【ISC2013事後リポート】RESCUE-Japan Registry 日本人対象に内頸動脈で血管内治療の有効性示す
公開日時 2013/03/19 04:00
死亡率、症候性頭蓋内出血の増加はみられず
脳主幹動脈の急性閉塞において、t-PA静注療法後に機械的血栓回収療法であるMerci Retrieverを用いた血管内治療を施行することで、これまでt-PAによる治療効果が比較的低いとされてきた、内頸動脈(ICA)、中大脳動脈(MCA)など大血管でベネフィットを得られる可能性が示唆された。一方で、懸念された死亡率や症候性頭蓋内出血の増加は、みられないことも分かった。前向き多施設登録研究「Recovery by Endovascular Salvage for Cerebral Ultra-acute Embolism(RESCUE)-Japan Registry」の結果から示された。
研究は、機械的血栓回収療法であるMerci Retriever国内承認後の脳主幹動脈の急性閉塞による血管内治療の治療効果を明らかにする目的で実施された。対象は、脳主幹動脈の急性閉塞を伴う急性虚血性脳卒中で、発症24時間以内に搬送された患者とした。登録期間は、2010年7月1日~11年6月30日までの1年間で、国内83施設から1442例が登録された。主要評価項目は、発症90日後の日常生活自立度(modified Rankin Scale:mRS)とした。
患者背景は、平均年齢が75.5歳(67-83)、心房細動合併例が59.2%(853例)含まれていた。発症から院内到着までの時間は237.4分、NIHSSが15.6だった。
脳卒中のサブタイプは、心原性が71%(1023例)、アテローム血栓性が20%(288例)だった。発症から入院まで3時間以内が59%、3~8時間が22%で、8時間以上は13%にとどまり、8割以上の患者が8時間以内に到着していることが分かった。閉塞血管は、内頸動脈(ICA)が28%、中大脳動脈(MCA)が53%だった。
t-PA静注療法によるTICIグレード2B以上(2B:血管の半分以上の領域の灌流、3:末梢までの完全な灌流)は、ICA(64例)で11.0%(2B:6.3%、3:4.7%)、脳底動脈(BA、17例)では23.6%(2B:11.8%。3:11.8%)だった。これに対し、MCAではDistal M1では2Bが29.7%、3が8.1%、M2またはDistalでは2Bが25.9%、3が14.8%で、良好な傾向を示した。
t-PA静注療法後の血管内治療の頻度は、ICAが45.8%(49例)と最も多く、BAが46.7%(14例)、Proximal M1が38.3%(36例)、DistalM1が30.6%(26例)となった。M2またはDistalは11.8%(11例)にとどまり、大血管で多く施行されていることが分かった。血管内治療の手技は、血栓回収療法が48%、血管形成術が41%、局所血栓溶解療法(動脈内投与)が30%、ステントが11%だった。
その結果、血管内治療を施行した442例のうち、予後良好(mRSが0[全く症状なし]~2[軽度の障害])となったのは、t-PA静注療法単独の42.2%(125例)に対し、t-PA静注療法+血管内治療群(以下、t-PA+EVT群)では44.5%(65例)で、t-PA静注療法後に血管内治療を施行した群で良好な傾向がみられた(オッズ比(OR):1.09、95%CI:0.74-1.64、p=0.65)。
部位別にみると、ICAでは、t-PA単独群の21.4%(12例)に対し、t-PA+EVT群では43.8%(21例)で、ORが2.85(95%CI:1.23-6.87)で、有意に良好な結果となった(p=0.015)。一方で、死亡(mRSで6)もt-PA単独群で21.8%、t-PA+EVT群で20.5%で、死亡率の増加もみられなかった。中大脳動脈M1では、t-PA単独群で36.2%(42例)、t-PA+EVT群で45.2%(28例)で、t-PA+EVT群で良好な傾向を示すにとどまった(OR:1.45、95%CI:0.77-2.72、p=0.25)。そのほか、BAではt-PA単独群で43.8%(7例)、t-PA+EVT群で42.9%(6例)だった(OR:0.96、95%CI:0.22-4.15、p=0.96)。
表1 部位別の血管内治療の有効性(442例)
|
機能転帰良好 症例数(%) |
オッズ比(95% CI) |
P値 |
Total
t-PA静注単独
t-PA静注+血管内治療 |
190 (43.0)
125 (42.2)
65 (44.5) |
1.09 [0.74-1.64] |
0.65 |
内頸動脈(ICA)
t-PA静注単独
t-PA静注+血管内治療 |
33 (31.7)
12 (21.4)
21 (43.8) |
2.85 [1.23-6.87] |
0.015 |
中大脳動脈 M1
t-PA静注単独
t-PA静注+血管内治療 |
70 (39.3)
42 (36.2)
28 (45.2) |
