厚労省 ノバルティスを刑事告発 降圧薬ディオバンの誇大広告で
公開日時 2014/01/10 03:52
厚労省は1月9日、降圧薬ディオバンの不正な臨床研究データを用いた広告宣伝が薬事法が禁止する虚偽・誇大広告にあたる疑いがあるとして、販売するノバルティスファーマと広告に関わった同社の社員(氏名不詳)を東京地検に刑事告発したと発表した。同省は、臨床研究データが不正であることを知りながら繰り返し広告宣伝に使用した疑いが深まったと判断。加えて、同省の調査では実態を解明しきれないとして刑事捜査に委ねることにした。虚偽・誇大広告の規定だけで刑事告発したのは初めて。
同省は同日の会見で「刑事告発なので、当然行政処分とは違い『故意』が必要になる」(医薬食品局監視指導・麻薬対策課・稲川武宣監視指導室長 写真手前)と説明。薬事法に基づく調査で、内容は明らかにしなかったが「新たな事実」をつかみ、不正なデータと知りながら広告に用いた故意の行為の疑いを深めたという。
薬事法違反の疑いがあるとされたのは、既存降圧薬より脳卒中や狭心症などの発症リスクを抑えるとした「JIKEI Heart Study」(東京慈恵会医科大学において実施)と、「KYOTO Heart Study」(京都府立医科大学において実施)の結果を記載した、2011年~12年にかけての「資材」。両研究結果は不正が疑われており、この期間にこのデータを用いた広告宣伝に関わったノバルティスの社員(氏名不詳、現時点で元職か現職は問わず)と同社が告発された。公訴時効が3年であることから、時効前の資材が対象となったが、いつのどの資材に違反の疑いがあるのかは、捜査に支障が出るとして明らかにしていない。
医薬食品局監視指導・麻薬対策課の赤川治郎課長(写真奥)は同日の省内での会見で、この問題について▽日本の臨床研究の質、信頼性を損なった▽不正なデータをもとにした広告宣伝が医療保険制度の中で行われた--という点で重大であるとの認識を示し、そのためにも実態解明が必要だと強調。安倍内閣の経済成長戦略の一環である日本版NIH設立によるライフサイエンス分野のイノベーションの根幹をなす臨床研究体制と、日本の医療を支える医療保険制度に触れる問題だけに、汚名をすすぐ必要に迫られていることをうかがわせた。同省は当面は地検の捜査を優先させ、事実関係が明らかになった段階で行政処分を検討する。
虚偽・誇大広告による薬事法違反の場合、個人に対し2年以下の懲役か200万円以下の罰金(併科可能)で、法人にも同様の罰金刑が科される。
告発を受けノバルティスファーマは同日、「皆さまに大変ご心配とご迷惑をおかけしましたことを、深くお詫び申し上げます。弊社はこの事態を極めて重く受け止めており、これまでと同様に今後も当局に全面的に協力して参る所存です」とのコメントを発表した。