16年度診療報酬改定 病院機能明確化で急性期、在宅、療養病床 競争激化か 全日病セミナー
公開日時 2016/02/23 03:51
2016年4月実施の診療報酬改定で、病院機能が明確化される中で、病院経営の戦略立案においても、地域の医療需要を分析、シミュレーションすることの重要性が高まっている。特に、16年度改定で影響が大きいとみられる急性期病床、在宅医療、療養病床では、競争の激化が見込まれる。
診療報酬改定をテーマに、全日本病院協会主催の「2025年に生き残るための経営セミナー」が2月19日開かれた。セミナーで、各演者が図らずしも口にしたのが、地域における医療需要の“分析・シミュレーション”の重要性だ。
◎療養病床 医療区分見直しで経常利益吹き飛ぶ可能性も 重症患者獲得競争も
2017年度末に看護配置25対1の病床廃止が予定される療養病床だが、転換先として看護配置20対1の療養病床のほか、居住スペースに主眼を置き医療を提供する新類型が検討されている。こうした流れを踏まえ、16年度改定では、看護配置30対1以上の新基準を新設したほか、医療区分の厳格化などが行われる。医療区分の見直しでは、▽酸素療法で医療区分3の要件を限定、▽頻回の血糖検査でインスリン製剤等の注射なしは医療区分1、▽うつ症状で精神保健指定医以外が投薬した場合は医療区分1—となる。
慢性期・在宅をテーマに講演した全日病の安藤高朗副会長(医療法人社団永生会理事長)は、療養型病院100床の病院での試算を行った結果を示した。医療区分の見直し3つが重なると年間5580万円の減収にあたり、経常利益がほとんどが吹き飛ぶとのデータを示した。その上で、こうした影響を防ぐためには「急性期病院から慢性期病院、重症な患者を積極的に引き受けていくことが大事なのではないか。慢性期病院でも医師をはじめとしたスタッフの意識改革を行っていく。急性期病院との連携をさらに深くしていくことが必要だ」と述べた。
さらに在宅・介護施設でも重症患者を受け入れていく流れがあるとし、「重症患者(医療区分2、3)の獲得競争が起きるのではないか」と指摘。その上で、自院の患者像やマンパワー、設備などを把握し、地域における自院の立ち位置を早期に見極めることの重要性を強調。「きっちり分析していくことが大事。将来的な人口動態や疾病構造、他の施設との競合状況などを合わせてどう医療貢献していくか。病院に固執するよりも、医療にこだわって生き残る選択、姿勢が必要なのではないか」と述べた。
◎神野副会長「ICUから7対1への転換も」
急性期医療・ICTをテーマに講演した神野正博副会長は、7対1入院基本料の厳格化について、「厳しい。これを目指すために、急性期病院は色々考えないといけないのかなと思ってしまう」と述べた。重症患者の割合は25%以上に引き上げられるが、現時点で自院の恵寿総合病院(石川県・七尾市)は23%で基準をクリアできていないことも引き合いに病棟転換などのシミュレーションも披露し、「生き残りのためのシミュレーションが急務」と強調した。
神野副会長は7対1だけでなく、特定集中治療室の重症度、医療看護・必要度も厳格化したとの見方を示した上で、(7対1入院基本料の重症患者割合である)25%にならないのであれば、やめることを考慮することもひとつの選択肢との考えを表明。「手術直後の患者ばかりの病院であれば、7対1に転換することも必要になる。医療機能の分化とは逆になるが、病院が生き残るためには考えないといけない」と述べた。
DPCをテーマに講演した美原盤副会長(公益財団法人脳血管研究所美原記念病院院長)は、地域医療構想を見据えてDPCデータを分析することの重要性を強調。急性期病棟機能の評価である手術件数とその地域におけるシェアを示しながら「手術件数がシェア率10%などで、地域に本当に必要とされる医療なのかということをもう一度考えることが大事かもしれない」と述べた。二次医療圏ごとの患者占有率もわかることから、低率な地域の医師会と連携し、講演会を行うなどして、紹介患者を増やすことも一考とした。「制度を理解し、地域のニーズを分析した上で、地域医療を行うことが必要だ」と強調した。
◎薬価引き下げ 猪口副会長「表向きより厳しい」
16年4月実施の薬価改定による病院経営への影響も懸念されるところだが、猪口雄二副会長は、薬価と市場での取引価格の差である平均かい離率が2015年9月の速報値で8.8%、調整幅である2%を引いた平均6.8%の薬価引き下げがあると説明した。その上で、年間販売額1000億円超などの医薬品の薬価を引き下げる特例拡大再算定や市場拡大再算定が、“外枠”で引き下げられていると説明した。「今回はもっと下がる。表向きよりも厳しい改定だ。4月から薬価が下がったら医薬品卸も粗利を確保するのが大変だ。4月以降の交渉は厳しい」と指摘。未妥結減算のルールもあることから、200床以上の大病院などでは「早めに手を打たないといけない」との見方を示した。