ギリアド・ハーマンス社長 ADC・トロデルヴィの国内開発に意欲 トリプルネガティブ乳がんで
公開日時 2021/02/05 04:50
ギリアド・サイエンシズのルーク・ハーマンス社長は2月4日、オンライン会見に臨み、トリプルネガティブ乳がんに期待される抗体薬物複合体(ADC)トロデルヴィ(Trodelvy)の日本での開発について、厚労省やPMDAと相談しながら前向きに検討する考えを表明した。同剤は米国で承認され、欧州も2021年前半に承認の見通し。日本は開発準備中となっている。ただ、再発・難治性トリプルネガティブ乳がんを対象とした臨床第3相試験(ASCENT試験)の結果が昨年のESMOで発表され、既存療法に比べて生存期間を2倍近く延長したとして注目を集めた。ハーマンス社長は、「まだまだ早い段階」と慎重姿勢を示しながらも、ビジネスユニットなど社内体制づくりを含めて、「どういう形でやっていくか考えていきたい」と意欲を示した。
◎表開発本部長 トロデルヴィ がん細胞に選択的にダメージを与える
この日の会見で、表雅之開発本部長は同社の開発パイプラインを説明した。同社は、ウイルス性疾患、炎症性疾患と並んで、がんを主要領域の一角に据えている。特に同社は、これまで化学療法剤が効かなかった再発・難治性トリプルネガティブ乳がんに有効なトロデルヴィをパイプラインとして持つ。同剤は、抗体に低分子の抗がん剤を結合させた抗体薬物複合体と呼ばれるもの。モノクローナル抗体が標的とするがん細胞に選択的に結合し、がん細胞に取り込まれることで、結合している抗がん剤を放出し、がん細胞に選択的にダメージを与えることができる。
欧米で2剤以上の抗がん剤の治療歴のある再発・難治性トリプルネガティブ乳がんの患者を対象に行ったASCENT試験においては、患者の生存期間がトロデルヴィで12.1か月、標準薬で約6.7か月と約2倍近く延長したことが明らかとなった。
◎「厚労省、PMDAと相談しながらやっていきたい」
表開発本部長は会見で、「トリプルネガティブ乳がんは、乳がん全体の15%と頻度は高くないが、50歳未満の女性やがん細胞の増殖能力が高く生存期間が短いなど、予後不良のがんと呼ばれている」と指摘。「日本において承認を早期に取得すべく、開発について現在検討しているところ」と説明した。また、同剤が標的とするTrop-2タンパクは乳がんだけでなく泌尿器系のがんや肺がんなどの固形がんにも発現するとし、他のがん種への適応拡大も期待できると見通した。一方、ハーマンス社長も、「ビジネスユニットを作ってそこで展開していくための準備をしている段階。厚労省、PMDAと相談しながらやっていきたい」と述べた。
◎JAK阻害薬ジセレカ 潰瘍性大腸炎は2021年前半に申請へ
開発パイプラインについては、昨年11月に薬価収載されたJAK阻害薬ジセレカがある。関節リウマチを適応とする薬剤で、プロモーションはエーザイと共同で行っている。この日の会見で表開発本部長は、潰瘍性大腸炎とクローン病への適応拡大を目的とした開発が進んでいることを報告した。潰瘍性大腸炎は国際共同第3相試験(SELECTION試験)に日本から50施設が参加し、110例を組み入れることができたという。表開発本部長は、「試験の主要評価項目は達成しており、現在申請にむけた準備をしている。今年前半に申請する予定で、発売は22年前半を見込んでいる」と期待感を示した。一方、クローン病については、「現在第3相試験(DIVERSITY試験)を継続中で日本からも参加している」と報告した。
◎ベクルリー 添付文書改訂で「重症患者のシバリが取れ、より早期の使用が可能に」
新型コロナウイルス治療薬として注目を集めたベクルリー(レムデシビル)にも触れた。同剤は今年1月の添付文書の改訂で、重症患者のシバリが取れ、より早期の使用が可能になった。その根拠となったのが米国のACTT-1試験だ。この試験は第3相の二重盲検プラセボ対照多施設国際共同試験。主要評価項目の「回復までの期間」は、軽症/重症/重篤患者で期間を5日間短縮。副次評価項目の「臨床症状の改善/重症化の抑制」は、侵襲的人工呼吸器による治療が必要となった患者はプラセボ群に比べて43%減少。さらに死亡率は低流量酸素呼吸を必要とする患者群で、死亡率を70%低下した。こうしたエビデンスをもとに、厚労省の「新型コロナウイルス感染症COVID-19診療の手引き」の重症度分類において、中等症Ⅰ、中等症Ⅱ、重症の全てがベクルリーの適応となり、より早期の使用が可能になったと説明した。
◎ベクルリー 吸入製剤「第3相実施可能性を検討」
表開発本部長はまた、「軽症のコロナ患者を対象にレムデシビルの吸入製剤の第2相試験を米国で実施している」と明かした。日本での開発については、「第3相試験が始まった時に、日本でどの程度の患者がいるのか、あるいは吸入製剤の試験を日本で出来るのかを含めて検討したい」と述べた。
(訂正)下線部の時期の表記に誤りがありました。訂正します。(2月5日16時35分 訂正済)