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【FOCUS 社会保障給付の範囲見直し 給付の哲学に沿った議論を】

公開日時 2019/07/29 03:52
先の参院選で安倍政権が信任されたことを受け、早くも政府部内では社会保障給付の範囲の見直しに関する水面下での検討が静かに始まった。10月には消費増税改定が、今秋からは次期2020年4月の薬価・診療報酬改定をめぐる議論が本格化する。いずれも製薬産業の根幹を揺るがす議論となるだけに、予断は許されない。(望月英梨)

※Monthlyミクス8月号(8月1日号)では、社会保障給付の範囲の見直しの行方について特集します。ご期待ください。

これからの日本の人口構造は、社会構造や社会システムに影響する。年金、医療、介護など各制度の「給付」と現役世代の「負担」という2軸のバランスが、もはやリスクとなりつつある。社会保障給付の範囲をめぐる議論は、これまで幾度となく行われたが、結論を得るには至らず、改革そのものも小幅な手直しを繰り返すことに終始してきた。2025年には団塊世代への給付が拡大する。一方で、労働生産世代の減少から社会保障制度の存続に絡む構造的な課題が表面化する。2020年度は薬価・診療報酬改定と同時に、給付と負担の見直しについて最終決着を図らなければならないギリギリのタイミングだ。

◎人口構造の変化、社会インフラの革新など議論の切り口は多彩

世界に類を見ない超高齢社会に立ち向かう-。安倍政権は10月の消費税率10%への引き上げを経て、2011年に閣議決定された「社会保障・税一体改革」に一つの結論を出すことになる。その最終の姿こそ社会保障給付の範囲の見直しだ。戦後から高度経済成長期を経て、右肩成長の中で成熟してきた日本の社会保障制度。持続的安定的制度への再構築を幾度となく議論し、医療分野に限って言えば、患者窓口負担の見直しやサービス供給体制の効率化を目的とした制度改正、さらには医療資源の適正配分を目的とした診療報酬改定などが激しい議論の中で行われてきた。一方で、インターネットの普及や人工知能(AI)やビッグデータの利活用、さらにはIoTに代表されるSociety5.0の社会が到来するなかで、社会構造や社会システムそのものが変化し、ヒトの意識や行動を変容させる。さらに、社会保障制度を構成する現役世代の働き方や、労働生産性の向上などに強い影響力を発揮するようになってきた。これに加えて、日本全体を人口減少が襲い、地方経済や日本の基幹産業などにも変化の波が訪れようとしている。

◎医療資源と医療保険をいかに効率的に活用するか


「今後医療費が伸長する一方で、保険料の負担を増やすことは難しい。こうしたなかで、中期的に考え、どこに重点を置いて医療保険を用いるか考えなければならない」-。厚労省の鈴木康裕医務技監が本誌インタビューにこう語ったのは17年夏のこと(本誌17年9月号掲載)。是非、記事をご覧いただきたいが、鈴木医務技監が口にしたのは、医療資源と医療保険をいかに効率的に活用するかだ。

日本の病院は、“デパート方式”と揶揄されるほど、すべての機能を揃える。地域住民にとって利便性が高い一方で、医療資源の効率的な活用法とは言い難い面がある。医師の働き方改革が叫ばれ、同時に病院機能も集中と選択が迫られている。あわせて議論が進むのが、薬剤師や看護師へのタスクシフティングの議論だ。医療費の効率化だけでなく、各職種が職能を発揮することで、医療の担い手が減少しても質の高い医療の実現を目指す。これは、いまの地域医療構想実現を通じた、医療機関の機能分化・強化の流れとも一致する。

一方で、医療用医薬品も3000万円超の薬価をつけたCAR-T細胞療法が登場するなど、革新的技術の進展に伴って、医療保険と革新的技術をいかにバランスするかの議論は難しさを増す。再生医療などでは民間保険の活用を上げる声もある。ただ、医療保険制度の基本理念に立ち返るとすれば。医療必要度の高い技術や高額の医薬品は公助との考え方になる。その一方で、医療の必要性の低いものや、エビデンスが十分でないもの、さらには費用対効果評価の低いものについては、選定療養とする考え方も一理あるだろう。

フランスでは、医療必要度などに応じて、給付率に差を設ける制度を導入している。これからの議論においては、単に財政論でみるのではなく、過去から現在までの流れを十分に検証すると同時に、時代の変化(最新テクノロジーの導入効果等)を踏まえたエビデンスベースの議論が求められるだろう。

2002年の通常国会で成立した医療制度改革法案の付則には、「医療保険の患者負担率を将来にわたって3割で維持する」ことが明記されている。当時、患者窓口負担の引き上げをめぐり、医師会や与党・自民党、さらには利害関係者の意見が激しく対立し、議論は二転三転した。当初予定した改革メニューの一部が調整過程で頓挫することもあった。今回の給付と負担の議論は、まさに約20年の時を経て行われることになる。さらに政府がその先に見据えるのが、アウトカム評価への布石でもある。政府はデータヘルス改革を進めるが、その先には提供する医療サービスとその価値を紐づけ、エビデンスベースで評価する世界がやってくる。


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