提供:IQVIAジャパングループ
医学・医療の発展を背景に薬物療法が進化を続ける中、医師をはじめとする医療従事者(以下、「医療者」)によるマネジメントや患者さんの自己管理だけでは、薬剤が本来備えているポテンシャルや価値を十分に引き出せない時代を迎えつつある。そこで近年、国内でも注目を集めているのが患者支援プログラム(Patient Support Program:以下「PSP」)だ。すでに欧米ではPSPが浸透し、治療継続のみならず、医療者と企業のリレーション強化、新薬のブランド認知などにおいても欠かせない取組みとして定着している。PSPのサービス提供のグローバルカンパニーであるIQVIAのGlobal Patient Services,
Service and Strategy DevelopmentのVice PresidentであるProcter John氏及び日本PSP事業推進担当である閭(リョ)琳(リン)氏に、海外におけるPSPの実施状況を踏まえ、同サービスを展開する意義や、日本で実践していく上での留意点などを語ってもらった。
治療継続支援で注目集めるも
まだまだ日本は黎明期
PSPとは、患者さん、医療者、製薬企業をはじめとするライフサイエンス企業の3者が新たな連携を構築しながら、治療の導入・継続において医療者や患者さんの行動変容を促し、アドヒアランスの向上等、よりよいペイシェントジャーニーの実現を支援するサービスだ。IQVIAが進めるPSPのキーパンソンとなるのが、“クリニカル・エデュケーター”と呼ばれる同社の専任看護師である。顧客企業の対象製品を使った治療を導入・継続するにあたり、現場の医療者との連携によって、プログラムに登録した患者さんに介入し、疾患や治療法、治療ステージ等に即した情報提供を通じて疾病管理をサポートすることで、治療アウトカムや満足度、患者QOLの向上といった付加価値の創出を目指している
(1。同時に顧客企業には患者さんや医療者からのフィードバックを共有し、現場のニーズを踏まえたプログラム更新、新たな資材・エビデンス構築やサービスの開発に役立ててもらうといった狙いもある。
このようなライフサイエンス企業が患者さんと直接・間接的に関わりを持つようなサービスが国内でも重要視されるようになり、PSP導入を検討する企業も増えている。背景の一つは、スペシャリティ領域の医薬品の増加である。新しい投与方法や作用機序により、使い方や副作用マネジメントが困難な薬剤が増えたことで、患者さんの疾患や薬剤への理解促進、副作用へのきめ細かな支援などが求められているからだ。加えて、外来投与や在宅医療へのシフトにより、適正使用推進の為の服薬管理や治療継続の支援も重要になっている。更に近年では特に新型コロナウイルス感染拡大によって、医療者との新たなチャネル構築等のコマーシャルエクセレンス手法の見直しも急務である。
2019年には経済産業省のグレーゾーン解消制度で、主治医・患者さん同意の下で、医療用医薬品を処方されている患者さんに看護師免許保持者が電話などにより情報提供
(2、服薬状況の確認等の患者支援プログラムの実施を検討している事業者の照会に対し、厚生労働省より「同サービスは医行為に当たらない」との回答がなされたことを契機に、PSPの導入が進んだ。しかし、早くからPSPを取り組まれている欧米に比べると、医療制度や文化の違いから日本ではまだまだ黎明期といった段階だ。
プログラムの最適化を図ることで
患者中心主義のサービス提供が可能に
「日本のライフサイエンス企業でなかなかPSPが広まらない要因の一つには、患者さんの治療継続、脱落防止を達成するだけでは費用対効果に見合わないと捉えている面があるのではないでしょうか。しかし、欧米の企業は30年以上前からPSPを展開し、今では企業活動のルーティンとして組み込まれ、しかもある程度売り上げが見込まれてからではなく、新薬の導入時点から考えるべき施策として一般的に受け入れられています。こういう支援プログラムを提供することで、真の患者中心主義(ペイシェントセントリック)のサービスを提供できるようになると考えます」とグローバルにおけるIQVIAのPSP責任者であるProcter John氏はこのように話す。例えば、ドイツでは多発性硬化症の薬で7つほどのPSPが組まれており、ノンプロモーショナルな企業活動の一環として行われているという。背景には、PSPがライフサイエンス企業に必要なあらゆる活動と強く結びついているからに他ならない。
一つは先述したペイシェントセントリックのサービスがライフサイエンス企業により求められているからだ。「治療におけるアンメットニーズを把握する上で患者さんとの接点を持つことは非常に大事ですし、希少疾患領域では患者さん一人ひとりの治療アウトカムや満足度をいかに高めて、QOL改善に繋げていくかという視点が重要になっています」(Procter John氏)
