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ビジネスの世界で必要なのは、合理性と義理人情だ

公開日時 2013/01/09 04:00

イーピーエス株式会社
榎戸 誠

 

【風変わりな著者】
僕たちは知恵を身につけるべきだと思う』(森田正康著、クロスメディア・パブリッシング)は、今時、「ビジネスの世界は、合理性と義理人情だ」と主張する風変わりな本である。こんな時代錯誤のようなことを言う著者は、てっきり年寄りに違いないと思ったが、何と36歳だというではないか。その上、12歳で渡米し、カルフォルニア大学バークレー校、ハーヴァード大学、ケンブリッジ大学、コロンビア大学など海外の大学・大学院を渡り歩いた経歴を持っているというのだ。

 

【米国で気がついたこと】
著者は、「これからの世界を生き抜くには、IQ(知能指数)よりも、知識よりも、智恵を身に付けるべき」と言う。この「智恵」は、「どんな世界に放り出されても、うまくやっていける能力」と定義されている。

25歳になるまで、海外で学ぶうち、エリートと呼ばれる人、専門分野を究めた人、実業の世界の優秀な経営者やビジネスパースンに接して、重要なことに気づく。①上に行けば行くほど、知識は役に立たない、②目先の結果よりも、人との関係を続けることのほうが重要である、③合理性も大事だが、義理人情も同じくらい大事である――の3つである。

 

【合理性と義理人情】
具体的に表現すると、「合理性=行動を速く。目標を立てる。目標を達成するための選択肢を生む。目標に対して最善の手段を取る。失敗したら、すぐに切り替える」、「義理人情=自ら進んで損をする。嘘をつかない。絶対的な自信を持つ。自分も人もハッピーである。嫌なことはすぐに忘れる。人を愛する」ことだと、歯切れがよい。

 

【才能を捨てよ】
「僕は経歴上、人からよく『天才だ』と言われます」と、さらっと言ってのける著者が、「才能を捨てよ。才能ではなく、智恵で勝負せよ」と強調しているのだ。「智恵のある考え方や行動をしていたら、昨日まで営業成績がまったく振るわなかった人も、来月には上から5番目くらいになれる可能性があるのです。やりようによっては、トップ営業マンになることも可能でしょう」。これを実現するには、著者の経験上、それなりのプロセスが必要だという。①目標を明確に立てること、②その目標を達成するために、適切な戦略を考えること、③その戦略を実現するために、必要なものを揃えること、④間違えたと思ったら、すぐに方向修正すること、⑤上記の①~④のプロセスをとにかく速く行うこと――の5つである。

 

【人気者になれ】
「人気者=実績×人間性×ユニークさ」と定義する著者は、「(実績)プラスアルファの要素として、きちんと社会常識や礼儀もわきまえている。そういう人がビジネスパーソンとしてモテるのだと思います」と述べている。

「(実績、人間性と)同じくらい大切なのは、『あの人って何かおもしろいよね』と言われるようなユニークさです。・・・ユニークであることと、ユーモアセンスがあることは違います。『相手のためになることをし続ける』という方法だってユニークさになりえるのです。相手のメリットになるような情報や、機会、そして物理的な援助をし続けてみます」。

ビジネスで人気者になる具体的な条件は、①結果を出していること(これはそこそこでOKです)、②人間として、きちんとしていること、③独自性があること(相手に何かしらのメリットを提供できること)――の3つである。

「国際的な評価基準で言えば、冗談を言うセンスが高い人ほど優秀なビジネスマンです。合理性の部分と、人間性の部分、どちらも均整が取れているのです」という指摘に、洒落を飛ばすのが好きな私は思わず頷いてしまう。

 

【アイディアを実現せよ】
会社という傘の下にいながら、会社から与えられている仕事をこなし結果を出すという社員としての義務を果たさずに、「私はこういうことがしたいんです」と言う人間に、著者は批判的である。そういう場合は、①本当にやりたいことがあるなら、目の前の仕事でも結果を出すこと、②会社という組織の中で働くということを理解すること、③リスクを負わない人間にやりたいことはできないという前提を知ること――と、手厳しい。

「アイディアとは、まったくの無から生まれるものではなく、あるものとあるもの、その掛け合わせで生まれる」、「追い求めるべきなのは『ニーズ』ではなく、『ウォンツ』だということです」――という指摘には、全く同感である。

「アイディアを実現するのに最も必要な能力は、伝える力だと僕は思います」と言う著者は、伝えるときに大事なものとして、①数字的な根拠、②感覚を言葉にすること、③説明し過ぎないこと、④情熱――の4つを挙げている。「情熱」という言葉が一番好きな私は、「そのとおり!」と喝采したくなる。

 

【うまく立ち回れ】
「空気を読むとは、言い換えれば『勢いに乗る』ということです。勢いに乗るというのは、何も考えずにバカになるということです。バカになるということは、恥をかくということです。しかし、必要な場面であえて恥をかき、バカになるということは、時にとても強力な武器になります」という論法に、これまで数々のバカを実行してきた私は、全面的に同意する。まさに「バカになるとはホスピタリティの一種」なのだ。

 

【最適な行動を選べ】
「段取りとは『ゴールに対して最短距離で進む方法』だと僕は思っている」著者は、具体的なプロセスとして、①ゴールに到達するための選択肢を限りなく多く生むこと、②優先順位をつけ、最適な選択肢を選ぶこと、③このプロセスを素早く行うこと――を挙げているが、私の経験上、①には賛成できない。「限りなく多く」を目指すと、そのことに時間を取られ過ぎ、「素早く行う」ことが困難になるからである。

「僕はビジネスにおいて付き合ってはいけない人が、一種類だけいると思っています。それは『お金に汚い人』でもなく、『モラルのない人』でもなく、『見た目が怪しい人』でもなく・・・『決定権のない人』です」、「ビジネスにおいて、決定力とスピード感のない人はそれだけで損をしてしまうものです」という見解は、至言である。

 

【転職について】
「少し厳しいことを言いますが、『上司の頭がカタかったので転職しました』、『やりたいことができないので転職しました』・・・などと言っているような人は、どれだけ環境を変えても一生やりたいことはできないし、伝えたいことも伝わらないと思います」、「転職というリスクを取るか、起業というリスクを取るか、それは個々人の判断ですが、自分の人生に主体的に関わるということ。自分の人生に責任を持つのは自分だということ。それを忘れてはなりません」。

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