正月総会
公開日時 2010/12/28 04:00
見事な対応で競争倍率の高いA社への転職を成功させたKさん、しかし、彼にはさらなる試練が待ち構えていた。
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Kさん(30)がメーカーA社で勝ち取った内定は、見事なものだった。採用基準にある人だけでも、応募者数がかるく30人を超えたA社の経理求人。キャリア・経歴の華やかさでいえば、Kさんは目立たない存在といって間違いなかった。そんな激しい競争のなかで、彼をトップコンテンダーに押し上げたもの、それは彼の面接のフィードバックを生かす力だった。
Kさんは面接で相手企業からの評価に真摯に耳を傾け、自分の話す内容をブラッシュアップさせることに長けていた。彼は自分のやり方に固執せず、それでいて、企業の言ったことを気にしすぎて自滅するようなこともなく、適度に話術を磨いていくことが出来たのだ。
A社の面接は全部で5回。Kさんは回を重ねるごとに評価をあげ、ついに並みいる競合を抑え、内定を手に入れたのだった。
「本当におめでとうございます。A社も良い人が採用できたと喜んでいましたよ」
「ありがとうございます。とりあえずホッとしましたが、最終面接の評価はどうでしたか?」
Kさんの奇妙な質問に、我々は首をかしげた。
「内定になったんですから、もちろん良かったと思いますよ」
「それでも、話が不自然だったところや、マイナスに評価されたところもあったのでは?何かA社から聞いていませんか?」
内定をもらってなお、フィードバックを欲しがるKさんに、我々は不安を覚えずにいられなかった。
「まさか、Kさん、まだ他の企業の面接を受けるつもりなのですか?A社に入社する意志を固めたと思っていたのですが…」
「ええ、もちろんそのつもりです。ただ、親族に転職の説明をするのに、参考になるかと思いまして…」
「親族に?どういうことですか?」
「はあ。正月に実家に戻るのですが、そこで『正月総会』があるんです」
「正月総会?」
「要は親族が一堂に会して、諸問題を話し合う場なのですが、私の転職も『裁判』にかけられることになっていまして…」
「さ、裁判?」
「はい。私の親族のなかでそういう言い方をしているだけなのですが、結婚・離婚とか仕事選びとか、重要な事項については、裁判というカタチで賛成・反対に別れて、議論をするんです」
我々、転職エージェントにとって、正月やお盆といった、家族が集まる季節は、実は鬼門である。家族・親族の意見によって転職者の意志決定が覆ったり、方向性がガラリとかわって、一から転職活動をやり直したりといったことが珍しくないからだ。
いろいろな意見を聞くことは必ずしも悪いこととは言えないのだが、我々の経験から言って、たいていの場合、親戚の意見は、転職活動を混乱させるだけに終わる。
しかも、どうやらKさんの実家で行われる『正月総会』『裁判』は、親族が意見をするといった生やさしい場ではないらしい…。
「おおげさではなく、『正月総会』は最終面接より緊張します」
と言うKさん。彼のなかでは、転職のヤマ場は終わっていなかったのだ。
後から分かったことだが、彼がフィードバックを利用して、面接官に応じて話を合わせられたのは、若い頃から親戚の反対を受けないように立ち回る術を身につけていたためらしい。
果たして、Kさんは親戚相手でも転職を納得させることが出来るかどうか…。我々としては、とんでもない動議が採択されることのないよう、願うばかりなのである。
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