Tさんは若者にはめずらしく、出来れば都心の会社は避けたいという。
その理由は彼の夜の生活にあった…。
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ほとんどの若い人は、都会で働くことを希望する。どんなに家賃が高く、通勤時間が長くなろうとも、刺激のある生活を求める気持ちはいつの時代も同じだ。それは仕方がない。
だが、仕事によっては、都会暮らしをある程度、諦めるしかないこともある。大企業に就職すれば、地方転勤の可能性はついてまわる。都会のど真ん中に工場を持つ企業は少ないのだから、エンジニアなら地方勤務は当然のことだろう。
とはいうものの、「大企業志望だけど地方勤務はイヤ」「エンジニアしか出来ないけれど都市圏勤務でないと困る」という若者が、驚くほど我々のところにたくさんやってくる。上述のような説明をすると、きょとんとした顔で「そうやって考えたことはありませんでした」というのだから、転職エージェントとしては頭を掻くしかない。
そんな中、営業職Tさん(26歳)は、若者にはめずらしい都会を避けようとする転職希望者だった。最初に2次面接まで進んだ会社の件で、Tさんはこんなことを我々に連絡してきた。
「とても良い会社だと思うのですが、繁華街の真ん中にあるのがちょっと引っ掛かります。誘惑が多そうですよね」
なんと真面目な青年だろうと思ったのは最初だけ。その後に、Tさんは自らの夜の武勇伝を語り始めた。
「僕は派手に遊ぶのが好きなんですよね。ご存じの通り、前の会社は郊外にあったんですが、それでも夜遊びが過ぎて、貯金はたまらないし、寝不足で仕事のミスはするしで、惨々だったんです。都心で働くようになったら身が持たないなって思って…」
詳細を聞くと、Tさんの豪遊振りはハンパではなく、たしかに都心の繁華街近くで働くようになったら、どうなってしまうのかと心配になるものだった。
その後の会社紹介では、出来るだけ繁華街から離れた場所・寄り道せずにまっすぐ通勤できるところを選んだつもりだったが、サービス営業という範囲の広さ、都心の求人の多さから、すべてをより分けることは出来なかった。
そして、Tさんが最初に内定をもらったA社は、まさに繁華街のど真ん中。路地をひとつ曲がれば…、そんな立地の会社だった。
果たして、TさんはA社をどう判断するのかと思われたが、彼はあっさりA社入社を決めた。
たしかに、繁華街を避けようとしていたTさんではあるが、繁華街に嫌悪感をもっているわけではない。むしろ大好きなのだ。せっかくもらった内定を蹴るほどの理由になり得ないのは当然だったのかもしれない。
こうして、誘惑の街で働き始めたTさんだったが、入社後の様子をA社に聞くと、夜遊びにかまけているようなことはなく、残業続きに文句も言わず真面目に働いているとのこと。仕事の面白さに目覚め、夜遊び離れが出来たのかな、などと想像していたのだが、別件で彼と連絡をとった時に、真相が明らかになった。
Tさんは言った。
「繁華街がコワいんです」
3ヶ月前とは180度の変わりように、驚いて
「何があったんですか?」
と聞くと、Tさんは入社1週間の恐怖の体験を教えてくれた。
夜遊び大好きのTさんは、入社から数日後、さっそく会社近くで友人と待ち合わせて、転職祝いで大いに盛り上がる予定だった。ところが、2件目に入ったのがいわゆる「ぼったくりの店」。飲み過ぎて記憶も定かでないTさんと友人は、身ぐるみ剥がされた上に、平謝りでようやく店を出ることが出来たのだという。
その3日後、懲りないTさんはまた別の友人らと飲みに出て、そこで「自称・女子大生」という2人組の魅力的な女性と知り合った。女性2人が馴染みの店に行きたいというのでついていくと、そこは再び「ぼったくりの店」。
今度は「自称・女性の兄」が登場し、17歳の少女にいたずらをしようとしたとインネンをつけられた。警察沙汰にされたくなかったら、出すモノをだせと迫られ、転職したばかりでトラブルを起こせないと思ったTさんは、泣く泣く相手のいいなりに…。
「都心の繁華街はコワいので、週末だけ地元で仲間と盛り上がることにしました。平日は仕事で頑張ります」
夜遊びが過ぎて、痛い目にあうのではと心配していたTさんだが、まさか入社1週間で、2度も高い授業料を払うことになろうとは…。
しかし、これで仕事に専念してキャリアを磨けるようになるなら、それも無駄にはならないかもしれない。人生万事塞翁が馬というヤツである。
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