上皮成長因子受容体(EGFR)を有する進行肺腺がん患者において、不可逆的ErbB系阻害薬のアファチニブと、シスプラチンとペメトレキセド併用による化学療法とを比較検討した臨床第3相試験「LUX-lung 3」試験の結果、アファチニブは無増悪生存を有意に向上させることが明らかになった。特に同疾患で最も一般的な2つのタイプのEGFR変異がある患者では、アファチニブによるPFS延長効果が、さらに高かったことも分かった。台湾National Taiwan UniversityのJames Chih-Hsin Yang氏が、6月1日から開幕した米国臨床腫瘍学会(ASCO2012)のオーラルセッションで、4日発表した。
肺腺がんは非小細胞肺がん(NSCLC)のサブタイプで、多くがEGFR変異を有している。EGFR変異の肺腺がんは、非喫煙者やアジア系人種との臨床的関連性が深いことが特徴だ。EGFR経路はがん細胞の成長や生存、転移を促進するが、不可逆的ErbB系阻害薬であるアファチニブは、ゲフィチニブやエルロチニブなどのEGFR標的療法より、きめ細かく、かつ永続的にこの経路をブロックする。さらに、EGFR経路と関わりのあるHER2やHER4といった、より広範囲なErbBファミリーの受容体を阻害するため、さらに多くのがん細胞経路を不活性化することができる。
同試験に先んじて行われたLUX-lung 2試験では、EGFR変異のある肺腺がん患者のファーストラインとしてアファチニブの有用性を検討した結果、客観的奏効率(ORR)66%、無増悪生存(PFS)12ヶ月を達成し、エクソン19欠失変異またはL858R変異を有する症例では、PFSが13.7カ月に達していた。
一方、シスプラチンとペメトレキセド併用は比較的新しい化学療法で、進行肺腺がんのファーストラインとして高い効果と良好な忍容性を示すが、EGFR変異の患者において、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)と比較検討されたことがなかった。
LUX-lung 3試験では、III期またはIV期の肺腺がんで、中央検査室によりEGFR変異が確認された患者を2:1の割合で、アファチニブ(40 mg/日)かシスプラチン+ペメトレキセド併用(シスプラチン75 mg/㎡、ペメトレキセド500 mg/㎡, 静注21日毎、最高6サイクルまで)を与える被験者群に割り付けた。
登録期間は2009年8月~2011年2月まで行い、25カ国の医療施設133施設から345例が登録された。アファチニブ群は230例、シスプラチン+ペメトレキセド併用群は115例だった。
登録条件は、測定可能な病変(RECIST1.1で評価)を有すること、再発または転移性NSCLCの治療として、化学療法またはEGFR分子標的薬治療を受けたことがないこと、ECOG PS 0または1であることなどとした。また、EGFR変異(エクソン19欠失、L858R、その他)と人種(アジア人、非アジア人)により、被験者を階層化した。追跡期間(中央値)は、16.4カ月。
主要評価項目は、PFS(独立機関によるRECIST1.1評価)、副次評価項目にはORR、病勢コントロール率(DCR)、奏効持続時間(DoR)、腫瘍縮小、全生存(OS)、安全性などに設定した。
患者特性は両群でバランスが取れており、年齢(中央値)は61歳、女性が65%、東アジア人種が72%を占め、IV期が89%、ECOG1が61%、喫煙歴が全くない患者の割合は68%であった。また、EGFR変異の種類は、エクソン19欠失が49%、L858Rが40%を占めていた。
◎エクソン19欠損とL858R変異患者でよりアファチニブ群で良好な結果に
治療の結果、PFSの中央値はシスプラチン+ペメトレキセド併用群が6.9カ月だったのに対し、アファチニブ群は11.1カ月で、アファチニブ群で有意に延長される結果となった(ハザード比0.58、95% CI: 0.43 – 0.78、p=0.0004)、。追跡から12カ月目のPFS率はシスプラチン+ペメトレキセド併用群22%に対し、アファチニブ群47%であった。性別や年齢、人種、EGFR変異、ECOG、喫煙歴によるサブ群解析においても、一貫してアファチニブで良好な結果だった。
エクソン19欠失とL858Rの変異を有する被験者308例におけるPFSは、シス+ペメ群6.9ヶ月に対しアファチニブ群13.6カ月で、アファチニブ群で有意に良好な結果となった(ハザード比0.47、95% CI: 0.34 – 0.65、p<0.0001)。12カ月目のPFS率はシスプラチン+ペメトレキセド併用群21%、アファチニブ群51%と、アファチニブによるPFS延長効果は、同患者グループではさらに高いことがわかった。
ORRは、被験者全体の解析では、シスプラチン+ペメトレキセド併用群22.6%に対しアファチニブ群56.1%、エクソン19欠失とL858Rの変異を有する被験者では、それぞれ22.1%、60.8%、奏効期間の中央値はそれぞれ5.5カ月、11.1カ月だった。
薬剤関連の有害事象は、アファチニブ群の99.6%、シスプラチン+ペメトレキセド併用群の95.5%に発生。このうち、グレード3以上はそれぞれ48.9%、47.7%だった。治療中止につながった薬剤関連の有害事象は、それぞれ7.9%、11.7%。重篤な薬剤関連の有害事象は両群とも14.4%だった。シスプラチン+ペメトレキセド併用群での発生率より20%以上高かったアファチニブ群での有害事象は、下痢95.5%(グレード3以上14.4%)、発疹89.1%(同16.2%)、口内炎72.1%(同8.7%)、爪囲炎56.6%(同11.4%)、乾燥肌29.3%(同0.4%)など。一方、アファチニブ郡よりも20%以上高かったシス+ペメ群の有害事象は、吐き気65.8%(グレード3以上3.6%)、食欲不振53.2%(同2.7%)、疲労感46.8%(同12.6%)などだった。
咳や痛み、呼吸困難などの肺がん関連の症状においては、アファチニブ群では、より優れた改善効果を示し、またQOL(EORTC QLQ C-30で評価)も全ての項目でアファチニブ群の方が高かった。
Yang氏は、「同試験がEGFR変異を有する肺がんにおいて最大規模のグローバル前向き試験であり、シスプラチンとペメトレキセド併用を対照治療として採用した、初めての試験でもある」と強調した。その上で、「アファチニブによる一次治療は、EGFR変異を有する肺腺がん患者のPFSを有意に延長し、肺がん関連の症状悪化を遅延させるとともに、QOLの向上にも有効である」と述べた。
◎J.Solomon氏「有効性が毒性を上回ることができるかが本来の疑問」
同試験発表を論評した、英国Peter MacCallum Cancer CenterのBenjamin J. Solomon氏は、「EGFR変異を有するNSCLC患者において、シスプラチンとペメトレキセド併用に対するアファチニブの優位性を確実に示した精度の高い試験である」とし、「ゲフィチニブとエルロチニブとともに、アファチニブがファーストライン確かな治療選択肢であることを証明した」と評価した。
また、下痢や発疹、口内炎などがアファチニブによる追加的な有害事象であったが、管理は可能で、その結果、有害事象による治療中止率は、対照群と同等に低く抑制できたとした。しかし、ここでの本来の疑問は、同様の設定で第一世代のEGFR-TKIとの比較をした場合、アファチニブの有効性がこれらの毒性による負担を上回ることができるかどうかであると指摘した。この疑問の解消は、既存試験からの解析では難しいため、現在進められているLUX-lung 7試験(アファチニブ vs ゲフィチニブ)の結果が待たれ、エルロチニブとの比較検討試験も必要であると強調した。