【JCSリポート】PRASFIT-ACS 新規抗血小板薬・プラスグレル クロピドグレル上回る心血管イベント抑制効果
公開日時 2013/03/19 04:00
経皮的冠動脈形成術(PCI)施行予定の急性冠症候群(ACS)患者において、アスピリン併用下で、新規抗血小板薬・プラスグレルの日本人に適した低用量投与が、クロピドグレルを上回る心血管イベントの発生抑制効果を示すことが分かった。また、安全性についても冠動脈バイパス術(CABG)に関連しない大出血は、両群間に有意差は認められなかった。日本人を対象に実施された、新規抗血小板薬・プラスグレルの臨床第3相試験「PRASFIT-ACS(PRASugrel Compared to Clopidogrel For Japanese PatlenTs with ACS Undergoing PCI)」の結果から分かった。同試験は、日本人ACS患者を対象とした臨床第3相試験としては最大規模。3月15~17日の日程で神奈川県横浜市のパシフィコ横浜で開催された第77回日本循環器学会学術集会で16日に開催された「Late Breaking Clinical Trials」で、湘南鎌倉総合病院循環器内科の齋藤滋氏が報告した。
PCI施行予定の急性冠症候群(ACS)患者では、アスピリン+クロピドグレルの併用は再狭窄予防に有用とされ、標準治療薬とされている。しかし、これらの治療によって、血栓性イベントを抑制できていないのが現状だ。クロピドグレルは、効果発現までに比較的時間を有し、一部の患者さんでは血小板凝集抑制が不十分であることが知られている。また、一部の効果が不十分な患者では、心血管イベントの増加も報告されている。
試験は、▽プラスグレルは、クロピドグレルに比べ、虚血性イベントの発生を有意に抑制する▽臨床上重大な出血イベントは、プラスグレルとクロピドグレルで同等である▽薬力学的検討として、プラスグレルは、早く安定した血小板凝集抑制作用を示す――という仮説を検証する目的で実施された。同試験は優越性を検証するものではなく、日本人に合わせた低用量で、海外での同剤の承認の根拠となった「TRITON-TIMI38」と同様の傾向を示すか検討する目的で実施された。
PCI施行予定のACS(ST上昇型心筋梗塞、非ST上昇型心筋梗塞、不安定狭心症)患者1363例を、アスピリン併用下(loading:81~330mg、維持用量:81~100mg)で、①プラスグレル群(loading dose 20mg/維持用量3.75mg)685例②クロピドグレル群(loading dose300mg/維持用量75mg)687例――の2群にランダムに割り付け、治療効果を比較した。治療期間は24~48週間で、loadingは、PCI施行の前後1時間まで可能とした。主要評価項目は、主要な心血管イベント(心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性虚血性脳卒中)の発現。安全性項目は、CABGに関連しないTIMI基準における大出血、TIMI基準における微小出血+臨床上重大な出血。平均投与期間は、プラスグレル群213.5日、クロピドグレル群は207.5日だった。登録期間は、2010年12月~11年9月までで、国内162施設から登録された。
患者背景は、女性が約20%(プラスグレル群:22%、クロピドグレル群:21%)、年齢は約65歳(65.4歳、65.1歳)だった。75歳以上の患者はプラスグレル群24%、クロピドグレル群22%だった。平均体重は約64kg(642.kg、64.4kg)で、50kg未満もプラスグレル群12%、クロピドグレル群11%、60kg未満は39%、35%含まれていた。基礎疾患は、不安定狭心症が約20%(23%、18%)、非ST上昇型心筋梗塞が約30%(27%、31%)、ST上昇型心筋梗塞が約50%(50%、50%)だった。ステントは、ベアメタルステント(BMS)が約55%、薬剤溶出性ステント(DES)が約45%だった。Loadingのタイミングは、PCI施行前が最も多く両群ともに58%、PCI施行中がプラスグレル群7%、クロピドグレル群8%、PCI施行後がプラスグレル群30%、クロピドグレル群が29%だった。
◎CABGに関連しない大出血で有意差みられず PCI施行時の出血性合併症は高率に
主要評価項目の発生率は、クロピドグレル群の11.8%に対し、プラスグレル群では9.4%で、リスク低下率は23%だった(ハザード比(HR):0.77、95%CI:0.56-1.07)。イベントの大半がPCI施行後30日以内の早期に発現し、その後ほぼ一定の割合でイベントが発現したが、期間を通じて一貫してプラスグレル群で低い発生率だった。結果に加え、ハザード比、信頼区間は、TRITON-TIMI38と近似していることから、2試験は一貫した結果を示したとされた。
