アステラス 前立腺がん薬イクスタンジを5000億円製品に 国内は「マスメディスンと一線画す」
公開日時 2018/05/23 03:52
アステラス製薬は5月22日、2018年度~20年度の3か年の新中期経営計画を発表し、前立腺がん治療薬イクスタンジがグローバルで5000億円規模の製品になるよう取り組む方針を示した。過活動膀胱治療薬ベシケアなどの主力製品が19年度から相次ぎ特許切れを迎え、このパテントクリフの克服が最大の経営課題となる。これに対し、イクスタンジを含む6つの重点後期開発品や国内新製品の上市を遅滞なく進めることで、「19年度を業績の底として、中長期的な利益成長トレンドへの回帰を目指す」とした。
最終20年度の売上目標は「17年度水準」への回復とし、1兆3000億円を目指す考え。20年度の研究開発費は2000億円以上、コア営業利益率は20%以上と設定した。日本市場の売上目標は開示していないが、「厳しい姿を描いている」という。
■日本市場 10の製品/開発品で売上合計1000億円以上目指す
グローバル製品の過活動膀胱治療薬ベシケアは19年5月、抗がん剤タルセバも19年5月、抗真菌薬ファンガード/マイカミンは19年3月――にそれぞれ米国で特許切れし、これを皮切りに各国・地域で特許切れが始まる。
日本市場は、17年度の降圧剤ミカルディスの特許切れに始まり、19年3月に喘息薬シムビコート、同年11月に消炎鎮痛薬セレコックス、20年6月にタルセバ、同年9月にファンガード/マイカミン、同年12月にベシケア――と主力品の特許切れが続く。
日本市場では特許切れ影響の最小化に向け、高コレステロール血症に用いる抗体製剤レパーサ、便秘型過敏性腸症候群治療薬リンゼス、2型糖尿病治療薬スーグラ単剤及び配合剤の価値最大化に加え、新製品を継続投入する。
具体的には、関節リウマチに用いるJAK阻害薬ペフィシチニブを18年度中に承認申請するほか、▽急性リンパ性白血病に用いるブリナツモマブ(18年1月申請)▽骨折の危険性の高い骨粗鬆症に用いるロモソズマブ(16年12月申請)▽スーグラの1型糖尿病の適応追加(18年1月申請)▽リンゼスの慢性便秘の適応追加(17年9月申請)▽感染性腸炎に用いるフィダキソマイシン(17年7月申請)――の6つの開発品を計画通りに承認取得・上市する計画。これら計10の製品/開発品により、「2020年代前半に1000億円以上」の売上げを目指す。
経営資源を集中する重点後期開発品のうち日本市場に関係する▽イクスタンジのライフサイクルマネジメント(LCM)▽再発又は難治性FLT3遺伝子変異陽性急性骨髄性白血病に用いるギルテリチニブ(18年3月申請)▽慢性腎臓病(透析期)に伴う貧血を対象疾患とするロキサデュスタット(18年度申請予定)――の計画通りの承認取得・上市に取り組むほか、過活動膀胱治療薬ベタニスの価値最大化にも注力する。
■安川社長 国内MRは減員も想定 スペシャルティ製品扱うグループの検討も
安川健司社長はこの日、東京本社で開いた新中期計画の説明会で、日本市場の製品ラインナップについて、「2000年代にビジネスの中核を担ったマスメディスンとは一線を画す製品が増える。ビジネスモデルの変革も含め、上市準備をぬかりなくしていきたい」と強調した。
これは日本市場での取扱製品が、生活習慣病薬からスペシャルティ領域製品にシフトしていくことを指す。この日にMRを含む早期退職者募集を18年度中に行うことも発表(記事は、こちら)したことから、スペシャルティ製品をMR2400人体制で展開するのかも気になるところ。この点について安川社長は、「(早期退職者募集を含む国内事業の再編は)当然のことながら、パイプラインの変化を十分に考えに入れた」「(MR数は)いくばくかの減少はある」と述べ、具体的な数値は示さなかったものの、MRの減員を想定していることを明かした。