1.45 [0.77-2.72] |
0.25 |
脳底動脈(BA)
t-PA静注単独
t-PA静注+血管内治療 |
13 (43.3)
7 (43.8)
6 (42.9) |
0.96 [0.22-4.15] |
0.96 |
その他
t-PA静注単独
t-PA静注+血管内治療 |
106 (54.6)
88 (56.4)
18 (47.4) |
0.70 [0.34-1.42] |
0.32 |
(岐阜大学大学院医学研究科神経統御学講座脳神経外科学分野准教授・臨床教授吉村紳一氏提供)
t-PA非適応患者でも血管内治療の有効性示唆
t-PA治療に失敗した患者に絞ってみると、EVT非施行群(58例)、EVT施行群(110例)の患者背景は、EVT施行群で有意に若年(71.5歳vs76歳、p=0.024)、ベースライン時のNIHSSが高値(17 vs 14、p=0.0019)だった。t-PA静注療法後の再開通率(TICI2B/3)は、静注後1~3時間で約11%(2B:7.0%、3:3.9%)にとどまったのに対し、EVT施行後に約66%(2B:36.0%、3:30.5%)まで増加した。また、mRS0~2は、非EVT施行群(57例)で36.8%に対し、EVT施行群(108例)では41.7%で、両群間に有意差は認められなかった(p=0.55)。ただし、ICA、M1、BAの閉塞に絞ってみると、非EVT施行群(39例)の20.5%に対し、EVT施行群(92例)では41.3%で有意に良好な結果となった(OR:2.73、95%CI:1.17-6.96、p=0.019)。
t-PA治療が非適応だった患者では、EVT非施行群で19.5%(80例/410例)に対し、EVT施行群では29.1%(64例/220例)で、有意にEVT群で良好な結果となった(p=0.007)。さらに、ICA/M1/BAの患者では、非施行群の10.3%(29例/282例)に対し、EVT施行群では29.0%(51例/176例)で、ORは3.56となり、有意にEVT施行群で良好な結果となった(p<0.0001)。t-PA非適応患者の患者背景をみると、EVT施行群で有意に若年で(73歳vs78歳、p<0.0001)、女性が少なかった(37.7%vs50.2%、p=0.0025)。ベースラインのNIHSSは非EVT施行群17(10-22)に対し、EVT施行群では18(13-22)で差はみられなかった(p=0.52)。ただし、画像上の初期虚血変化については、ASPECTS-CTが非EVT施行群で8(6-10)、EVT施行群で10(8-10)、ASPECTS-DWIがEVT非施行群で6(4-8)、EVT施行群では8(6-9)で、EVT施行群で有意に虚血が少なかった(ともに、p<0.0001)。
ASPECTSで6点以上の患者に絞って治療効果をみると、EVT非施行群で30.6%(79例/258例)、EVT施行群で32.3%(62例/192例)で、有意差はみられなかった(OR:1.08、95%CI:0.72-1.61、p=0.71)。これらの患者でさらにICA/M1/BA患者に絞ってみると、EVT非施行群で19.5%(29例/149例)、EVT施行群で33.1%(49例/148例)で、有意にEVT施行群で良好な結果となった(OR:2.05、95%CI:1.21-3.51、p=0.007)。
症候性頭蓋内出血(NIHSSで4ポイント悪化)は、薬物療法の2.0%に比べ、t-PA治療群では5.4%と増加したが、t-PA+EVT群では4.9%で、EVTの施行による頭蓋内出血リスクの増加はみられなかった。
周術期の合併症は、EVT施行群で11.9%(32例/268例)で、このうち臨床上重大だったのは3.4%(9例)だった。一方、t-PA治療後にEVTを施行した群では10.8%(16例/148例)で、このうち臨床上重大だったのは、2.7%(4例)で、差はみられなかった。
表2 t-PA非適応患者での血管内治療の有効性
|
機能転帰良好 症例数(%) |
P値 |
オッズ比(95% CI) |
Total |
非血管内治療群 |
80/410 (19.5) |
0.007 |
1.70 (1.16-2.48) |
血管内治療群 |
64/220 (29.1) |
ICA/M1/BA |
非血管内治療群 |
29/282 (10.3) |
< 0.0001 |
3.56 (2.17-5.95) |
血管内治療群 |
51/176 (29.0) |
ASPECTS≥6 |
非血管内治療群 |
79/258 (30.6) |
0.71 |
1.08 (0.72-1.61) |
血管内治療群 |
62/192 (32.3) |
ICA/M1/BA & ASPECTS≥6 |
非血管内治療群 |
29/149 (19.5) |
0.007 |
2.05 (1.21-3.51) |
血管内治療群 |
49/148 (33.1) |
(岐阜大学大学院医学研究科神経統御学講座脳神経外科学分野准教授・臨床教授吉村紳一氏提供)