松本清張の一風変わった味わい方
公開日時 2009/09/29 00:00
松本清張の秘密私淑する松本清張のほとんどの作品を繙いてきたが、MRとしても人間としても学ぶことが多い。『松本清張を推理する』(阿刀田高著、朝日新書)は、同じ作家という立場から著者が清張の創作の秘密に鋭く迫っている。清張好きには見逃せない一冊だ。読み比べの妙味阿刀田は、清張の初期の短編「赤いくじ」はモーパッサンの『脂肪の塊』から影響を受けているはずだと指摘する。この2つの作品を読み比べてみよう。「赤いくじ」(松本清張著、新潮文庫『或る「小倉日記」伝』所収)は、1945年の日本敗戦時の朝鮮を舞台に、若く美しい人妻の悲劇が描かれている。勝利者として乗り込んでくるアメリカ兵をもてなすために日本女性を差し出そうという日本軍幹部の卑劣な目論見によって、くじで決められた女性たちの中に、この人妻も含まれてい...