中医協総会 かかりつけ薬剤師の薬を“減らす”実績評価 残薬管理、多剤処方に職能発揮
公開日時 2015/11/09 03:52
厚生労働省は11月6日に開かれた中医協総会に、患者の高齢化が進む中で、多剤処方や残薬管理について、かかりつけ薬剤師の職能を発揮させることで、処方薬剤を減らし、医薬品の適正使用を進める調剤報酬・診療報酬改定の論点を示した。高齢者の多剤併用では、かかりつけ薬剤師とかかりつけ医が連携し、患者の処方薬剤を減少させる取り組みを行うことで、処方薬剤が減少した“実績”を評価する仕組みを導入することを提示した。残薬解消に向けては、処方箋様式に残薬調整にかかわる医師の指示欄を設けることを打ち出した。年間約500億円とも言われる残薬解消に加え、高齢者の認知症患者などでの薬剤起因の有害事象の発生を減少させる上で、地域包括ケアの中で、かかりつけ薬剤師としての職能を発揮することの重要性が高まることになりそうだ。
高齢化が進む中で多剤併用(ポリファーマシー)や、それに伴い残薬の増加は、薬剤費の増大だけでなく、薬剤有害事象の発生率の増加などの課題もはらみ、社会問題化している。実際、6剤以上投薬すると薬物有害事象が増大することや、服薬回数や剤数の増加によって患者のアドヒアランスが低下するとのデータもある。
この日、厚労省は今年医療課委託研究として、保険薬局薬剤師に薬局の機能にかかわる実態調査を行った結果を提示。残薬や多剤・重複投与を減らす上で効果的だと考えられる医療機関と薬局との連携として、「患者の服用情報を踏まえ、医師と検討・相談して、粉砕や一包化等の工夫をすること」、「患者の服薬状況について、お薬手帳や電話連絡などを用いて医師に情報提供すること」をあげた。その結果として、患者の服薬コンプライアンス上昇や副作用の回避、医師の負担軽減などにつながったことも示した。今年改訂された日本老年医学会の「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」など、薬剤を減少させるためのツールもある。
こうした中で、多剤併用の患者に対し、「医療機関、医療機関と薬局の連携により、処方薬剤を減少する取り組みを行い、処方薬剤が減少した場合について評価すること」が論点となった。
ただ、薬剤師の疑義照会などを通じた処方提案などは、薬剤服用歴管理指導料に含まれているとの指摘もある。支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)は、方向性に同意を示した上で、「薬剤服用歴管理指導料の算定要件で、薬剤師の本来業務だ」と指摘。「本来業務をやっていないことに対してペナルティーを課す方がいいのではないか」と続けた。さらに、「能動的に働いた薬剤師を評価するというのはあるが、処方を変えた医療機関も同時に評価するのか」と医療機関への評価には疑義を呈した。
調剤報酬上では、すでに疑義照会を通じ重複投与などを回避した場合の評価として「重複投薬・相互作用防止加算」があり、薬局側にインセンティブが付けられている。これまでは、薬剤服用歴の管理に重きが置かれていたが、より薬を減らす“実績”を評価する方向に舵が切られる。今後は、加算の拡大も視野に、議論が進むことになりそうだ。
◎残薬調整 残薬調整の可否指示欄で処方箋様式変更
残薬については、処方箋様式に残薬調整の可否にかかわる医師の指示欄を設けることを論点として示した。後発医薬品の使用促進のため、変更調剤が不可な場合の指示欄を設けるよう、処方箋様式を変更したことを踏まえたもの。
現状では、「患者が急いでいたり、医師への連絡を嫌がるなど、患者の同意が得られない」、「医師が多忙でなかなか連絡がつかない」ために、薬剤師が残薬解消に向けて職能を発揮するのが難しい。一方で、こうした課題克服に向けて、事前に残薬調整による取り組みを決めていた医療機関では、疑義照会が減るなど効果をあげており、薬剤師の判断で日数を減らすことが残薬解消に寄与していることも示した。
これに対し、診療側からは、「長期処方をやめるということで、ある程度対応できるのではないか」(松本純一委員・日本医師会常務理事)、「もともとの医療機関の処方箋を直すのが筋で、提案は間違っている。残薬が適正化した場合には、処方箋料で評価していただきたい」(松原謙二委員・日本医師会副会長)など反対の声があがった。松原委員は、抗生剤・ミノサイクリンを例に出し、使用期限を超えると有害事象が発現する薬剤があるとして、医薬品の箱にしか有効期限が記載されていない現状では、「ひとつの薬局で管理することは無理」と指摘した。
一方で、支払側の幸野委員は、「処方権を担保した上で、薬剤師の判断を加える。この方向性は間違っていない」と述べた。