また、「新たなコマーシャルエクセレンス手法の構築が喫緊の課題となる中、PSPの実施を通して医療者のプログラムへの参加促進やプログラム登録患者さんの情報共有を図ることにより、医療者とのタッチポイントを増やすことも可能です」(閭琳氏)。加えて、治療継続やQOL改善などのエビデンスを構築し、学会や患者会を通じてプログラムに参加していない医療者や患者さんへ周知させることにより、競合他社との差別化なども期待できる。
欧米でPSPが進んだ理由は、PSPに対する規制が日本と比べて少ないことに加え、当初はプライマリー領域でも競合が激しく、また、医療機関では限られたリソースの中で患者さんをサポートしきれない面があったからだという。そこでライフサイエンス企業が医療機関をサポートする形でスタートし、徐々に治療継続への介入、医療者との緊密なリレーション、自社価値の社会還元の手法として広まった経緯がある。やはり根底には「患者さん一人ひとりによりよい治療を提供したい」というペイシェントセントリックの思想が流れているわけだ。
「日本の制度やシステムの違いもあると思いますが、ライフサイエンス企業は治験の際はSMO
(3を介して患者さんに長期間参加していただくような支援をしている一方、新薬が上市されると医師に対する活動に偏りがちだと言われます。しかし、特にスペシャリティ領域では、個々の患者さんが抱える悩みや不安は異なり、一概に薬だけで解決できるわけではありません。薬剤の継続的な使用促進だけではなく、1つの体験として捉え、プラスアルファのサービスで患者さんの満足度やアウトカムを改善し、薬の最大限の効果を引き出すと考えていただけるとPSPの意義が分かり、見方も変わると思います」(Procter John氏)
また閭琳氏は、「日本のライフサイエンス企業にとって、PSPが新しい取組みであり、通常の社内承認フローが当てはまらない為、PSP推進に当たってのボトルネックとなってしまうケースが多いようです。PSPを通じた薬剤ポテンシャルの最大化の実現には、企業関係者が部門間のサイロ化を解消し、よりスピーディーにPSPの実施判断をしていくことが重要になります」と指摘する。
ポイントは人とデジタルの協働と、
ニーズを踏まえたプログラム設計
一言でまとめるなら、PSPは医療者と患者さん、ライフサイエンス企業を強く結びつけるとともに、複雑化する薬物療法のアウトカムやQOLを最適化し、その価値を最大化していく仕組みであり、それぞれのステークホルダーにとっても今後欠かせないWin-Winのサービスといえそうだ。では実際にPSPを導入して成功に導くためにどのような点に留意しておけばいいのか。
「プログラム設計の際に、患者さんや医療者のアンメットニーズは何かをきちんと定義し、プログラムを通して患者さんや医療者にどのような価値を提示できるかをきちんと考えることが重要です。それによって更なるエビデンス構築に繋げることが可能になる等プログラムの成功に大きく関わります」(Procter John氏)
また、PSPとデジタルは部分的に親和性が高く、アプリ等を活用してオールデジタルでPSPを提供しようとする企業も少なくない。しかし、患者さん一人ひとりの症状や悩みは異なる為、デジタルだけではそれらの個別的な対応に限界がある。「そこはきちんと人とデジタルを組み合わせることで、より患者さんに寄り添ったサービスを提供できると信じています」とProcter John氏は話す。
IQVIA作成
まさにこれらはIQVIAにおけるPSPの特徴でもあり、プログラムの設計・運用においては世界35カ国以上の地域で、350以上のプログラムを提供し、多様な疾患領域をカバーしている。プログラムの設計・運用実績を積み上げていくことで成功例をブラッシュアップして横展開していくことも容易になる。また同社のPSP専従看護師は3300名を数え、医療者と患者さん、そして製薬企業をきめ細かくコーディネートできるのも同社ならではの強みだ。
「PSPは根本的に患者中心のサービスですが、医療者に意義のあるプログラムでなければ普及しません。われわれの培ったノウハウに基づいて医療者や顧客企業とディスカッションし、最終的に患者さんにも意義のあるプログラムをつくっていくことが当社の事業の中でも重要な軸になっています。医療システムや文化の違いはありますが、患者さんのニーズに大きな違いはないと思っていますので、日本でもPSPの考え方を浸透させ、患者中心の医療づくりに貢献していきたいと思います」とProcter John氏は今後の抱負を語る。
1) IQVIAが提供する看護師介入型PSPの実行可能性について、グレーゾーン解消制度の一つとして、2019年2月26日厚生労働省より回答あった(左記リンク参照:https://www.mhlw.go.jp/shinsei_boshu/gray_zone/dl/jisseki_03.pdf)
2) 医行為に該当しない、公表されている医療情報等
3) SMOはSite Management Organizationの略で、治験施設支援機関を指す
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