Bapineuzmabを超えて 深化するAD治療薬パイプライン
公開日時 2012/09/07 04:00
ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)とパートナーであるファイザーは、アルツハイマー病治療薬bapineuzmab静注に対するフェーズIII試験である301試験および302試験が思わしくなく、中止を余儀なくされたが、皮下注射に対するフェーズII試験のSUMMIT AD試験に期待をかけている。
J&Jは7月23日、302試験について、APOE4(アポリポタンパクEエプシロン)遺伝子ジェノタイプを持つ患者におけるコ・プライマリーエンドポイント(認知機能検査ADAS-Cogおよび運動機能評価DADにおける好ましい変化)を達成できず中止を発表。次いで8月6日に、軽度から中等度患者を対象とした301試験の中止を発表した。301試験もコ・プライマリーエンドポイントを達しなかった。しかし、301試験については、セカンダリーエンドポイントやバイオマーカーなどは9月11日のEuropean Federation of Neurological Societies総会で発表される予定だ。
証券会社Sanford BernsteinのTim Anderson氏は、「J&J、ファイザーおよびエランは、フェーズIIでのバイオマーカー次第では最終的に皮下注射をアルツハイマー病前駆症状の集団に使用するのではないか」と見ている。エランは最初にbapineuzmabを開発し、ワイス(現ファイザー)と提携、その後、エランはJ&Jに同社の大半の資産を売却した。
Bapineuzmabの好調とはいえない抗アミロイドβ療法アプローチだが、同アプローチでの各社の取り組みは減少していない。
ロシュ子会社ジェネンテクは、同社の抗アミロイドβ抗体crenezumabについて、ADの早期発症を引き起こす遺伝子変異を持つ可能性のある集団においてフェーズII試験を行うことを最近発表した。アミロイドβカスケードにおける発症前介入は前向きのアプローチのように見える。発症前介入はBapineuzmab皮下注射剤についてのフェーズIIIの目的でもあったが。
AD治療薬のパイプラインは、抗アミロイドβ療法、抗タウタンパク、ワクチン、βおよびγセクレターゼ阻害剤、神経ニコチン受容体阻害剤、H(ヒスタミン)3阻害剤、5HT6 拮抗剤などクラスも多様で、豊富な状況を見せている。
AD治療薬の開発パイプライン(フェーズIおよびII)の主要なものは以下の通り。物質、開発者、フェーズ、試験状況・データ発表時期の順。
抗アミロイドβモノクローナル抗体
・Bapineuzmab皮下注射、ファイザー/J&J/エラン、PII。北米でPII試験SUMMIT ADを実施中で、最終結果は2014年公表予定。
・Crenezmab、ロシュ、PII。現在、静注および皮下注を評価中の2件のPII実施中で、両試験結果は2014年公表予定。
・Gantenerumab、ロシュ、PII。ロシュ/MorphoSys共同開発、2017年早期公表予定。
・AAB003、ファイザー/J&J/エラン、PI。2013年半ば公表予定。
・BAN2401、エーザイ、PI。PIは2010年9月開始、2012年第4四半期公表予定。
・BIIB037 、Biogen Idec、PI。2011年6月開始、最終結果2012年公表予定。
・GSK―933776、GSK、PI、現在PII。PI単回投与および複数回投与試験は2011年に終了。
・SAR228810、サノフィ、PI。 単回投与および複数回投与用量漸増試験を2012年第1四半期終了、結果は2014年第1四半期公表予定。
抗アミロイドワクチン
・ACC001(PF5236806)βアミロイドワクチン、ファイザー/J&J/エラン、PII。数件のPII進行中、結果は2013年半ば公表。
・Affitope AD02 N-terminal アミロイドβ(Aβ)ペプチドワクチン、GSK/Affiris、PII。現在1年以上かけて試験中、2013年早期に終了予定。
・CAD106 Aβ1-6ペプチドワクチン、ノバルティス、PII。結果は2012年末公表。
・V950 、Aβペプチドワクチン、メルク、PI。PIの安全性・免疫原性試験は最近終了、フォローアップ期間4年間。
Bace(βサイト切断酵素)阻害剤