また、「発売前から、スペシャルティな疾患に対する理解を相当深めなければならない場合は十分な研修体制をとる。あるいは、スペシャルティなグループを作るといったことにも、臨機応変に対応したい」と話し、より深い知識が求められる疾患や治療では専任グループを設けることも検討していく構えをみせた。
■イクスタンジ より早期の前立腺がんへの適応拡大で成長
19年度を業績の底にV字回復を達成するための6つの重点後期開発品は、▽イクスタンジのLCM。特に、より早期の前立腺がんへの適応拡大(全世界)▽更年期に伴う血管運動神経症状を対象疾患とするfezolinetant(米)▽胃腺がん及び食道胃接合部腺がんを対象疾患とするzolbetuximab(全世界)▽様々なAML患者に対するギルテリチニブの適応追加(全世界)▽尿路上皮がんを対象疾患とするenfortumab vedotin(全世界)▽慢性腎臓病(保存期及び透析期)に伴う貧血を対象疾患とするロキサデュスタット(日欧)――となる。
20年度までの年平均成長率はイクスタンジは1桁台後半、ベタニスは10%台前半を目指す。
計画中の開発プロジェクトが全て成功した場合のピーク時売上は、イクスタンジが4000~5000億円(17年度売上2943億円)、fezolinetantが2000~3000億円、zolbetuximabが1000~2000億円、ギルテリチニブとenfortumab vedotinが各500~1000億円が期待でき、「10年以内に1兆円規模になる」と予測した。なお、ロキサデュスタットは「現在、売上規模をパートナー会社と協議中」として1兆円には入っていない。
■Operational Excellenceを追求 20年度に300億円以上利益改善
新中期計画でも引き続き、Operational Excellenceを追求する。競争優位につながる能力に集中し、競争優位を確立する機能や活動に優先的に経営資源を配分する。その一方で、「事業運営に必要な基礎的なケイパビリティは極力、自社ではやらずに外注に切り替える」(安川社長)との考えで、この一環として、日本でアステラス本体及び営業支援などを行う国内グループ会社を対象にした早期退職者募集は行う。今回の早期退職者募集以外の取り組みで、20年度に300億円以上の利益改善を目指す。
■「グローバル・カテゴリー・リーダーを卒業する」
同社はグローバル市場で専門性の高い複数の疾患でリーダーとしての存在を確立するグローバル・カテゴリー・リーダー(以下、GCL)を目指すとしていたが、安川社長はこの日、「GCLモデルを卒業する」と述べ、Focus Area(以下、FA)アプローチとの新たな戦略で研究開発していくと表明した。
GCLモデルでは、重点領域として▽泌尿器▽移植▽がん▽免疫疾患・感染症・精神神経疾患など――とカテゴリーを決め、研究していた。ただ、安川社長によると、「泌尿器の薬を作らないといけないんだ、免疫抑制薬を作らないといけないんだ、と会社全体が固定化されたマインドセットになる。本来、自由な発想力を駆使しないといけない研究者も、そのようなマインドセットになってしまう」と指摘した。
そして、免疫抑制薬プログラフや排尿障害薬ハルナールを引き合いに、「後発品化されたデキの良い自社品をはるかに凌駕して、高い薬価を得られるような製品を創製し続けられるのかと自問したところ、できないだろうと思った。研究本部の中で大々的にマインドセットの変換をはからないといけないとの必要性に迫られた」とFA戦略に切り替えた理由を語った。
FA戦略は、研究を始める際に出口の適応症を考えるのではなく、物事をバイオロジー(疾患の原因のより深い理解)、モダリティ/テクノロジー(革新的技術を獲得し、汎用性のあるプラットフォームとして構築)、疾患(アンメットメディカルニーズ)――と多面的に見て決めるとのコンセプトで研究するものと説明した。