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【ERSリポート】ERSが作業関連喘息の管理に関する初のガイドラインを発表

公開日時 2011/10/07 06:00

9月27日のシンポジウムでは、作業関連喘息の管理について、初めてERSが着手したガイドラインの内容が報告された。転帰悪化を導くリスク因子と、職業性喘息の一次予防を目的とした暴露管理の有効性、高リスク労働者の医学的監視の利点、異なる管理オプションと転帰の関連性について、過去の研究報告を系統的にレビューし、エビデンスレベルを報告した。


ガイドライン作成の背景には、全喘息の約5~25%が職業上暴露する物質に起因したものであり、社会経済的に多大な損害を与えているにも関わらず、これまで主だった改善がないという課題がある。一方で、作業関連喘息は早期診断、早期介入すれば予防可能な疾患でもある。
今回は初の試みとしてある程度のガイドラインを示すことが出来たが、現エビデンスが不十分であることや、特に無作為化対象試験やメタ解析が欠落していることなど、現実的な問題が課題として浮き彫りとなった。


◎転帰悪化を導くリスク因子


リスク因子とされる、暴露期間、起因物質、年齢、性別、アトピー、喫煙、肺機能、喘息反応のパターン(遅発型、早発型)について検討した35件の研究報告をレビューし、Scottish Intercollegiate Guidelines Network (SIGN)スコアにより、これらの研究報告の質をグレード化した上で、転帰悪化との関連性を検証した。研究報告の多くが非系統的で無作為化対照試験は一つもなく、メタ解析ができなかったことから、利用可能な最善の科学的エビデンスとコンセンサスで、結論を導くこととなった。


その結果、職業性喘息の転帰は、診断後の症状発現期間が短いほどより良好であることから、早期認識、早期診断が推奨されることを医療関係者は認識すべきであり(強度:強、エビデンスレベル:高度)、医療的、法律的目的で転帰を評価する際には、喫煙習慣とアトピーの有無について考慮すべきではない(強、中程度)、との結論がなされた。また、性別や喘息反応パターンの転帰に対する影響は、今後更なる研究で検討する必要があると提言された(強、中程度)。


◎職業性喘息の一次予防を目的とした作業関連暴露管理の有効性


職場におけるアレルギー誘発物質や刺激物への暴露を低減させることが、職業性喘息の一次予防として有効かどうか、また皮膚暴露の低減の有効性や、マスクや手袋、人工呼吸器といった保護器具の有効性を検討するため、合計45件の研究報告をレビューしたが、これらもクロスセクショナル試験やコホート試験、ケースコントロール試験が主で、メタ解析や無作為化対照試験はないため、エビデンスレベルは限られたものになっている。


また、暴露低減のプロセスは、隔離、換気、労働者個人が保護する方法など、一つの決定的な方法がある訳ではなく、非常に複雑であることや、暴露の度合いを測定する方法も様々であることなど、暴露の低減と職業性喘息の一次予防を系統的に検討することの難しさが浮き彫りとなった。


アレルギー誘発物質について確かなエビデンスが存在したのは、医療用のゴム手袋であった。粉でコーティングした医療用ゴム手袋の購入数と職業性喘息との関係を分析したレジストリーデータや、高アレルゲンのゴム手袋の使用と手術室の空気アレルゲン値との強い関連性を示したデータなどから、粉コーティングのないゴム手袋に置き換えることで、医療用手袋に関連する喘息の発生と感作が低減できると結論された(エビデンスレベル:高度から中程度)。


その他のアレルギー誘発物質については、暴露低減が職業性喘息の疾患負荷を軽減させる可能性が示唆されるが、環境研究や監視研究は限られており、ベネフィットや有害性、負荷に関するデータが不明であるため、エビデンスレベルは低から中程度とされた。また皮膚暴露の低減と個別に使用する保護器具の有効性についても、ある一定の効果は指摘されるものの、エビデンスレベルは低いと結論された。


◎高リスク労働者の医学的スクリーニングと監視


職業性喘息を引き起こす職場環境において、医学的監視プログラムを実施することは、医学的意義だけでなく社会経済的視点においても重要と考えられるが、スクリーニングや介入、監視などの方法には様々な手段があり、評価項目も複数設定が可能なため、試験結果の比較が難しく、系統的レビューを難しくする点でもある。
また被雇用者である被験者が参加したがらなかったり、ドロップアウト率が高いことや、雇用者とのモチベーションの不一致、監視プログラムのコストといった課題がある。これらの問題を克服する医学的スクリーニングと監視プログラムを促進するためのガイドラインとして、以下を推奨することとなった。
監視の基本は、質問票ベースで作業関連喘息の発達リスクの高い全労働者を同定すること(強度:強、エビデンスレベル:高度)とし、高分子量物質に定期的に暴露している高リスク労働者の同定には、特定のIgEまたは皮膚プリックテスト(SPT)を監視プログラムの中に含めるべきであるとした(強、中程度)。


また職業性鼻炎または/もしくは非特異的気管支過敏性(NSBHR)が確認された労働者では、定期的な質問票の実施や標準的なSPTもしくは特定のIgE抗体検査による感作の発見、専門医療アセスメントへの早期照会といった、医学的監視が実施されるべきであり、監視プログラムは職業訓練の段階から既に実行されるべきであると言及している(強、中程度)。


監視中の症状や感作の特定は、職業性喘息や作業関連喘息、鼻炎、COPDを確認または除外するための調査に発展させるものとし(強、高度)、総合的な医学的監視プログラムは、労働者と暴露の両方に焦点を当てた暴露評価と介入から構成されるべきであるとした(強、中程度)。


◎管理オプションと転帰


職業性喘息に対する最適な管理オプションについては、①原因物質への暴露継続による転帰と、②暴露を継続する労働者に対する薬物治療の有効性、③暴露の完全回避による有効性、④個別に使用する保護器具による暴露低減の効果、⑤作業管理や配置換えによる暴露低減の効果の5つの視点から検討した。


PubMedに2010年3月までに登録された研究報告を総合的にレビューした結果、①については、暴露継続は完全な暴露回避と比べ、喘息やNSBHRの持続とFEV1低下の促進に関連する可能性があることから、患者や医師、雇用者は、原因物質への継続した暴露が喘息症状や気道閉塞の悪化につながる可能性があることを知るべきであるとした(強度:強、エビデンスレベル:中程度)。一方、②については、現在のところ、暴露し続けている患者に対する吸入ステロイドやLABAによる治療が、長期的な喘息悪化を阻止できるとしたエビデンスは不十分であるため、抗喘息治療薬は環境的介入の代替方法としてみなされるべきではないとしている(強:非常に低度)。


さらに暴露の完全回避については、患者とその医師は、暴露への完全回避が喘息の改善と関連する可能性が高いものの、完全な回復には繋がらない可能性があることを認識すべきであるとし(強、中程度)、保護器具の使用に関しては、呼吸器症状を完全に抑制することはできないため、呼吸器への保護器具の使用は、特に長期的な使用目的や重症喘息患者において安全なアプローチとしてみなすべきではないとした(強、低度)。また、原因物質への暴露低減は、社会経済的な悪影響を最小限にするための、完全回避に対する代替手段と考えられるが、エビデンスが不十分であるため治療方針の第一選択とは言えず、確実に喘息悪化を早期発見するためには注意深く医療モニタリングをすべきであると推奨された(弱、低度)。


 

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