EU理事会と欧州議会 創薬研究目的の匿名化医療データへのアクセスを容認 「EHDS法案」を暫定合意
公開日時 2024/03/28 04:51
EU理事会と欧州議会は3月15日付で、EU域内の電子ヘルスデータの利活用を可能とする「EHDS法案」(European Health Data Space)を暫定合意した。最終手続きを経て合意されると、EU域内であれば国境を越えて患者の診療記録、処方箋、検査結果などデジタル化された医療データへのアクセスが可能となる。また、政策立案や創薬研究などの目的で、公的機関、研究機関、企業などに匿名化された医療データへのアクセスを認める「2次利用」がEU全域で可能となる。
◎スペイン人旅行者がドイツの薬局で処方箋を受け取ることも可能に
EHDS法案は、2022年5月にEU域内の医療データの単一市場化を目指して提案されたもの。EUの発表によると、EHDS法案の暫定合意により、「スペイン人の旅行者がドイツの薬局で処方箋を受け取ったり、医師がイタリアで治療を受けているベルギー人の患者の健康情報にアクセスできるようになる」と説明した。また、自国以外のEU加盟国内に移動した場合であっても電子健康データに迅速かつ簡単にアクセスできるなどのメリットを訴求している。
具体的な医療データの利活用としては、患者本人が診療記録、処方箋、検査結果などの医療データを加盟国間で互換性を持った電子データとして保持することができる。一方で、創薬開発や研究政策の立案など「2次利用」も可能とした。ただ、実際の運用にあたっては、EU共通の診療記録の形式と電子診療記録(EHR)システムの互換性を規定し、加盟国間で医療データをやり取りするためのデジタルインフラ「MyHealth@EU」への参加を義務付けることが盛り込まれた。
◎2次利用におけるデータ提供で患者は「オプトアウト」を表明できる
なお、暫定合意にあたっては2次利用での扱いが焦点となった。2次利用については、バイオ医薬品の研究開発の目的で患者のデータが利活用されることを想定している。これに対し欧州議会はプライバシー保護の観点から懸念を示し、最終的には患者が2次利用におけるデータ提供について「オプトアウト」(許諾しない意思)を表明することができるとした。
◎日本でも電子ヘルスデータの利活用求める声 規制改革推進会議は「特別法」制定求める
日本でも電子ヘルスデータの創薬研究や臨床研究に利活用できる環境整備を求める声が製薬業界やアカデミアから高まっている。政府の規制改革推進会議は2023年6月に取りまとめた答申で、医療データの利活用を推進するための「特別法」の制定を提言している。実臨床で医療従事者等が医療データを利用する「1次利用」と、医学研究、創薬研究、国際共同研究等で利用する「2次利用」を、一定の条件を科した上で患者本人等の同意が無くてもデータの利活用を認める法整備と基盤構築を行うというものだ。答申では、厚労省と個人情報保護委員会に対し、個人情報保護法の制度・運用の見直しの必要性を含めて23年度以降、速やかに措置するよう求めている。