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【ISC事後リポート】ICH ADAPT  頭蓋内出血時の積極的な緊急降圧療法 血腫周辺の血流減少との関連みられず

公開日時 2013/02/22 06:00

頭蓋内出血において、積極的に血圧を降下させる緊急の降圧療法は、血腫周辺の血流減少を悪化させないことが、前向き無作為化試験「ICH ADAPT(The Intracerebral Hemorrhage Acutely Decreasing Arterial Pressure Trial)」の結果から分かった。2月6~8日まで米・ホノルルで開催された国際脳卒中学会(ISC2013)で6日に開かれたセッション「Intracerebral Hemorrhage Oral Abstracts」で、カナダUniversity of AlbertaのKen Butcher氏が報告した。

頭蓋内出血の拡大を阻止する目的で実施される、積極的な降圧療法が、血腫周辺の血流減少に影響しているかどうかは、十分に分かっていない。


試験では、目標の収縮期血圧値を150 mmHg未満に設定した患者と、180 mmHg未満に設定した患者の血腫周辺の相対的血流は、有意に異ならないとの仮説を検証する目的で実施された。


急性頭蓋内出血から24時間以内で、収縮期血圧値が150 mmHg以上の患者75例に対し、緊急の降圧治療の目標値を150 mmHg未満とする群39例、180 mmHg未満に設定する群36例――の2群に無作為に割り付けた。治療は、αβ遮断薬・ラベタロール、血管拡張薬・ヒドララジン、ACE阻害薬・エナラプリルを静注し、無作為化から2時間、目標のSBP値を維持することとした。主要評価項目は、無作為化から2時間後に撮影したCT灌流画像による、血腫周囲1cm以内の相対的血流とした。相対的血流は、対側部における同じ領域の血流に対する割合で算出した。


ベースラインの患者背景は、両群で有意差はなく、平均年齢は150 mmHg未満群で74.2歳、180 mmHg未満群で72.3歳、高血圧既往は150 mmHg未満群で67%、180 mmHg未満群で75%、降圧治療を受けていた割合が150 mmHg未満群で46%、180 mmHg未満群で42%、抗血栓治療の割合は150 mmHg未満群で10%、180 mmHg未満群で11%だった。神経学的な数値においても両群間に差はみられず、意識レベルを示す、Glasgow Coma Scale(=GCS、グラスゴー・コーマ・スケール)は両群とも15、脳卒中神経学的重症度を示すNIHSSスコアは150 mmHg未満群で10、180 mmHg未満群で11だった。無作為化時の平均収縮期血圧値は150 mmHg未満群で184 mmHg、180 mmHg未満群で182 mmHg、出血から無作為化までの時間は150 mmHg未満群で7.83時間、180 mmHg未満群で8.54時間、発作から無作為化までの時間が6時間を超えたのは150 mmHg未満群で46%、180 mmHg未満群で47%だった。


血腫は、大脳基底核が150 mmHg未満群で74%、180 mmHg未満群では75%で最も多く、脳葉が150 mmHg未満群で23%、180 mmHg未満群で22%が次いだ。血腫量は150 mmHg未満群で26.6 ml、180 mmHg未満群で27.0 ml、脳室内への拡大は150 mmHg未満群が26%、180 mmHg未満群は42%であった。


被験者全体で血腫周辺の血流を対側部の血流と比較したところ、血腫周辺の血流は38.7 ml/100 g/分で、対側部の血流44.1 ml/100 g/分に対し、有意に低かった(p<0.0001)。血腫量と血腫周辺の相対的血流には反比例の傾向が見られ、血腫量が大きいほど血流の減少が大きい傾向があった。


緊急の降圧治療を受けたのは、150 mmHg未満群で100%、180 mmHg未満群では47%で、180mmHg未満群で有意に少なく(p<0.0001)、 CT灌流画像撮影時の収縮期血圧値は150 mmHg未満群で140 mmHg、180 mmHg未満群では162 mmHgで、150mmHg未満群で有意に降下していた(p<0.0001)。


◎Butcher氏「現在進行中の頭蓋内出血における緊急降圧治療試験の安全性を、支持する結果」


主要評価項目である血腫周辺の相対的血流は、150 mmHg未満群の86%に対し、180 mmHg未満群は89%で、両群に有意差はみられなかった(p=0.19)。一方、脳半球での相対的血流は、150 mmHg未満群の95%に対し180 mmHg未満群は99%で、150 mmHg未満群が有意に低かったが(p=0.013)、その絶対差は4%にとどまった。


血腫周辺の相対的血液量は150 mmHg未満群で90%、180 mmHg未満群で91%、脳半球での相対的血液量は150 mmHg未満群が98%、180 mmHg未満群は99%で、いずれも有意な群間差はみられなかった(p=0.73、0.59)。また、降圧の度合いと血腫周辺の血流との間にも有意な関連性はみられなかった。


結果を報告したButcher氏は、血腫周辺の相対的血流に有意な差がみられなかった点について、ベースラインの血腫量で調整した後の数値で、積極的な降圧療法は血腫周辺の血流の減少を悪化させないことが示されたとの見方を示した。一方で、脳半球での総価的血流については、両群間に有意差がみられたものの、絶対値が小さいことから、「臨床的重要性は少ない」とした。


これらの結果から、Butcher氏は、「積極的な緊急降圧療法は血腫周辺の血流に影響を及ぼすことはなかった」と指摘し、「現在進行中の頭蓋内出血における緊急降圧治療試験の安全性を、支持する結果」と述べた。
 

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