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慈恵医大調査委員会 中間報告でJIKEI HEART の血圧値データ操作認める 論文撤回へ

公開日時 2013/07/31 05:04

東京慈恵会医科大学は7月30日、同院内に設置した調査委員会(委員長:橋本和弘医学科長)の中間報告結果を明らかにし、「Jikei Heart Study」のデータで基礎となった血圧値について「データ操作は人為的になされたものと思われる」とデータ操作があったことを認め、謝罪した。医学誌「LANCET」に掲載された論文については、近く撤回を申し入れることも明らかにした。

調査委員会は、外部委員3人を含む9人で構成され、①LANCET論文②研究実施計画書を含むJikei Heart Studyに関して作成された文書③統計解析に使用されたと思われる最終的な患者データ(以下、最終統計用データ)④統計解析に使用される前段階の大学保有データ(以下、大学保有データ、2002年9月時点:671人、2005年9月時点:3081人)⑤大学保有データと照合できた患者カルテ485人分――などを調査した。


 ◎調査委「データ操作は統計解析段階」


調査の結果、論文に掲載されているイベント(エンドポイント)データは、最終統計用データにあった47件のイベントについては、いずれも同一患者のカルテ中にイベントの記載があったとし、「人為的なデータ操作は行われておらず、論文中のイベントデータはおおむね正しいと判断する」とした。


一方で、血圧値については、初回登録時の収縮期血圧値について、カルテとの不一致はみられなかった一方で、最終統計用データと大学保有データ(671人)の不一致が86件(12.8%)みられた。収縮期血圧値が120mmHg以下、160mmHg以上のデータが減り、「130mmHgに近づくように、最終統計用データではいずれも10の位で恣意的に値が増減されていた」。また、その操作の頻度は「二群間で差はなく、プラスにもマイナスにもほぼ同等に修正している結果、平均値に差がなく、標準偏差値のみが小さくなっている」と指摘した。


さらに、報告された論文では2群間に血圧差は認められなかったが、血圧値の検証に利用できると判断した3081人を対象に統計解析を行ったところ、試験開始6か月(バルサルタン投与群:130.9mmHg、非投与群:134.3mmHg)、12か月時点(130.2mmHg、132.5mmHg)において、統計学的な有意差を生じた(p<0.0000)。調査委はこれについて、「治療開始以降において、二群間の血圧に有意な差がないことが、その後のイベント発生を評価する上で重要な前提である点を考えると、有意差が出ないように値を操作した可能性がある」と指摘した。


その上で、「患者データを送付しただけの医師達には、そもそも自身の患者データ以外のデータにアクセスすることは不可能だったから、医師がデータ操作に関与したことはないと考えられる」と説明。「調査委員会としては、血圧値のデータ操作は統計解析段階においてなされたものと考えられる」とした。


データ解析については、ノバルティスの元社員は、第三者機関調査、調査委の聞き取り調査に対し、一貫して「統計解析に関してごく一部の関与」と証言している。しかし、調査委は他の関係者の証言から「社員の証言が全体的に信用できない」とし、データ解析は元社員に「全面的に委ねられていた」と断定した。その上で、論文中に「データ解析グループはノバルティスファーマ社と独立していた」「ノバルティスファーマ社は、試験計画、データ解析、報告書作成には関与しなかった」と記載されているが、「この記載は事実に反する」とした。「Lancet論文は、この不実記述の一事をもって、すでに科学論文としての価値がないといっても過言ではなく、そのような不実記述をした望月教授の責任は極めて重い」とした。


論文の評価については、「血圧値のデータ操作によるイベント(エンドポイント)解析結果への影響は未知数」とし、「バルサルタンが、他の降圧剤に比較して脳卒中、狭心症、心不全及び解離性大動脈瘤の予防に有効であるという論文の結論部分の正当性を判断することはできない」と指摘。「Lancet論文は、科学論文としての基本に欠陥があり、信頼性を欠くものといわざるを得ない」と結論づけた。


同試験の主任研究者である同大客員教授の望月正武氏は同日、調査委による「数か月に及ぶ入念な調査の結果を真摯にうけとめる。研究統括責任者として、私が全て責任を負うものである。よって、論文の撤回を申し出ることといたしました」と文書でコメントを発表している。


◎問われる研究者の倫理 研究実施、統計学者の選定からMRに相談


一方、研究の過程では、大学側の臨床試験実施体制の課題も浮かび上がってきた。報告書によると、試験の実施段階では、「(望月氏ら研究者は)再編により配属された医師の結束を強くするためにも医局一丸となった臨床研究を行いたいと考えた」と説明。この研究構想を「ノバルティス社社員(MR)に相談し、同社の賛同が得られたことから、本研究が具体化することとなった」とし、試験の構想段階から、製薬企業MRに相談していたことも明らかになった。

同大の橋本委員長は会見で、ノバルティスの元社員と出会ったきっかけについても、「ノバルティス社のMRに良い統計学者がいないか相談した」と説明。その後、有名私立大学の2人の統計学者と面接を行ったが、PROBE法に経験がないことや、医学系の統計の専門家でないことから、最終的に元社員と出会うことになったとしている。

この時、元社員は大阪市立大学の名刺を用いていたとしたが、元社員がノバルティスファーマの社員であったことについては、「研究の過程ではノバルティスの社員であったことを知ることになった。最終的に論文を書く段階では、ほとんどの人がノバルティスの社員であることは知っていた」(橋本委員長)とした。


当時、国内の大規模臨床試験がまだほとんど実施されていない状況だった。一方で、元社員には臨床研究の経験があったことから、「(研究者も)試験について不慣れでよく分からなかった。よく知っている人に聞いてしまった」と説明。ノバルティスの元社員が統計解析に加え、各種委員会の開催日時の調整など、「事務局的なことも積極的にやっていた。研究者側としては“便利”で任せてしまったのが一番の問題」と述べ、製薬企業に丸投げと指摘されかねない実状があったことも明らかになった。


統計解析については、主任研究者の監督責任については認めたものの、「統計解析は、この試験に限らないが、独立したところで実施するのがほぼルール。この方に統計解析を任せることになる。統計解析については、(同大研究者の)責任は問えない」との見解を示した。


データ操作については、会見でも「このデータ操作の意味は不明」との発言が繰り返された。今回の調査からは、データ操作の結果、標準偏差を小さくなったとされている。一般的に、標準偏差が小さくなると、データの精度が向上し、臨床試験としての質が高いと判断される可能性がある。この指摘に対しては、「データの精度が上がったことは間違いない。(誰が行うべきか)判断したかは分からない」と述べた。


なお、ノバルティスファーマから同大循環器内科に対し、2005~07年の3年間で合計8400万円の奨学寄附金が提供されている。しかし、論文中にも講演料および使途が指定されていない奨学寄附金を受領していることが明記されていることから、「利益相反ルールに違反するものではないと考えられる」としている。


◎ノバルティス「大学の発表を重く受け止める」

これを受け、ノバルティスファーマ広報部は、「大学の発表を重く受け止めています。発表内容を聞いていないのでコメントは控えさせてください」とコメントしている。
 

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