内訳をみると、プラスグレル群では、非致死性心筋梗塞(プラスグレル群:7.6%、クロピドグレル群:10.1%、HR:0.74、95%CI:0.52-1.06)、非致死的脳卒中(0.4%、1.2%、HR:0.38、95%CI:0.10-1.43)、血行再建術(4.6%、4.8%、HR:0.96、95%CI:0.58-1.57)、ステント血栓症(0.4%、0.7%、HR:0.60、95%CI:0.14-2.51)の発生率が低かった。一方で、心血管死(1.3%、0.9%、HR:1.45、95%CI:0.51-4.07)、全死亡(1.3%、1.2%、HR:1.09、95%CI:0.42-2.83)はプラスグレル群で高率に発生した。試験薬投与開始から最終投与から14日以内に絞ってみたOn-treatment解析を行うと、心血管死(0.4%、0.8%、HR:0.57、95%CI:0.14-2.41)、全死亡(0.4%、0.8%、HR:0.57、95%CI:0.14-2.41)でもプラスグレル群で低率となった。
安全性については、CABGに関連しない大出血は、プラスグレル群で1.9%、クロピドグレル群で2.2%(HR:0.82、p=0.38)、CABGに関連しない大出血+小出血+臨床上重大な出血はプラスグレル群で9.6%、クロピドグレル群9.6%で(HR:0.98、p=0.92)、大きな差はみられなかった。生命を脅かす出血も、プラスグレル群で0.6%、クロピドグレル群では1.0%で大きな差はみられなかった(HR:0.54、p=0.43)。一方で、PCI施行時の合併症としての大出血+小出血はプラスグレル群2.8%、クロピドグレル群1.8%で、プラスグレル群で多い傾向がみられた(HR:1.53、p=0.24)。有害事象はプラスグレル群89.8%、クロピドグレル群88.5%、重篤な有害事象は27.4%、25.4%だった。良性腫瘍と悪性腫瘍も両群ともに0.9%。肝機能障害も12.4%、12.7%で両群間に差はみられなかった。
そのほか、VerifyNow P2Y12を用いて血小板凝集能を測定した結果、プラスグレル群で一貫して有意に低い血小板凝集率(PRU値)を示したことも報告された。
◎齋藤氏「欧米の1/3用量でのイベント抑制効果である点が重要」
結果を報告した齋藤氏は、日本人に適した用量設定の重要性を強調。一般に有効性が高くなると出血傾向が増大するとした上で、「(海外で実施された臨床第3相試験である)TRITON-TIMI38で示された、優れた有効性を保持しつつ、出血の問題を最小化することができる、日本人に適した用量を見つけ出すことができるかどうかが最大の課題だった」と述べた。
安全性の観点を加味し、慎重に臨床第2相試験を行い、「年齢、体重によらず、TIMI基準による大出血、小出血、臨床上重大な出血の少ない」(齋藤氏)欧米の1/3の用量のloading、維持用量となったと説明した。
また、同試験とTRITON-TIMI38との一貫性が示されたが、両試験の試験デザインの違いとしては、主要評価項目(主要な心血管イベント)を挙げ、TRITON-TIMI38では、すべての脳卒中を対象にしているが、同試験では虚血性脳卒中のみが含まれていると説明。「若干の違いはあるが、有効性の指標は、ほぼ同一と捉えている」とした。患者背景については、「出血のハイリスクである高齢者、低体重者が比較的多く登録されている」と説明。実際、「75歳以上の患者は、TRITON-TIMI38では10人に1人だったのに対し、4人に1人だった」とした。
結果については、「被験者数がTRITON-TIMI38の1/10以下のため、統計学的有意差は認められなかった」とした上で、イベント発生の曲線カーブや、心血管イベントの累積発現率、ハザード比はほぼ同等だったとした。特に、「クロピドグレル群は、欧米と同じ投与量が用いられていたが、低体重が多いとはいえ、欧米の1/3の投与量であったという点は非常に注目すべき点。この投与量において、クロピドグレルよりもイベントを抑制できたことは非常に重要な点だと考えている」との考えを示した。
なお、同試験は、用量は異なるが申請に際し、TRITON-TIMI38のブリッジング試験として実施。すでに終了している、待機的PCI施行患者を対象とした第3相臨床試験「PRASFIT-Elective」の結果と合わせ、2013年上半期にも製造販売承認申請を行うとしている。