大型商品ディオバンの特許切れを前にノバルティスが新たな戦略を打ち出している。今年の9ヶ月間だけでも全世界で44億ドルの売り上げを記録し、アメリカの高血圧薬市場ではシェア40%というアンジオテンシンII受容体拮抗薬ディオバンだが、2011年から2013年にかけて、ヨーロッパ、アメリカ、日本の3大市場で相次いで特許切れを迎え、後発品の攻勢にさらされることになる。
新規戦略では高血圧薬市場でディオバンから近年同社が上市した直接的レニン阻害薬「テクターナ」やディオバンとカルシウム拮抗薬アムロジピンの合剤「エクスフォージ」への注力の転換を図ると同時に他領域の新薬の強化を目指す。
このなかでノバルティスが高い期待を寄せるのは07年以降に各国で発売が始まった慢性骨髄性白血病(CML)治療薬「タシグナ」だ。同社は既にこの領域でファーストライン治療薬として知られ、08年の全世界での売上高約37億ドルの「グリベック」を有しており、現在タシグナはグリベックに抵抗性を示す患者へのセカンドライン治療薬の位置づけであり、09年の9月末までの9ヶ月間の売上高は1億4400万ドルに過ぎない。しかし、グリベックが2015年でやはり特許切れを迎えることから、タシグナを今後は新たにCMLと診断された患者でのファーストライン治療薬に位置付けたい考え。
10月末にはフィラデルフィア染色体陽性CML患者を対象にタシグナとグリベックの効果と安全性を比較した大規模無作為化試験「ENESTnd」の概要を公表し、タシグナがグリベックに比べ、CMLの原因となるBcr-Ablタンパクをより迅速に、より低レベルまで減少させることを明らかにした。
一方、タシグナ投与例では、過去にごく少数ながらQT延長に伴うと思われる突然死が報告されているため、10月末に行われた同社の第3四半期のアーニング・コール(電話会議式収支報告発表)では、多くのアナリストから、こうした安全性に関する質問が相次いだ。同社のオンコロジー・分子診断事業部門グローバル責任者のDavid Epstein氏は、「タシグナはグリベックと比較して、浮腫や重度の血液毒性、消化器障害が少なく。最新の試験結果では突然死も報告されていない」と説明している。