2018年４月実施の診療報酬・介護報酬改定の狙いについて、「一言で言えば、地域包括ケアの実現だ」――と熱く語る厚労省保険局の鈴木俊彦局長。今回の同時改定は、医療・介護にとどまらず、住まいや予防・健康づくりを視野に、地域社会の基盤や体制整備に向けた経済的裏付けという視点が込められていると明かしてくれた。まずは2025年への道筋がついた格好だ。しかし、鈴木局長の目線はその先の2040年に早くも注がれる。高齢化や人口減少といった、これまでの社会保障制度の課題に加えて、新たな論点がそこにはあるという。そのひとつが医療技術の急速な進歩と保険制度との調和の問題だ。医療保険制度に止まらず、社会保障制度の今後のあるべき姿について、キーマンである鈴木俊彦保険局長に話を聞いた。


文末の関連ファイルに、鈴木保険局長のインタビュー記事（一問一答形式）を掲載しました。４月２日のみ無料公開、その後はプレミア会員限定コンテンツになります。Monthlyミクス18年４月号にも掲載。Monthlyミクス４月号と、増刊号「2018年版　医師、薬剤師と話せる地域包括ケア」では、18年度診療報酬・介護報酬を特集しております。


2018年度は、診療報酬・介護報酬の同時改定に加え、第７次医療計画、介護事業保険計画がスタートする年度でもある。鈴木保険局長は、18年度診療報酬改定について「2025年に向けた最後の体制整備を図る改定だった」と強調した。地域医療構想との整合性については、「医療提供体制のあるべき絵姿があり、それと同じ方向に向かって実現への道を歩んでいただくための経済的な裏付けが診療報酬改定だ。地域医療構想と診療報酬改定の歯車があった形になってきた」との見方を示した。

◎新薬創出等加算の見直し「いつかは手を付けなければならない課題だった」

新薬創出等加算の抜本的見直しなど、薬価制度改革も断行された。鈴木保険局長は、革新的新薬創出に果たす製薬産業の「活躍に期待するところは大きい」と表明。その上で、公的保険の主旨を踏まえれば、「産業政策的な色合いにも自ずと限度があってしかるべきだ。新薬創出等加算の見直しは、いつかは手をつけなければならない課題だった」と述べた。さらに、「保険制度以外での対応も含めて、創薬などのイノベーションを強力に推進していくにはどうしたらよいか、しっかり考え直すべき時期に来ているのではないか」と指摘した。

◎2040年を見通すと政策のストーリーが変わっていく

18年度改定で25年までの道筋がつく中で、焦点は2040年に移る。鈴木保険局長は、「次のステップに向けて具体的に考えなければならない時期に迫っている」と強調。「2040年を視野に置くと、講ずべき政策のストーリーが変わっていく。いずれにしても、一番のポイントは人口減少を踏まえて、医療・介護体制を構築していく必要がある」と述べた。

その上で、新たな課題として、遺伝子治療など革新的な医療技術の登場をあげた。鈴木保険局長は、「非常に高額な医薬品や医療技術を無原則に保険制度に取り込んでいくと保険財政が破綻してしまう可能性もある。高齢化への対応もさることながら、技術との調和をいかに図るかが、より大きな課題となるだろう」と指摘した。


◎健康寿命延伸へ「予防・健康づくりが最も取り組むべき課題」　製薬産業への期待も

人口減少時代は、医療・介護の担い手が減少することも意味する。鈴木保険局長は、介護ロボットを例にあげ、人とロボットやICT、人工知能（AI）などの技術を組み合わせ、「良質で効率的な医療を実現する」ことの必要性を強調。これが、一人ひとりのパフォーマンスを最大化する“生産性の向上”でもあるとの考えを示した。それと同時に、年齢にとらわれずに持てる力を発揮してもらうことで、支え手を増やすことの必要性も指摘した。

さらに、人口減少時代では「一人ひとりが、できる限り健康で、元気に、生活し活動することが、これまで以上に重要になる。健康寿命の延伸、予防・健康づくりが最も力を入れて取り組むべき課題だ」と述べた。製薬企業についても、「製薬産業は健康に一番近いところにいる産業だ。健康に関する様々な情報を持っており、そこから派生するノウハウも多様だ。それを活用して行くことが、今まさに求められている」との考えを表明。「国民一人ひとりの行動変容をいかに起こすか、その中で、民間企業の果たす役割は大きい。色々なビジネスが生まれる契機もそこにはあるし、そうした動きに大いに期待している」と強調した。