ファッションが語るもの
公開日時 2012/03/06 04:00
転職相談にやってくる人たちのファッション、そこから見えてくるものは…。
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我々の転職相談にドレスコードはない。それでも来られる方の多くは、ビジネススタイルだが、週末になるとよりカジュアルな服装でお見えになる方が増える。そして、時にファッションは、言葉以上に本人の志向を物語っていることがある。
保険会社A社で働くTさん(28歳)に初めてお会いしたのは、あるセミナー会場だった。堅い社風で知られるA社の社員らしく、Tさんは黒髪を小さくまとめあげ、服装も黒とグレイを基調とした抑えのきいた品のあるコンサバスタイル。
ところが、彼女が持っている小物で唯一、手袋だけがまるで別人のものかのように異彩を放っていた。銀色のラメ入り素材に、スパンコールの縁取りがあしらってあるのだ。
セミナーブースで仕事の話をしながら、我々はその奇妙な取り合わせが気になっていた。これは、バッグのなかに、たまたま前夜のものが残っていただけなのだろうか。
疑問が解けたのは、Tさんが正式に登録をして、あらためて面談の機会を得たときだった。ドアを開けて入ってきたTさんは、セミナー会場のときと同じような大人しい色づかいのスーツに、目にも鮮やかなグリーンのブーツを合わせていた。
もっとも、今回のファッションは前回に比べると色の取り合わせ・シルエットのバランスがよく、それでひとつのスタイルという風にとれるものになっていた。とはいえ、A社にこのブーツを履いていくのは、なかなか勇気のいることに違いない。
面談が進んで、少し打ち解けたときにTさんのファッションの好みについて聞いてみると、案の定という返事があった。
「本当は、こういう目をひくものが好きなんですけど、なかなか身につける機会が無くて。いつも、ひとつだけ、御守りみたいに身につけているんです」
Tさんにとって、このタイミングでの転職は、仕事・待遇ともにメリットはそれほど無かったように思う。しかし、彼女は「今の会社は組織も人もがんじがらめ。もう少し遊び心が持てる会社に行きたい」と、A社とは真逆の風土を持つ、外資系保険会社への転職を決めたのだった。
とある週末、面談にやってきたシステムエンジニアHさん(30歳)は、ロングスカートに、軽やかなプリント生地をいくつも重ねてあるケープを身につけていた。リゾートにでも出掛けるような服装で、寒い季節にはまったくそぐわない恰好だったのだが、不思議なことにHさんの持つ雰囲気には実にしっくりしていて、思わずそのコーディネートを誉めずにはいられなかった。
「ありがとうございます。先週買ったばかりで、どうしても着てみたくなっちゃって」
茶目っ気たっぷりに目くばせしたTさんは、それから転職動機について、滔々(とうとう)と語り出した。
「私、今の会社では、唯一女性のSEなんです。周りはオタク君ばかりって感じ。実は私もけっこうオタクなところがあるんで、そういう環境もそれほど苦にはしてこなかったんですけど、ずっとパソコンに向かっている毎日から、そろそろ人生を変えたくなったんですよね。でも、どうしたらいいか正直わからなくて」
かなりのハードワーカーで良いスキルを持っているHさんだったので、我々は外部と接する機会が増える仕事として、コンサルタント職などを紹介していったが、Tさんにはしっくりきていないよう様子だった。
「仕事を一生懸命やることは本当に立派なことだと思うんですけど、私の上司・同僚には、仕事のしすぎで体調崩した人も多いんですよ。そういうのをずっと見てきて、働くってなんなんだろう、幸せってどういうことだろうって考えちゃうんですよね…」
真剣な眼差しで言う彼女のその言葉には真実味があった。結局、その日、Hさんは応募手続きをすることなく帰って行き、我々は彼女のキャリアをいかしながら、人生が大きく変わったことが実感できる仕事はないものだろうかと考えていた。
一週間後、我々はHさんからのメールをもらった。
「知人の紹介で、太平洋の島国B国に行くことになりました。大学生・社会人向けに語学とプログラミングを教える仕事です。不安もありますが、聞いた瞬間に『これだ!』と思いました」
Hさんがあの服を買ったのは、何かを予期してのことだったのか?いずれにしても、彼女にとって、南国への招待が断りがたいものだったことは容易に想像できる。
たかが服と思う無かれ、何を着るかは、言葉よりも雄弁になり得るのだ。
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