NHS発足70年 ABPIが選ぶ画期的薬剤ベスト10
公開日時 2018/09/07 03:50
英国製薬工業協会(ABPI)はこのほど、今年で英国民保健サービス(NHS)が発足して70年を迎えたことを記念、NHSがその70年間で保険償還した画期的な医薬品のうち、患者アウトカムの著しい改善や社会経済的影響の大きかった薬剤10剤を選んだ。英コンサルタント企業OHE Consultingによる、ABPIの委託研究報告書「The Impact of New Medicines in the NHS: 70 Years of Innovation」(NHSにおける新医薬品の影響:イノベーションの70年)で明らかにした。
報告書は、OHE Consultingが、NHS、MHRA(英医薬品庁)およびNICE(国立医療技術評価機構)などの官僚を含め、医師、薬剤師、科学者など医薬品に精通した専門家と面談、各医薬品についての患者アウトカムや社会経済的影響が大きかったとされる医薬品を選択してもらい、まとめた。以下が10剤の画期的薬剤である。
▽クロルプロマジン(1953年発売)。1951年に合成された初めての抗精神病薬で、NHSは1954年に採用した。「精神薬理学的革命」の基盤とされ、精神疾患患者に対して、脱施設化と地域社会での治療の道を開いた。
▽ポリオワクチン(1955年発売)。同ワクチン採用以来11年で英国からポリオは撲滅され、1958年から2018年の間で1万人が救命されたと見られる。
▽経口避妊薬(1961年発売)。通称「ピル」は、数百万人の健常人が毎日服用する最初の医薬品となり、医薬品のリスクとベネフィットを考慮するうえでの新たなダイナミクスを生むことになった。
▽第2世代から第4世代ペニシリン(1961年発売)。現在、薬剤耐性と過剰使用の問題はあるものの、医薬品の歴史上、最も重要な開発品の一剤とされている。
▽β遮断薬(1965年発売)。同剤を服用する心疾患患者では死亡率の相対リスクを35%減少させるという強力なエビデンスを持っている。
▽β2作動薬(1969年発売)。1960年代半ばの英国では、15~44歳の年齢層では10万人に3人が喘息で死亡していた。しかし、10年後にはβ2作動薬など抗喘息薬の寄与により、その死亡率は30万人に1人まで低下した。
▽タモキシフェン(1972年発売)。乳がん治療を大きく変える重要な開発となった。1988年に全国での乳がんスクリーニングシステムが導入されると同剤の寄与もあり、乳がん死亡率が有意に減少した。
▽免疫抑制薬(1972年発売)。免疫抑制剤は、1960年代に臓器移植の実施を促した。1983年にサイクロスポリンが登場、近代臓器移植の道を切り開いた。
▽HIV/AIDS抗レトロウイルス剤。ジドブジンが最初の抗HIV薬となった(1987年)。その後、多剤併用療法(cART)の進展が罹患率と死亡率を改善させた。cARTは死亡率を半減させたことを示した。
▽MMRワクチン。1948年には麻疹は40万例で327人が死亡。1968年の麻疹ワクチン導入で罹患率と死亡率は顕著に減少した。1994年は麻疹による死亡が1例もない年となった。
ABPIのSheul Porkess 副科学最高責任者(CSO)は、過去70年を回顧し、「今後70年で、我々は遺伝学におけるエキサイティングな新研究、人工知能(AI)および個別化医療が多くの複雑な疾患を治癒・治療がいかに進歩したかを祝いたいものだ」と今後70年の科学の進歩に期待感を示した。