【日本救急医学会総会・学術集会】治療の緊急性が高い重症患者へのL-AMB早期投与における安全性を検討
公開日時 2013/01/08 03:00
救命センターで入院治療を受けた深在性真菌症を合併した重症患者
第40回日本救急医学会総会・学術集会
2012年11月13〜15日 京都市
化学療法や造血幹細胞移植を施行した65歳以上の血液悪性腫瘍患者で真菌感染症の発症または発症が疑われた症例に、抗真菌薬アムホテリシンBリポソーム製剤(製品名:アムビゾーム、以下L-AMB)を投与し、後方視的に検討したところ、安全に使用できることが確認できた。長期間のフォローアップ調査でも、低カリウム血症を発症しても遷延することなく安全性の問題は特になかった。東京都健康長寿医療センター血液内科の上田里美氏が、10月19~21日に京都市で開催された第74回日本血液学会学術集会のポスターセッションで発表した。
国内の真菌症フォーラムが発行した「深在性真菌症の診断・治療ガイドライン」(07年改訂版)では、ICU(集中治療室)領域のカンジダ症に対し、L-AMBは他の抗真菌薬で効果のなかった患者への第二選択薬として推奨されている。一方で、重症真菌感染症患者には強力な抗真菌薬による早期治療が求められていることから、西田氏らは、前任地の帝京大学救命センターの入院患者で、深在性真菌症を発症または発症が疑われ、早期にL-AMBを投与した31例にて、有効性と安全性を検討した。
対象症例の平均年齢は69.5歳、原疾患は、心疾患・呼吸器感染症が32%(10例)、外傷が19%(6例)、腹腔内感染症が19%(6例)、広範囲熱傷が13%(4例)、致死性筋膜炎が10%(3例)、偶発性低体温が3%(1例)、頭部膿瘍が3%(1例)。全ての患者が感染によるSIRS(全身性炎症反応症候群)と診断され、8割が敗血症を発症。ICUの入院患者のAPACHEⅡスコア(病態重症度を評価する予後予測法)は27で、腎機能低下例(RIFLE分類)が39%(12例)含まれていた。
深在性真菌症の確定診断例は29%(9例)で、同定された菌種はC. albicans が8例、Aspergillus spp. が2例、C. glabrataが1例だった(重複含む)。Seville score(カンジダ症の発症予測スコア)は、High riskが52%(16例)、Moderate riskが35%(11例)、Low riskが13%(4例)。
L-AMBは71%(22例)の症例で第一選択薬として用いられた。投与量は2.5mg/kg/day。平均12.2日投与した結果、病態が多様で重症例が多く、入院死亡率が41%(13例)と高いなかで、有効と判断されたのは39%(12例)。
L-AMBの腎機能への影響
安全性に関しては、重篤な有害事象は確認されなかった。血清クレアチニン値(Cr、図1)は投与前後で有意な変化はなかった( 0.97±0.42mg/dL→ 1.24±1.26mg/dL)。eGFR値や血清カリウム値(K)(図2、3)も同様だった(eGFR: 81.4±61.4mL/min/1.73m2 → 77.5±58.5 mL/min/1.73m2、K値:4.09±0.45mEq/L→ 4.12±1.12mEq/L)。
一方、入院時に腎機能が低下していた12例のCr値に関しても大きな変化はなかった(1.13 ±0.51mg/dL→1.34±1.06 mg/dL)。
ただし、急性腎傷害を発症していた3例では、投与後にCr値の異常値を示し、その後死亡(原疾患死)が確認された。うち2例がグリコペプチド系抗菌薬、1例が抗菌薬を多剤併用していたため、「L-AMB単剤では問題なくても、グリコペプチド系抗菌薬などの腎毒性を有する薬剤や多剤抗菌薬併用例では、腎機能への影響について注意が必要であることが示唆された」と指摘。
「L-AMBは、全身管理を含めモニタリングを行い、安全性に注意して使用すれば、敗血症などの治療優先度の高い重症患者には、抗真菌薬の第一選択薬になり得る」とコメントした。