許されざる者
公開日時 2010/11/16 04:00
優良企業からあえて転職しようとするエンジニアKさん。その裏にあった事実とは…。
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約3年前、Kさん(28歳)はフィールドアプリケーションエンジニア(技術営業職)から、念願だった開発職に転職をした。当時、機械部品メーカーA社の開発設計に受かることが出来たのは、Kさんの強い熱意と、当時のエンジニア不足によってうまれた思いがけない成果だった。
A社は競争力のある独自技術を持っており、製造不況のなか、今も業績を維持している。そのため、Kさんが今回再転職を申し出てきたことを我々は奇異に感じていた。
「もう一段、キャリアアップできないかと思いまして…」
Kさんはそう言ったが、3年は少し短すぎる。A社に残っていた方がいいとアドバイスをすると、それなら技術営業に戻ってもいいとまでKさんは言うのだった。
これはなにか事情があるに違いないと感じていると、応募先の企業も同じことを思ったようで、面接のあとには「応募動機が分からない」「何を目指しているのか不明」といったコメントが戻ってきた。
そこで、我々はあらためてKさんに事情を問うてみた。
「転職理由がちゃんと説明できなければ、内定は難しいですよ。何があったのか話してもらえませんか?」
数日間説得を続け、我々はようやく、Kさんの本当の転職理由を知ることができた
KさんはA社に入社したものの、面接の時に感銘を受けたマネージャーのプロジェクトではなく、別のプロジェクトにアサインされることになった。ところが、そこのリーダーと反りが合わず、Kさんは思いあまって、プロジェクトが滞ってリーダーの責任が問われるように裏で画策をしたのである。
ことが明るみに出て、戒告を受けたKさんは、自分のしたことを深く恥じ、それを言うことが出来ずにいたのだ。
この話を聞いた我々は、Kさんに概ねこんな話をした。
Kさんのやったことは、たしかに立派とは言えないかもしれないが、組織内の足の引っ張り合いなんて、そんなに珍しいことではない。それほど気にしなくても良いのでは?
むしろ、ひたすら真っ直ぐな人が多いエンジニアのなかで、自分の希望を叶えるためにそこまでするのは、ある意味、凄い行動力。Kさんのしたことを別の角度からみれば、目標実現のために政治的・戦略的に動いたとも言える。そういうセンスは技術営業職の現場ではプラスに働く可能性だってある。
Kさんは自分が聞いたことが信じられないといった様子だった。
「ずっと許されない行為だと責められてきたのに、まさか、この話をして誉められるとは…」
その後、Kさんは応募先を技術営業系に絞って、転職活動を進めた。
「ああ言われて、自分が何に向いているのか分かった気がします」
技術営業の方がニーズが強かったことももちろんあるが、迷いがなくなるというのは実に大きなことだ。転職動機を正直に(しかし、あからさまな詳細は省いて)語れるようになり、それまで一次面接の突破も難しかったKさんは、スルスルと選考を通過していくようになった。こうなれば、内定をもらうまでにそれほど時間はかからなかった。
転職に関わるすべてが終わった後、Kさんはあらためて我々に聞いてきた。
「あの時、僕がやったことは、本当に大したことじゃないと思ってああいう話をしたんですか?それとも仕事上のテクニックですか?」
Kさんの聞き方が真剣だったので、我々も本音を語ることにした。
「両方じゃないでしょうか。もし自分の部下がしたことだったら、激怒したかもしれません。でも、同時に自分の不明も恥じたと思います」
「私がしたことは、人として、許されることだと思いますか?」
Kさんの口調から、彼がチームを裏切ったことで、周囲から辛い責めを受けてきたことが感じ取れた。
「我々は人をジャッジする立場ではありませんが、これは言えるのではないですか?人として許されないことなら、内定はとれませんよ」
我々の軽口に、Kさんは笑ってくれた。
「ははは、そうですね。そうですよね」
この転職で、Kさん自身が自分を許す気持ちになってくれていたら、そう願う我々なのであった。
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