日本人がん患者 疫学ビッグデータ解析から軽度高血圧の心不全発症リスク上昇を報告 東大など4大学
公開日時 2022/09/12 04:50
東京大学、佐賀大学、香川大学、滋賀医科大学の研究グループは9月9日、日本人のがん患者において軽度高血圧の段階から心不全発症リスクが上昇するとの疫学ビッグデータ解析結果を発表した。がん患者の血圧上昇が心不全などの心血管イベント発症リスクと関連すると報告した世界初の大規模疫学研究。抗がん剤を使用することで高頻度に高血圧を引き起こすことが報告されている。研究グループは、「がん治療中の患者であっても血圧の管理が重要」と指摘。「今後の研究で、がん患者における適切な高血圧の治療指針の構築が求められる」と強調した。研究内容は9月8日付のJournal of Clinical Oncologyオンライン版に掲載された。
研究報告を行ったのは東京大学の小室一成教授、金子英弘特任講師、佐賀大学の野出孝一主任教授、香川大学の西山成教授、滋賀医科大学の矢野裕一朗教授らの研究グループ。国内最大規模の健診・レセプトデータベース「JMDC Claims Database」に登録された症例を対象に、がん患者における高血圧と心血管イベント発症リスクの関連を疫学ビッグデータ解析により検証した。データ解析の対象症例は、2005年1月から2020年4月までにJMDC Claims Databaseに登録された日本人における主要ながん発症部位である、乳がん、大腸直腸がん、胃がんの既往を有する3万3991 症例(年齢中央値53歳、34%が男性)。
◎平均観察期間2.6±2.2年の間に779症例で心不全の発症が記録
解析結果によると、平均観察期間2.6±2.2年の間に779症例で心不全の発症が記録された。米国ガイドラインに準じて分類した正常血圧(収縮期血圧 120mmHg未満かつ拡張期血圧 80mmHg未満)と比較して、心不全のリスクは、ステージ1高血圧(収縮期血圧130-139mmHgあるいは拡張期血圧 80-89mmHg)でハザード比1.24。ステージ2高血圧(収縮血圧140mmHg 以上あるいは拡張期血圧 90mmHg 以上)でハザード比1.99と、用量依存的に上昇していた。
◎血圧上昇に伴う疾病発症リスク 心筋梗塞、狭心症、脳卒中、心房細動でも認める
血圧上昇に伴う疾病発症リスクの上昇は、心不全以外の心血管イベント(心筋梗塞、狭心
症、脳卒中、心房細動)においても認められたほか、高血圧と心不全リスク上昇の関係は、化学療法など積極的ながん治療を行っている症例(治療中の症例)でも認められた。さらに今回得られたこの結果は、韓国の全国規模の疫学データベースでも追認されたという。
◎今後の研究で「がん患者における適切な高血圧の治療指針の構築が求められる」
研究グループは、「同研究は、観察研究を用いて関連性を示したものであり、因果関係を示す研究結果ではない」としながらも、「がん患者において血圧上昇に伴って心不全などの心血管 イベント発症リスクが上昇することが示された」と報告。「とりわけ日本の高血圧診断基準(140/90mmHg 以上)よりも低い段階から心不全のリスクが上昇したこと、積極的ながん治療中の症例でも、そのような関連性を確認できたことは、たとえがん治療中の患者であっても血圧の管理が重要であることを示すものであり、現在、活発に研究が進んでいる腫瘍循環器学においてとても重要な知見となる」と述べた。また、今後の研究で、がん患者における適切な高血圧の治療指針を構築していくことが求められるとも指摘し、社会的意義を強調した。