猫をかぶった虎
公開日時 2012/01/17 04:00
転職後すぐに退職したOさんは、異性関係のトラブルを訴えたのだが…。
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経理職Oさん(29歳)は、学生といっても通りそうな幼顔の女性だった。
「転職で失敗してしまったんです」
広告代理店A社からベンチャーB社に転職してわずか2カ月で退社、再就職を目指すことになった彼女に、我々は退職の理由をたずねた。
「ちょっとお話しにくいことなんですが、友だちがエージェントさんに登録したことがあって、何でも話して大丈夫だよって…」
「そうですね。教えていただいた方が、我々としてはやりやすいことが多いのは事実です」
Oさんは頷いて、一呼吸おいてから話し始めた。
「実は、B社では異性関係に問題があったんです」
「なるほど、そうでしたか」
「お相手はB社CEOの方で、バツイチで独身でいらしたんですけど…」
Oさんは、そう言ってあとは口を濁した。わずか2カ月という在職期間から想像するに、経営者に言い寄られたOさんがそれを断ったということなのだろう。ベンチャー企業でトップをふったとなると、居づらいのも理解出来る。
「分かりました。その点を詳しく、面接で言う必要はありません。トップとの意見の違いということで良いと思いますよ」
こうして転職活動が始まったわけだが、企業選びのポイントを聞かれたOさんは、年収や勤務地などを挙げたあと、少し顔を赤らめながら、こう付け加えた。
「あと、こんなことを言うと笑われそうですけど、やっぱり素敵な出会いのある会社がいいかなというのはあります。前の会社でいろいろあったので、早くサッパリしたいというのもありますし」
こうした本音は未婚の男女なら、あっても当然といえよう。我々は転職先の希望に同年代の社員が多い会社と付記をして、企業紹介を始めた。
だが、選考がはじまると、思いの外Oさんが「良い相手がみつかりそうな会社」というポイントを重視していることが分かってきた。
「オフィスをさらっと見た感じ、オジさんばかりでした。若い方は外回りの営業なんでしょうか?」とか
「パリっとした男性がたくさんいて、とても良い印象です。ぜひ、先に進めてください」
などということを面接後に言ってくるのだ。ご友人のアドバイスで、転職エージェントにはなんでも話して大丈夫と思っているにせよ、ずいぶん大胆である。
数週間後、メーカーC社の内定直前のタイミングで、Oさんと電話で話した時のこと、我々はついこんなことを言ってしまった。
「この会社なら、同年代の人も多いですし、良いお相手が見つかる可能性も高いと思いますよ」
「そうだと良いんですけど。私も、もう29歳なんで、結構焦っているんですよね」
「ずいぶん気にしていらっしゃるなあ、とは思いました。でも、Oさんならまだまだ大丈夫じゃないですか?」
「ありがとうございます。でも、今は積極的にならないと難しい時代ですから」
「そういえば、最初のA社はどうだったんですか?あそこも、若い社員の人が多いと聞いたことがありますが…」
何気なく聞いた質問だったのが、そこでOさんの声は急に一段冷たくなった。
「あぁ、あの会社。あそこのめぼしい男性は一通り試しましたが、みんなことごとくダメでした」
「ひ、一通り、た、試した?」
「その点、今度のC社はエンジニアの方は純な男性ばかりですよね、フフフ」
Oさんの忍び笑う声を聞いたとき、背中にゾクリとくるなにかを感じた。
あとで聞いたことだが、2社目のB社のCEOも、経営者としてはおとなしい、思慮深いタイプだとか。いくら独身とはいえ、転職してきたばかりの女性を口説くとは考えにくい。我々が当初思ったのとは逆で、Oさんの方からアプローチしたがダメだったということだとしたら…。
ひょっとすると、我々は血に飢えた肉食動物を、狩り場に放とうとしているのかもしれない。
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