「騙された」と思って、エージェントに来た社長。我々を救ってくれたのは、他ならぬ転職者の方々だった。

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転職エージェントというのは、クチコミの評判を維持するのが難しい仕事だ。全ての方に、同じようにサービスを受けていただければいいのだが、現実問題、それは不可能である。転職の成否はもちろん、希望を何割程度かなえられたかは、人・企業によってさまざま。どうしても、満足度に隔たりが出来てしまうのだ。
ただ、我々は自らの努力以外で救われることが多くある。他ならぬ、転職者の方々によって…。

数年前の話になるが、高給外食店経営A社の社長が、我々のところに抗議にきたことがあった。
「リクルートエージェントは、A社を騙していたのではないか？」
と、社長は疑っていたのだ。ことのはじまりは、A社社長がある経営コンサルタントを介し、役員として経営企画K室長を受け入れたことであった。

K室長は「これから店舗数を増やしていくなら、本部に強いスタッフを置くことが必須」と力説、入社直後から、我々の紹介で人事・経理・事業企画のマネージャークラスを次々と採用していた。
もともとは料理人の社長、商品開発や店舗での教育指導には強いが、事務仕事については素人同然のため、本部スタッフの採用に関してはK室長に完全に任せきっていた。

だが、いよいよスタッフも固まり、これから3カ年の事業計画を発表してもらおうという直前になって、K室長は別の会社から引き抜きを受けたと言い残し、まったく音信不通になってしまった。
慌てて経営コンサルタントに連絡するなど、各方面に連絡をとると、どうやらK室長が公言していた経歴は眉唾もの。最初からA社で仕事を続ける気などなかったようであることが分かった。
となると、彼が採用した人達もあやしいと思うのは当然の流れ。社長は、K室長と我々が結託して、不必要な採用をしたのではないかと考えていた。

もちろん、我々にとっては身に覚えのないこと。しかし、話を聞く限り、K室長の採用が大風呂敷を広げたついでの採用に思えるのも事実だった。A社にとっても重大なことだが、採用された3人にとっても一生を左右しかねない大問題である。

だが、3人は一様に「K室長がいなくなっても、A社に入ろうという気持ちに変わりはない」と、A社の成長に関わっていきたいという意思表示を明確にしてくれた。同時に社長も、元をたどれた自分が招いた事態であることを自覚し、3人を迎え入れ、出来る限りのサポートをしてくれることを約束してくれたのだった。

数年の時を経た現在、3人全員がいまだA社に在籍、とくに人事・経理の2人はA社の中核社員として、大車輪の活躍をみせている。
A社社長曰く。
「あとから選考の様子を聞いたところ、K（室長）は紹介された人の中から、良さそうなのを適当に選んだようだ。それでも、良い人材が集まったのは、エージェントのおかげ。本当に助かったよ」
社長は、とある席で、転職エージェントに懐疑的な経営者に、エージェントの良さを力説してくれたこともあるとか。何とも、ありがたいことである。

だが、我々にしてみれば、この一件で誰よりも立派なのは転職した本人に他ならない。自分を抜擢した人物が失踪・離職したにも関わらず、転職して結果を出しているのだ。もちろん、そのことは社長も分かっているとは思うのが、我々が評価されたのは幸運と言うほかない。

転職エージェントの不思議なところは、サービスを提供する相手である転職者・企業が、顧客でありながら、（言葉は悪いが）我々の商品にみえてくることにある。
我々は普段通りにしているだけなのに、「本当に素晴らしい人を紹介してくれた」「この会社に巡り会えたのは、エージェントのおかげ」と言って下さる。本来評価されるべきは人・会社であるべきなので、お裾分けをいただいているようで、少しくすぐったい気分だ。

だが、そこに我々のモチベーションがあるのもまた事実である。