妻の思惑、夫の思惑
公開日時 2010/11/02 04:00
奥さんの紹介で我々のところにやってきたSさん。彼の転職には、結婚3年目の夫婦それぞれに思惑があった。
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メディカル分野の研究職のSさん(30歳)は、奥さんKさん(29歳)の紹介で我々のところにやってきた。SさんとKさんは、大学のサークルの先輩・後輩。奥さんの方は、サービス関連の会社で人事としてバリバリ働いている共働き夫婦だった。
採用の仕事をしている関係で、以前から我々と付き合いがあり、信頼をおいてくれていたKさんは、旦那さんSさんの転職裏事情を打ち明けてくれた。
「仕事のこともあるんですが、彼の場合はそれだけじゃないんですよ。恥ずかしい話なんですが、実は夫は会社で女性問題を抱えているようで、そのこともあって転職を考えているんですよねえ」
Kさんは「夫はなかなか認めたがらない」と前置きした上で、Sさんは部内の女性と火遊びに及び、そのことが社内に知れて居場所がなくなっているらしいのだと説明してくれた。
そんなことはおくびにも出さず転職活動を始めたSさん。彼は転職に非常に積極的で、普通は嫌がられる勤務地の離れた会社にも、当然のように応募の意志をしめしてくれた。
こうした転居前提の求人については、むしろ妻のKさんの方から強い反発があり、我々のところにも一度「私が転職したばかりで、一緒についていける状況じゃないのは分かっているのに、どうしてこんな求人を紹介するんですか?」という趣旨の抗議の連絡がきたほどだった。
しかし、Sさんの専門的なキャリアを生かせる求人は限られており、仕事上満足できる転職を目指すとなると、転居を前提としたポジションに応募せざるを得ない。旦那さんのSさんの方はその点について完全に割り切っており、「まだ結婚3年ですが、単身赴任も仕方ないと思っています」と、淡々としていた。
一方のKさんも、冷静になって状況が飲み込めてくると、女性問題のある現職に残るよりはマシと思ったのか、渋々ながら単身赴任での転職に同意してくれたのだった。
それから1ヶ月、Sさんの転職が詰めの段階になった頃、ふとしたタイミングでSさんは我々に言った。
「妻がいつもお世話になっているそうで、ありがとうございます。今回の転職も妻がいなければ無かったかもしれないことなので、本当にご面倒をかけました」
Sさんが女性問題に関わるようなことを話すのは初めてのことだったので、我々は遠回しな表現を心がけた。
「いいえ、こちらこそお世話になっておりまして。でも、奥様は本当にSさんのことを気に掛けていらっしゃるんですね。単身赴任のことも、当初はそうとうに嫌がっておられましたし」
「ハハハ、そうですねえ。彼女は気に掛けすぎなんですよ」Sさんは自嘲気味に笑い、それから前の会社での出来事について話し出した。
旦那さんのSさんによれば、前の会社で彼が女性問題を起こしたことは1度もないという。ただ、研究職にしては珍しく若い女性の多い職場だったため、Kさんがいらぬ心配をして、頻繁に会社に連絡をしてきて、そのせいで色々言われることになったのだとか。
「毎日何回も連絡しないと不安になるみたいなんですよ。あまりにも縛りがきついんで、ボクとしては今回単身赴任することになったのも、悪くないなという感じなんです」
Sさんの転職から数か月、奥さんの不安が深まってやしないかと、我々は余計な心配をしていたのだが、仕事の合間の雑談からすると、2人はどうやらうまくやっているらしい。
Kさんは旦那さんの話になると
「前の会社の問題はきっちり清算してくれたみたいで、本当に良かったです。離れて暮らすことになるので、どうなるかと思いましたけど、結婚前のような恋人気分に戻れて良い面もありますね。同居している時は、煙たがられてばかりだったんですが、たまにしか会えないとなると、妻の有り難みが身に染みるのか、けっこう大事に扱ってくれるんですよ」
とニコニコ顔。
はたして妻の勘があたっていたのか、それとも夫の弁明が真実なのか、少し気になるところではあるが、とりあえず幸せそうなKさんを見ていると、今回の転職が夫婦の思惑のいいあんばいの妥協点だったのは間違いないようだ。
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