武田薬品のクリストフ・ウェバー代表取締役社長CEOは4月21日、CPHI Japan（国際医薬品開発展）で講演し、“テックバイオファーマシューティカルカンパニー”を目指す考えを明言した。ウェバー社長CEOは、「データテクノロジーは大きなテーマ。この業界を大きく塗り替えるだろう」と見通した。続けて「トランスフォーメーションしないということは競争性が失われること」と述べ、同分野に200億円を投じた意義を強調した。中長期的なビジネス見通しについては、「アジア・中国は欠かせない。新興国で成功するには、（患者の）アクセスと適正負担の考え方が必要。米国価格では誰も新薬を入手できない」と述べ、「我々のチャレンジはデータテクノロジーを活用し、1分子あたりの研究開発コストを下げていくことだ」と強調した。

◎「この業界は米国市場に依存しすぎている。異常な状況だ」

「この業界は米国市場に依存しすぎている。異常な状況だ」－。「２億5000万人の米国にここまで依存して、40％のシェアが生まれる。世界人口は70億人なのに。だから、私たちは長期的視野をもって、いま急速にシェアを伸ばしている中国やアジアなどの新興国に注目している」―。ウェバー社長CEOは会場参加者からの質問にこう答えた。

この日は、ウェバー社長CEOのプレゼンテーションに続き、会場参加者からのオープンな質問に社長自ら答える形式で行われた。ウェバー社長CEOは、「武田薬品だけでなく業界全体でデジタル化が推進されており、社内の全ての仕事が変わるだろう。これは革命的だ。この業界が大きく変遷する」と熱弁を振るった。こうした発言には伏線がある。ウェバー社長CEOは、日本に限らず世界各国で医療制度に対する財政圧力が高まっていることに言及。「我々製薬業界もヘルスケアシステムの一部で、保険償還に対する圧力が増していることについては業界的なチャレンジだ」と述べた。

ビジネス上の課題についてウェバー社長CEOは、モダリティの多様化で高騰するＲ＆Ｄ費用をどう賄い、再投資できる環境を整えるかをあげた。講演では、10年前のタケダの“弱み”に触れ、世界第1位の米国におけるプレゼンス（2014年で20％超）が低かったことを問題視した。その上で、「この5年の上市新薬でみると米国のプレゼンスは70％に高まった。研究開発主導型企業として米国でのプレゼンスは重要だ。そこから研究開発費のペイバックが捻出される」と強調。「21年は米国売上が48％を占め、プレゼンスを3倍に増やした。そしてスケールを増やすことで投資家を引き付けるマージンも2倍となり、研究開発費も大幅増やすことができた」と胸を張った。

◎ポートフォリオの多様化で「1製品への過剰な依存は防ぐことができる」

ウェバー社長CEOは同社の研究開発の考え方にも触れた。フォーカスエリアについては、①オンコロジー、②ニューロサイエンス、③消化器・炎症疾患、④希少遺伝子疾患、⑤ワクチン―をあげる。「タケダの特徴は、一番売上の大きな製品でも売上全体の20％を切るくらい。大きな製品を持つメガファーマもあるが、我々はそうではない。全売上の80％は10製品で成り立っており、ポートフォリオも多様化できている。これにより1製品への過剰な依存は防ぐことができる」と強調した。

◎中長期「アジア・中国は欠かせない」　成功にはアクセスと適正負担の考え方が必要

中長期的なマーケット戦略については、「アジア・中国は欠かせない」と強調。ただ、「新興国で成功するためには、（患者）アクセスと適正負担の考え方が必要だ。米国の価格では上市できないし、誰も入手することはできない。フレキシブルに価格を設定しなければいけない」と述べた。すでに同社はデング熱ワクチンを欧州やインドネシアに供給している。ウェバー社長CEOは、「インドネシアではワクチンが入手しやすい価格を設定した。もちろんマージンは下がるが、ワクチンを提供することが重要。それでも利益は生み出される」と述べた。さらに、「新興国からのビジネスはより増大するだろう」と見通し、「長期的にみると低コストで新薬開発が求められる。これまでの新薬開発は金がかかりすぎていた。データテクノロジーを活用することで、１分子に対するＲ＆Ｄコストを下げることができる。各国の医療制度が財政難に苦しんでいる中で、我々のチャレンジは1分子の開発コストを下げていくことだ」と強調した。