第72回 日本血液学会総会

Ｔ細胞性リンパ芽球性リンパ腫治療中に併発した播種型接合菌症
高用量リポソーマルアムホテリシンB投与と一次病巣の外科的切除で奏効
Reversed Halo Signで早期診断

Ｔ細胞性リンパ芽球性リンパ腫（T-LBL）治療中に併発した播種型接合菌症に対し、高用量アムホテリシンBリポソーム製剤（製品名：アムビゾーム：L-AMB）の投与と一次病巣の外科的切除が奏効し、救命に至った一例を名古屋市立大学腫瘍・免疫内科学の吉田達哉氏らが９月24日、横浜市で開催された第72回日本血液学会学術集会の一般口演で報告した。

接合菌症は、造血器腫瘍や糖尿病などの易感染者に発症する真菌感染症。造血器腫瘍治療時に発症すると、播種型接合菌症の致死率は90 ～ 95％と、予後不良であることが報告されている。
　一方、近年では、確定診断のついていない糸状菌感染症疑いに対し接合菌に無効である抗真菌薬が使用されるようになり、接合菌症の発症頻度が増加傾向にあって、対策が必要とされている。

◎バンコマイシン、ボリコナゾール（VRCZ）無効例で接合菌症疑い

吉田氏らは、Ｔ細胞性リンパ芽球性リンパ腫と診断された54歳の男性に対して急性リンパ性白血病に準じた寛解導入化学療法を実施。化学療法開始後20日目のCT検査で右肺中葉に浸潤影を認めたため、グラム陽性球菌または侵襲性アスペルギルス症を想定し、バンコマイシン、ボリコナゾール（VRCZ）の投与を開始した。化学療法開始32日目の胸部CTでは右浸潤影の改善は認められず、スリガラス陰影の周囲にリング状の浸潤影がある“Reversed Halo Sign”を認めた。また、対側左肺下葉の背側に新たな浸潤影と右腎臓に造影効果を示さない一部壊死と考えられる病変を認め、病変が播種している所見を認めた。

このCT所見に加え、喀痰及び血液の培養、βDグルカン、アスペルギルス抗原のいずれも陰性であり、VRCZにも不応性であることから、接合菌症を疑った。同症に適応症を持つL-AMB ３mg/kgの投与を開始、すぐに高用量である６mg/kgに増量した。なお、その後施行した気管支内視鏡検査で、接合菌症特有の菌糸が確認され、確定診断に至った。

L-AMB投与により最終的にCRP値は陰性化し、CT所見では左肺下葉の浸潤影は早期に改善、ただし依然として右肺中葉の浸潤影と腎臓の病変は残存していた。そのため、Reversed Halo Signを伴った一次病巣である右肺中葉、胸壁合併切除術を行った。その後、接合菌の再発なく、T-LBLに対する化学療法が継続できている。
　播種型接合菌症について吉田氏は「早期診断・早期治療が極めて重要であり、とりわけCT像でのReversed Halo Signは早期診断のための特異度の高い所見である」との見解を示すとともに、「今回の症例は、早期診断に次いで高用量L-AMBの投与と一次病巣の外科的切除により救命できた」と強調した。

名古屋市立大学腫瘍・免疫内科学　吉田達哉氏に聞く

◎ボリコナゾールや抗菌薬を投与しても無効例では接合菌症を念頭に

播種型接合菌症は極めて予後が不良で、治療の開始が遅れるほどその傾向が強くなるとされています。今回報告した症例では、高用量のL-AMBを使用して病勢をコントロールできました。手術も良好に施行し、その後も再燃もないということは注目すべき点だと思っています。

当初ボリコナゾールが無効でCRP値は20mg/dl近くまで上昇しましたが、高用量のL-AMBでCRP値はゼロになるまで鎮静化に至りました。これはまさにL-AMBの力だと考えています。

接合菌症の発現頻度は稀ですが、早期診断の大きなポイントはCT画像で示されるReversed Halo Signです。ただし、当初アスペルギルス症を疑ってボリコナゾールや抗菌薬を投与しても無効の際は、接合菌症を念頭に早めに高用量のL-AMBに切り替えて治療を開始することが患者の予後を良好にするために非常に重要です。

L-AMB投与時に注意しなければならないのは、電解質異常と腎機能障害ですが、モニタリングしながらカリウム補充や補液を早めに行えば、十分対処可能はものと考えています。