たに先進医療Bを立ち上げるのとどこが違うのか」と指摘。エビデンスを重視する先進医療との線引きを明確にすることを求めた。
また、制度本来の趣旨は、患者申出に基づいたものであるにもかかわらず、臨床試験の実施計画を作成した段階から、起点が臨床研究中核病院へと移っていることに懸念を示し、「臨床研究中核病院が何か手柄を立ててやろうという風に見えて仕方がない。せっかく良い仕組みを作ったのに、変質していきそうなことがしていきそうで心配だ。整理をもう少し何とかしてもらえないか」と求めた。
支払側の花井十伍委員(日本労働組合総連合会「患者本位の医療を確立する連絡会」委員)は、申出を行った患者に必要のない適格基準も緩和されていることを指摘した上で、「申し出た1人の患者に寄り添って、制度設計を構想すべき。申し出た瞬間に、専門家集団の臨床研究が主導していく設計は、患者申し出療養の最初の構想から考えると違和感がある」と述べた。また、「ある種、重篤なリスク、リスクを拡大させて、患者の願いであるからある程度自己責任で受けるということに保険を拡大するという話だ。拡大するというのは、中医協の場としても望ましくない」と述べ、必要以上に適格基準を緩和することに疑義を示した。
これらの指摘に対し、厚労省保険局医療課の迫井正深課長は、「疾患の特殊性もあるが、悪性腫瘍腹膜の播種を生じるケースはなかなか有用な治療がない。困難な状況にいる患者さんは相当数いる」と説明。「具体的に適格基準について運用させていただくということで整理している。個別の患者さんの該当性はこれでやらせていただきたい」と理解を求めた。その上で、“100例”という予定症例数については、「臨床研究中核病院からすれば、計画を出すということなので、見込みの数字を出したということもある。100例ありき、100例集めなければいけない、100例のエビデンスを作る、と研究ありきで先進医療Bと同じだというニュアンスが出てくる」と述べ、今後の制度運用については患者申出療養評価会議でさらなる検討を進める考えを示した。
また、患者申出療養で得られた安全性・有効性が先進医療の保険適応に与える影響については、「安全性・有効性でさらなる知見が得られた場合には、それ相応的に活用するという認識」と述べた。