脳卒中のリスクを有する日本人非弁膜症性心房細動患者を対象とした、ファクターⅩa阻害剤・リバロキサバンの安全性・有効性はワルファリンに非劣性を示すことが分かった。同剤の安全性と有効性を二重盲検下ダブルダミー法で検討した臨床第3相試験「J-ROCKET AF(Japanese Rivaroxaban Once daily oral direct Factor Xa inhibition Compared with vitamin K antagonism for prevention of stroke and Embolism Trial in Atrial Fibrillation)」試験の結果から示された。大阪府立成人病センター総長の堀正二氏が、京都市で開催されている第23回国際血栓止血学会(ISTH2011)で、7月25日に開催されたセッション「Late Breaking Clinical Trials」で結果を報告した。
試験は、塞栓症のリスクが中等度~重度で抗凝固療法が推奨される日本人の非弁膜症性心房細動患者を対象に、脳卒中の発症抑制を目指した治療における安全性の観点から、リバロキサバンのワルファリンへの非劣性を検証することを目的に実施された。
海外では、同剤の臨床第3相試験として「ROCKET AF」が実施されており、すでに米国心臓協会2010年次学術集会(AHA)で、有効性・安全性両面における非劣性が示されている。
◎日本の実情考慮 減量して試験をスタート
J-ROCKET AFは、日本では、日本循環器学会がまとめた心房細動治療(薬物)ガイドラインでも、70歳以上の高齢者ではワルファリン投与時のINRを1.6~2.6(70歳未満:2.0~3.0)に低下させていることや、日本人のPK/PDデータを考慮し、用量を最適化。リバロキサバンの用量を15mg/日(CCr 30~49ml/min:10mg)に減量した(ROCKET AFでは20mg/日)。
対象は、脳卒中、一過性脳虚血発作(TIA)、全身性塞栓症の既往がある、または▽うっ血性心不全(CHF)▽高血圧▽75歳以上▽糖尿病――のうち2つまたは3つの危険因子を持つ非弁膜性心房細動患者1280例。①リバロキサバン15mg1日1回投与群640例②ワルファリン群640例――の2群に分け、安全性と有効性を比較した。ITT(Intention-to-treat)解析の対象は両群ともに640例、安全性を検証する集団は両群ともに639例、Per-Protocol解析では両群ともに637例とした。
主要安全性評価項目は、重大な出血+臨床上重大な出血の発生。主要有効性評価項目は、脳卒中+全身性塞栓症の発生の複合エンドポイントとした。統計学的なパワー(検出力)が十分にないため、安全性は評価できるが、有効性は評価できないとした。平均治療期間は、リバロキサバン群499日、ワルファリン群481日。
患者背景は、CHADS2スコアがリバロキサバン群(639例)は3.27、ワルファリン群(639例)は3.22だった。脳卒中やTIA、全身性塞栓症の既往がある患者が、リバロキサバン群で63.8%、ワルファリン群で63.4%を占めた。ワルファリンの効果指標であるINR 至適範囲内時間(Time in Therapeutic Range:TTR)は65.0%と比較的高い値となった。ただし、目標INRを下回る症例が28.0%、目標INRを上回る症例が6.9%含まれていた。
◎頭蓋内出血、重大な出血はリバロキサバン群で少ない傾向に
その結果、主要評価項目である重大な出血+臨床上重要な出血はリバロキサバン群で18.04/100人・年に対し、ワルファリン群で16.42/100人・年で、ハザード比は1.11(95%CI:0.87-1.42)で、リバロキサバン群のワルファリン群への非劣性が証明された(p<0.001)。
重大な出血は、リバロキサバン群で3.00/100人・年、ワルファリン群で3.59/100人・年で、リバロキサバン群で少ない傾向が示された(ハザード比:0.85[95%CI:0.50-1.43])。一方、臨床上重大な出血は、リバロキサバン群の15.42/100人・年に対し、ワルファリン群12.99/100人・年で、ワルファリン群で少ない傾向が示された(ハザード比:1.20[95%CI:0.92-1.56])。また、頭蓋内出血はリバロキサバン群で低い頻度だったほか、上部胃腸出血はワルファリン群で多い傾向だった。
有効性の主要評価項目の発生率は、リバロキサバン群で1.26/100人・年に対し、ワルファリン群は2.61/100人・年で、有意差はないものの、リバロキサバン群で少ない結果となった(p=0.050、ハザード比:0.49[95%CI:0.24-1.00])。虚血性脳卒中の発生は、リバロキサバン群7例、ワルファリン群17例とリバロキサバン群で少ない結果となった(ハザード比:0.40、0.17-0.96)。
堀氏はこれらの結果から、「主要評価項目である安全性の治療成績における、リバロキサバンのワルファリンへの非劣性が示された」と述べ、致死性の出血や頭蓋内出血の頻度がリバロキサバン群で少ないことを強調した。
そのほか、有効性を評価するのに十分な統計学的パワーがないものの、「リバロキサバン群は、ワルファリン群に比べ、脳卒中の発症を抑制する傾向がみられた」とした。
その上で、「J-ROCKET AFは、1万4264例を対象に海外で実施されたROCKET AFと一貫性を示している」と結論付けた。
なお、同剤の開発を進めるバイエルはすでに「心房細動患者における脳卒中発症抑制」の適応で厚生労働省に申請している。
【訂正】本文中に、対象患者で慢性心不全とあったのは、うっ血性心不全の誤りです。訂正いたします。(本文訂正済み)