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リストラという罪

公開日時 2010/10/19 04:00

金融ショック後、人員削減にあたってきた人事Kさんは、自らを処す意味で転職に動こうとしていた。

 

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本来「再構築」を意味するリストラが、日本で人員削減と同義になって以来、人事は「人を採用する」だけでなく、「人を辞めさせる」仕事を請け負う部署となった。
そして、我々のところにはしばしば、以下のような理由で転職にやってくる人事担当者があった。

 

「たくさんの人を切ってきたケジメとして、自分も会社を辞める」

 

Kさん(44歳)は、A社のリストラの責任者として、会社を去ることになった人達の相談にのり、個人的に我々のところに転職者を紹介してくれていた。Kさん自身が、10年ほど前、我々を通じて当時はまだベンチャーだった通信サービスA社に転職していたためだ。
そのKさんが我々のところにやってきて言った。
「リストラの仕事がようやく終わった。私自身が採用を決めた人達が数多く去っていった。私がこのままおめおめと会社に残ることは出来ない」

 

A社は2000年前後、有望ベンチャーとして毎年二桁の成長を続けていた。KさんはA社のキーパーソンのひとりとして、採用・人事戦略の核となり、多くの人材を採用していた。
変化が起きたのは5年前、A社は買収され、創業者の手を離れ、大手グループ企業に取り込まれた。その後も事業は続いていていたが、金融ショックで閉鎖が決まった。本部スタッフとなっていたKさんは2年をかけて「戦友たち」の配置変え・リストラの仕事にあたっていたのだ。

 

うまくグループ内で居場所を見つけられる者もいたが、仕事内容の違いや、組織の都合に嫌気が差し、辞めた者も多かった。
「人生で、一番充実した時間を共に過ごした仲間を見捨ててしまった」
Kさんのなかには、どうにも消化しきれない罪悪感が鬱積していた。

 

転職活動を始めてしばらくした頃、一通の手紙がKさんのところに届いた。元A社の社員同士で結婚を決めた者がおり、披露宴の招待状がKさんのところに来たのだ。
「会わせる顔がない」という気持ちもKさんにはあったが、直接、自分の口から自分も転職するつもりであることを伝えるべきだと考え、披露宴の席に出向くことにした。

 

新郎新婦を除く旧A社の人達だけが集まった2次会の席で、Kさんは自分が贖罪としてA社を辞する覚悟を口にした。彼としては、決意の発言だったのだが、同席した人達の反応は驚くほどアッケラカンとしていた。
「それ、だたの『良いカッコしい』じゃないですか?」
A社がなんでもフランクに話をする社風だったためか、酒の勢いも手伝ってか、はたまた既に別に会社にいる気楽さか、旧友たちの反応はぶっちゃけたものだった。
「そうそう。自己満足、自己満足」
「そんなの誰も望んでないですよ?」
「本当は、他に理由があるんじゃないの?相談にのるよ?」
Kさんは拍子抜けすると同時に、悪い夢から目が覚めたような気分がしていた。数日後、Kさんは転職活動を止めた。

 

たしかに、リストラの罪を贖うために自分も辞めるという感覚は、今となっては古くさいようにも思える。だが、おそらくKさんがA社に転職してきた頃は、その感覚が普通のことだったのだ。当時、人員削減を余儀なく命ぜられたあるメーカーの人事が、「電車を待っている時、最前列に立つ気にならない」と、恐ろしいことを言っていたのを覚えている。そのくらい、リストラ人事は会社の憎まれ役であった。

時代は移り変わる。Kさんの転職で、思いがけず時の流れを感じた我々なのであった。

 

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