老会長の弱点
公開日時 2010/04/06 04:00
コンサルティングA社のマネージャー求人は、会長の最終面接を誰も通ることが出来ずにいた…。
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ITコンサルティング事業を営むA社には、かなり長く空席になっているポジションがあった。コンサルタントを束ねるマネージャー職である。
A社コンサルタント部門は、20代のスタッフがほとんどで、マネージメントはシニアマネージャーとセクションリーダーの2人に任されていた。スタッフ数が増え、全員に目が行き届きにくくなっていたので、出来れば指導できる人材を採用したいと考えていたのだ。
だが、この求人に応募した候補者たちは、A社のK会長の面接でことごとく落とされていた。会長はA社の前身となった広告サービス会社の創業者で、現在は現場コンサルタントたちとはあまり接触がなかった。
「K会長が採用の決裁をする必要があるんでしょうか?」
何名もの候補者が不採用の烙印を押されたあと、我々はA社にそう疑問を投げかけた。だが、A社からの返事はつれないものだった。
「おっしゃりたいことは分かります。ただ、今回の採用はマネージャー。当社は平均年齢の若い会社ですから、採用になった方は必然的に経営にも絡んでくることになるのです。そのため近い将来、K会長と仕事をする可能性もあるんです」
なんとか老会長をウンと言わせることは出来ないか、我々は考えてみた。これまでK会長との面接でダメになった人達の不採用理由をみてみると、キャリアより人物的なことが焦点になっているのは明らかだった。
「寛容さに疑問。人間には必ずいいところがある。それを引き出せる懐の広さが必要」
「仕事一辺倒すぎる。部下から家庭問題について相談があっても、彼には助言ができないだろう」
辛辣なコメントは他にもあったが、察するにK会長の感覚では、これまで面接した人物では人生経験が浅すぎると思っていたようだった。
そんななか、Tさん(41歳)の会長面接が組まれることになった。
我々はTさんに、これまでのA社で行われてきた採用の結果を説明し「この求人、良い条件なんですが、会長が本当に厳しいので落ちても気になさらないで下さい」と言ったのだが、Tさんは「いや、私ならチャンスがあるかもしれません。まあ、見ていて下さい」と、謎の笑みを浮かべたのだった。
Tさんの不敵なコメントは、直後の内定という形で結実した。いったい、Tさんはどんなマジックを使ったのか、我々が知りたがったのは言うまでもない。
「自分の家庭の話をしただけです」
Tさんはこともなげにいった。
「昨年、孫が生まれたので、その話で盛り上がりました」
「え?Tさん、お孫さんがいらっしゃるんですか?」
「はい。私が20歳で学生結婚したことは面談の時に申し上げたと思いますが、長女が、父に似たのか、19歳で結婚しまして、昨年初孫が生まれたんです。K会長とは孫の写真を見せ合って、それで意気投合です」
風貌若々しいTさんは、20代社員からみれば兄貴的な雰囲気の持ち主で、現場との面接ではその点も大いに評価されていた。まさか、この人がお爺ちゃんとは夢にも思わない。
「孫って、無条件に可愛いんです。自然に顔がほころんでくる。K会長の厳しい面なんて、少しも見ずに面接は終わりましたよ」
作戦成功のTさんはしてやったりの様子。子育てを終えて、娘を嫁に出しているとなれば人生経験は十分と判断されたのだろう。
しかし、内定の決め手が孫とは、これまた珍しいケースである。
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