・LY2886721、イーライリリー、PI/II。PI/IIは2012年3月開始、結果は2013年後半公表。
・AZD3839、アストラゼネカ(AZ)、PI。Astex Pharmaceuticalsと共同開発、PIは2011年11月終了。
・E2609、エーザイ、PI。2012年3月PI試験1件を終了、2件のPI試験が進行中。
・HPP854、High Point Pharma、PI。PIb試験が2012年上半期に終了予定。
・MK-8931、メルク、PI。40例の健常人における安全性および忍容性の評価データは2012年4月に発表された。2件の追加PI試験が進行中。
・RG7129、ロシュ、PI。2012年1月フランスでのPIが終了、米国でのPI試験は2012年5月に開始。
γセクレターゼ阻害剤/調整剤
・BMS708163(avagacestat)、ブリストルマイヤーズスクイブ、PII。AD前駆症状270例を対象としたPII試験が進行中、結果は2013年末までに公表。
・CHF5074、Chiesi、PII。2件のPIIが進行中。
・E2212、エーザイ、PI。単回投与漸増試験PI試験が進行中。
ニコチン受容体作動薬および拮抗薬
・AZD3480(TC-1734 )、AZ、PII。Targaceptと共同開発、2011年10月にPIIb試験を開始、結果は2013年第3四半期公表。
・AZD1446、AZ、PII。PII試験では、軽度から中等度のAD患者におけるドネペジルの補助療法としての検証を計画している。
・ABT- 560、アボット、PI。NeuroSearchとの共同開発、PIは終了、現在、他の試験は行われていない。
・ABT-126、アボット、PII。用量設定PII試験2件(ともに400例)が2012年第1四半期に開始、結果は2013年第4四半期公表。
・EVP-6124、EnVivo、PII。第2のPIIb試験を2010年4月に開始、2012年2月に終了。PIIIは、PIIの結果に基づき開始される予定。
セロトニン受容体拮抗剤
・LU AE58054、ルンドベック、PII。PII試験の概要を最近公表、PIIIを近く開始。
・GSK-742457(SB742457)、GSK、PII。ドネペジルの上乗せ療法としてのPII試験は2011年8月終了、5件のPII試験は良好・不良な結果が混在。現在、他の試験は実施されていない。
・PF-05212377 (SAM-760)、ファイザー、PI。数件のPI試験が終了。
・ABT-354、アボット、PI。PI進行中、アボットは2012年後半か2013年開始予定のPIIaについての適応を明らかにしていない。
H3受容体拮抗剤
・SAR110894D、サノフィ、PII。認知機能評価のPII試験が米国で進行中、最終結果は2012年後半公表。
・AZD5213、AZ、PI。PIが終了、軽度ADもしくは軽度認知障害患者を対象とした用量設定PII試験はまだ患者リクルートが行われていない。
他のAD治療薬候補
・ELND005(Scylloinositol)、エラン/Transition、PII。2010年5月PII試験終了。2011年6月に長期フォローアップ試験が終了。今後の開発については保留。
・Ladostigil(デュアルコリンエステラーゼ/MOA-B阻害剤)、Avraham Pharma、PII。2件のPII試験結果は2012年第4四半期公表予定。3年間の安全性・有効性試験は2015年後半公表。
・ORM-12741(a2C-アドレノセプター拮抗剤)、Orion Pharma、PII。7件のPI試験および1件のPII試験が進行中。結果は2012年第4四半期公表。
・PBT2(金属タンパク質希釈物質<キレーター>)、Prana、PII。2011年12月にPII開始。PIIa試験は2008年に終了。
・Rilapladib(LP-PLA2阻害剤)、GSK、PII。PIIaプラセボ対照試験の登録中で2012年後半完了予定。
・T-817MA(神経保護抗酸化物質)、富山化学、PII。2011年12月に373例のAD患者を対象とする米国での有効性を評価するPIIa試験を終了。
・Tideglusib(グリコーゲン合成キナーゼ3阻害剤)、Noscira、PII。2011年4月にPIIb試験を開始。最初の結果は2012年第3四半期に公表予定。