MRのセカンドキャリア ヘルスケア業界で経験活かせる 異業種からの参入企業も選択肢 Active-T座談会
公開日時 2022/10/24 04:50
武田薬品のOB有志らによるビジネスコミュニティ「Active-T(アクティブ・ティ)」は10月21日、「MRのセカンドキャリア 転職するうえでの欠点-新天地はどこにあるのか-」をテーマにメディア向け座談会を開いた。製薬各社が早期退職者を募集し、MRが業界内の転職市場で飽和状態にあるなか、参加者からは、MR経験はヘルスケア業界で活かせるとの考えが示された。経験を活かせる“新天地”としてはヘルスケア関係の市場調査会社やコンサルティング企業のほか、異業種からヘルスケアに新規参入した企業、データヘルスに関連した企業が選択肢として挙がった。なかでも異業種からの参入企業は医療や医療機関に精通した営業担当者を求めている一方で、「ミスマッチが起こっている」との意見もあった。
座談会は、武田薬品でMRなどの経験がある専修大学商学部教授の高橋義仁氏をファシリテーターに、1994年当時の武田薬品経営陣(武田國男社長)とともに人事制度改革プロジェクトに関与したみのり経営研究所代表取締役の秋山健一郎氏、元ファイザーMRでコンサルティングファーム「コーン・フェリー・ジャパン」のシニアビジネスディベロプメントディレクターの野見山健一郎氏が意見を交わした。
◎価格交渉できない営業経験は「むしろ強み」
野見山氏は、MRは生命関連製品を扱い、専門性の高い医師にそれぞれのニーズを把握した上で情報収集・提供活動や処方依頼を行い、地域医療連携の視点での活動なども行っていることから、「MRは、全員とは言わないが、他の業界の純粋な営業よりも極めて高いレベルの仕事をしている」と述べた。MRが価格交渉できないことに触れながら、「本当に顧客志向でないとできない仕事。手を変え、品を変え、医師とコミュニケーションをとりながらスイートスポットを探し当てる。顧客志向のレベルは相当高い」との認識も示した。
MRに価格交渉経験がないことが転職後の弱みになると見る向きもあるが、野見山氏は「弱みと思いつつも、実は今の最新の営業に求められていることを踏まえると、むしろ強みと考えられる」と指摘した。この理由として、製薬業界以外で「コト消費(=商品購入で得られる体験や価値)」を訴求する営業スタイルを求める傾向が高まっていることを挙げた。このような点からもMRの価格に頼らない顧客志向のマインドセットは製薬企業以外でも通用するとの見方を披露した。
高橋氏は、「MR活動は単純な営業ではない。多面的な情報を扱う」と述べ、意思決定者の個々のニーズを見極めながらアプローチする活動は高度なスキルとの認識を示した。ただ、価格交渉に関しては「ビジネスの基本的な部分」と述べ、製薬企業以外の営業職への転職を視野に入れる場合は価格交渉についても勉強しておく必要があると指摘した。
秋山氏は、武田薬品での人事制度改革の仕事の際に、営業以外の職種にMRに期待する役割を聞いたところ、「医師や病院からの情報が欲しい」との声があったといい、医師らからホンネを聞くことができることはMRならではのスキルとの認識を示した。転職を検討している人に対しては、「これまで培った経験に、もっと自信をもってもらいたい」とエールをおくった。
◎「異業種はヘルスケアをやりたくてしょうがないと思っている」
MRの製薬企業以外の転職先については、野見山氏と高橋氏が、「MRとしての経験はヘルスケア業界など他業界でも活用できる」と述べた。MR経験者が市場調査会社やコンサルなどに転職することはよく聞かれるが、野見山氏は凸版印刷が医療・ヘルスケア領域に参入したことを引き合いに、異業種からヘルスケアに新規参入する企業の情報収集を提案するなど、「視野を広げて情報収集する、学んでみることも重要」とアドバイス。高橋氏も、「異業種はヘルスケアをやりたくてしょうがないと思っている。なんでこれほどミスマッチが起こっているのか。私自身、ヘルスケア業界について色々聞かれており、本当にニーズがある」と話した。
秋山氏は、日本の労働人口の減少を踏まえ、転職市場は明るいと強調した。転職のネックは、製薬企業から転職後に下がるケースの多い給与面だとしたものの、「どのような人生観、仕事観で生きていくか。給料が上がった、下がった以外の視点も持ってもらいたい」と語った。
◎キャリアの棚卸しを
このほか、転職活動で成功するために、自身の営業成績や予算達成率の結果をアピールするだけでは不十分との指摘も出た。野見山氏は、「『達成率160%だった』との結果を言われても、(求人側の採用担当者は)取れちゃったの?と思ってしまう。自身で仕掛けて取ったのか、この部分を知りたい」と述べ、成績達成に向けて取り組んだエピソードや、失敗した時に何を学び挽回したのか、弱みに対してチームや他部門とどのような連携をとりパフォーマンスを出したか――などを整理して簡潔に話せるように準備することが重要と説明した。
困難とされる中高年の転職についても、長いキャリアの中で「成功も収めてきているはず」だとし、キャリアの棚卸しをしてシンプルな言葉で伝えることで印象が変わるとアドバイスした。