勢いで新しい世界に飛び込んでしまおう――留学でも、転職でも、結婚でも
公開日時 2013/09/02 05:00
イーピーエス株式会社
榎戸 誠
【勢いで】
「誰しも、これまで勢いでやったことが何かしらあると思います。勢いで大きな買い物をした、勢いで転職した、あるいは勢いで結婚した、というように。『勢いで』というと、どこか冷静な判断を忘れて、無謀にも、という印象になりがちですが、そもそも『勢い』を利用しないと、大きなことにはチャレンジできないと思うのです」。
「何か新しいことを始めるときも、その場にとどまったまま入念な準備をしてから、ある程度の知識を身につけてから始めようと考えるのではなく、とにかく始めてしまう。新しい世界にとにかく飛び込んでしまう。そこにはさまざまな難関があるかもしれませんが、その都度『ああでもない』『こうでもない』と対処していく。現場に飛び込んだからこそ見えてくる問題点もあるでしょう。それにもからだを動かして対処していく。するとどんどん加速がつき、自信がつき、ずっと早く多くのことを吸収できると思っています」。
『「時間がない」から、なんでもできる!――時間密度を上げる33の考え方』(吉田穂波著、サンマーク出版)の著者は、このように断言している。著者は、産婦人科医としての仕事を続けながら、小さな3人の娘の子育てをし、家事をこなし、そして留学の受験準備を進めて、遂に米国のハーヴァード公衆衛生大学院に2年間、留学するという夢を実現してしまったのだから、説得力がある。
【著者の夢】
「仕事で患者さんと向き合うと、この患者さんにベストな治療方法はAとBのどちらかと迷うときがありました。『経験から判断するとAのほうが適切に感じる。でも患者さんに納得してもらうにはここにその科学的根拠を示す統計データが必要』と思うのですが、女性医療の分野には日本人固有の研究が乏しく、それが『やっぱり統計のスキルを身につけたい。そのための留学を絶対に実現させよう!』という受験勉強のモチベーションアップにつながりました」。
著者はかなり欲張りである。「私は留学先で治療の根拠となるデータづくりをする疫学・統計学を学びたいと考えていましたが、それ以外にも、女性であることが弱みにならないような何かを見つけたい、臨床の第一線で現場に張りつく仕事はできなくても、社会に貢献できるようなスキルを身につけたい、と考えていました。そのため、子育て中の女性がどんな環境で勉強できるのか、それを知りたかったのです」。
3歳、1歳、0歳の3人の娘を連れ、妻の留学のためわざわざ休職してくれた夫と共に、米国のハーヴァード公衆衛生大学院に留学(修士号取得)することによって、著者は、「仕事も続けたい」、「留学もしたい」、「子だくさんの母でもありたい」(現在は、8歳から3歳までの4児の母)という欲張りな夢を実現してしまったのだ。
【数々のハンディキャップ】
こういう夢を実現した著者はスーパーウーマンと思われがちだが、実は数々のハンディキャップを乗り越えてきたのである。
仕事面では――、
「寝坊常習犯の元落ちこぼれドクター」だったと白状している。「研修医時代を私は聖路加国際病院で過ごしましたが、そこで私はかなりの落ちこぼれレジデント(研修医)でした」。
経済面では――、
「私は留学生で無収入。夫は研究員として留学したので、やはり無給でした」。
育児面では――、
幼い3人の娘を育てるだけでも大変だろうに、「この留学生活の後半に妊娠し、大学院を卒業して帰国する直前に、四女を出産しました」というタフネスぶりだ。
米国生活は――、
高額な保育園問題、これも高額な医療保険問題、とんでもない大家との住宅問題と、次から次へと難問が押し寄せてくる。「加えて、大学院では毎日大量の課題が出て、講義に出るだけでなくその何倍もの時間を使って予習と復習をしなければ、ついていけない状況でした」。
【気持ちのやりくり】
「自分の目標を達成させるために、自分の夢をかなえるためにいちばん大事なのは、お金のやりくりでも時間のやりくりでもなく、『気持ちのやりくり』。どれだけ『やりたい!』という気持ちを高められるか。そしてそれをいかに長期間キープできるか。やる気を削ぐような出来事や状況はいたるところに待ち構えています。疲れたり落ち込んだりしていったんしぼんだ心の風船に、いかにすぐに空気を入れ直してやれるか。これが成功のカギを握っている、というのが私の持論です」。
「時間がないなかでも私がやりたいことを実現できているのは、私に超人的な能力や努力があったからではありません。紆余曲折、試行錯誤、暗中模索・・・でも、周囲の力を借りることができたから、なんとかここまでやってこられた」。この姿勢が大事だと思う。
本書は、留学、転職、結婚など何であれ、新しい世界に挑戦すべきか否か迷っている人の背中をドーンと力強く押してくれる一冊である。私のような年齢の者でさえ、この本に大いに勇気づけられてしまったのだ(笑)。