【SABCS速報】腫瘍の遺伝子パターンで再発時期が予測可能に?
公開日時 2011/12/09 06:00
診断時にみられた腫瘍に発現する遺伝子パターンにより、ホルモン受容体(ER)陽性乳癌の再発時期が異なるという興味深い報告が米国・サンアントニオで開催されている第34回サンアントニオ乳癌シンポジウム(SABCS)で12月7日に開かれたGeneral Sessionでなされた。Minetta Liu氏ら(the Georgetown Lombardi Comprehensive Cancer Center)の研究で、タモキシフェンによる治療を始める前に生検で得た腫瘍組織を調べたところ、3年以内の早期に再発する患者群と、10年以上経過してから再発する患者群では、腫瘍に発現している遺伝子のパターンが異なっていた。
ホルモン受容体陽性の乳癌では、長年にわたって、術後ホルモン療法としてタモキシフェンが用いられ、多くの患者の命を救ってきた。一般に術後5年が経過すれば、「一安心」と考えられているが、中には10年以上を経過してから再発する患者もいる。しかしこれまで、再発時期の違いについて、腫瘍の特徴との関連性は明らかになっていなかった。
Liu氏らは、「タモキシフェン治療中に早期に再発する患者は、長期間経過後に再発する患者とは、腫瘍の生物学的な特徴が異なる。その違いは、遺伝子発現パターンの違いによって同定できるのではないか」との仮説を立てた。そして今回、診断時に生検で得た腫瘍組織を用いて、全身治療を開始する前の腫瘍の特徴(遺伝子の発現パターン)を検討した。
解析対象となったのは、1892~1990年の間に、ステージI-IIIホルモン受容体陽性乳がん患者から、タモキシフェンや化学療法を受ける前に採取した組織である。111例のうち25例が3年以内に遠隔再発し、22例が10年以上経過した後に遠隔再発していた。追跡期間(中央値)は13年。
◎術後補助療法の個別化にも期待
解析の結果、91遺伝子によって早期再発群と晩期再発群とを分類することが可能だった。早期(3年以内)に遠隔再発した患者から得た腫瘍組織では、カルモジュリン1、2、3の遺伝子(CALM1、CALM2、CALM3)、がん遺伝子として有名なSRC、サイクリン依存性キナーゼ遺伝子CDK1、MAPキナーゼの遺伝子(MAPK-1)が多く発現していた。一方、診断から10年以上経過した後に再発した患者の腫瘍組織では、エストロゲン受容体1,2の遺伝子(ESR1, ESR2)やEGFR遺伝子、BCL-2遺伝子、アンドロゲン受容体の遺伝子(AR)が多く発現していた。
Liu氏は「早期再発群と晩期再発群とは、腫瘍の特徴が明らかに大きく異なっていた。これらの知見が検証されれば、より適切なアジュバント(術後補助)療法を行うことが可能になる」と述べた。
記者会見で司会を務めたJenifer Ligibel氏(Dana –Farber Cancer Institute)も、「早期再発する患者には、ホルモン療法以外の何らかの治療を併用すべきだと考えられる。一方、晩期再発の患者には、5年以上のホルモン療法を行う必要があると考えられる。この研究がさらに進めば、術後のアジュバント療法として、化学療法を加えるべきか否か、より長期のホルモン療法を行うべきかなど、アジュバント療法の個別化につながるだろう」とまとめた。