欧EMA アルツハイマー病治療薬・アデュカヌマブの承認否決を勧告 エーザイ・バイオジェンは再審議請求
公開日時 2021/12/20 04:51
欧州医薬品庁(EMA)の医薬品委員会(CHMP)は12月16日(現地時間)、アルツハイマー病治療薬・アデュカヌマブ(製品名:アデュヘルム)を承認しないと勧告したと発表した。EMAは、「アミロイドβの減少とアルツハイマー病の臨床的改善との関連が確立されていない」と“アミロイドβ仮説”そのものに疑問を投げかけた。さらに、2つの臨床第3相試験の結果が矛盾していることも問題視したほか、アミロイド関連画像異常(ARIA-E(浮腫))があることから安全性にも疑問を投げかけ、「ベネフィットがリスクを上回っていない」と結論付けた。これを受け、バイオジェンとエーザイは17日、「再審議を請求する予定」であることを発表した。
CHMPは11月に、アルツハイマー病治療薬・アデュカヌマブの販売承認申請について否定的なTrend Voteの結果をバイオジェンとエーザイに通告しており、これを受けたものとなる(
関連記事)。
同剤をめぐっては、アルツハイマー病の初期段階(軽度認知障害および軽度認知症)の患者3000例以上を対象に有用性が検証された。「EMERGE」、「ENGAGE」の2本の臨床第3相試験が実施されたが、独立データモニタリングコミッティが無益性(Futility)解析により、主要評価項目が達成される可能性が低いと判断したことを踏まえ、2本の臨床第3相試験を中止した。その後、新たな症例を加えた最終解析を行い、EMERGE試験では主要評価項目を達成したが、ENGAGE試験では主要評価項目を達成できなかった。
これを受け、EMAは、「主な研究結果は矛盾しており、全体としてアデュカヌマブがアルツハイマー病の初期段階の治療に有効であることを示していない」と指摘した。また、MRI所見で脳にアミロイド関連画像異常(ARIA-E(浮腫))が認められるケースがあることが指摘されている。EMAは、「一部の患者の脳スキャンからの画像が腫れや出血を示唆する異常を示し、潜在的に害を及ぼす可能性がある」として、「薬が十分に安全であることを示していなかった。また、臨床診療で、適切な管理、監視ができるか明確ではない」と指摘。「ベネフィットがリスクを上回っていない」と結論付けている。
◎バイオジェン 「早期段階における治療選択肢がないことは切実な問題だ」
これを受け、エーザイとバイオジェンは12月17日、再審議を請求する予定であることを公表した。バイオジェンのPriya Singhal Head of Global Safety & Regulatory Sciences and interim Head of Research & Development.は、「欧州で、アルツハイマー病の早期段階における治療選択肢がないことは切実な問題だ。時間が経つほど、より多くの当事者の病状は進行し、治療の機会を逃す可能性が高くなる」との見解を表明。「バイオジェンは、この薬剤をEUの当事者に届けることを目指し、再審議プロセスにおいて、CHMPの見解の根拠に対処するように努める。欧州の当事者の方々にも、ADの革新的な治療法をお届けすべきと考えている」としている。CHMPは再審査の請求の根拠を受領してから60日以内に、見解を再検討するとしている。
同剤をめぐっては、米FDAが6月、アミロイドβを減少させることによる改善効果を認め、追加的なRCTの実施を条件に、迅速承認した。一方で、審査に際しては、昨年11月に開かれたFDAの末梢・中枢神経系薬物諮問委員会ではエビデンスが不十分との専門家の見解が大半を占めていた。迅速承認後に、諮問委員会の委員のうち、3人が委員を辞任。米保健福祉省監察総監室が調査を実施するなどの事態に発展している。
◎日本は22日に薬食審・医薬品第一部会で審議へ
認知症をめぐっては、アミロイドβ仮説に基づいた開発に挑んだ多くのメガファーマが開発に頓挫しており、極めて高いアンメットニーズが存在する。患者団体をはじめ、新薬を求める声は高まっている。今回EMAがアミロイドβ仮説そのものについて、「アミロイドβの減少とアルツハイマー病の臨床的改善との関連が確立されていない」とスタンスを明確にしたことも大きい。日本では、12月22日に、薬食審・医薬品第一部会で審議される予定で、その結果が待たれる。