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視点 MRの生産性向上プロジェクト始動 3年間の猶予期間で社内改革断行、マーケットに沿った人財・組織を再構築

公開日時 2018/01/09 03:52

2018年からの3年間は、製薬企業のプロモーション活動にとって産業構造転換における「猶予期間」に位置づけられる。2021年度から厚労省は薬価毎年改定を導入する。実は、この新制度に込めたメッセージこそが次世代製薬ビジネスの進みゆく方向性を記した羅針盤となる。これまで慣れ親しんだSOV型マーケティングや、キーメッセージ連呼型のMR活動から完全脱却し、新しい時代のMR像とプロモーション活動を創造し、実行に移すことにある。国内の医療用医薬品マーケットがゼロ成長に突入する中で、製薬各社とも、MRの生産性をいかに向上させるかが課題となる。2018年はそのための一歩を踏み出す時だ。AI(人工知能)を活用した医療の質と患者満足度の向上、地域医療ネットワークによる医療・介護者の業務省力化など、製薬企業が新たに取り組む余地は多分にある。こうした時代だからこそ、2018年のミクス編集部は、あえて“MRの生産性向上プロジェクト”を始動させる。(編集長 沼田佳之)

■新薬メーカーは「猶予期間」に何をすべきか

2018年からの3年間の間に国内で活動する製薬企業各社は、革新的新薬を開発・販売する企業を目指すか、エッセンシャル市場の製品(長期収載品、後発品)を品揃えし、地域やエリアの医療機関にパッケージ型で製品を供給する企業を目指すか、の選択を迫られる。

まず革新的新薬の創出を目指す企業は、自社はもちろんだが、ベンチャー企業とのアライアンスや産官学のオープンイノベーションが絶対要件となる。とは言え、創薬は多額の資金と時間が必要だ。すでに各社とも10年先の新薬パイプラインを用意しているが、国が求める水準に照らせば、圧倒的に外資有利で、企業は社内改革抜きに将来の生産性を高めることは難しい。先ずは社内に研究開発の目利きを揃え、欧米先進国以外にも裾野を広げて創薬開発の情報収集と戦略的アライアンスを進める他ない。その上で、厚労省が用意した、先駆け審査制度や条件付き早期承認制度のレールに乗せる開発戦略を実行に移す必要がある。

一方、外資企業も生産性向上という視点でみると、楽観視できない。昨年末の中医協で欧米製薬団体は新薬創出加算の対象範囲を狭めようとする厚労省の提案に強く反発した。欧米系メガファーマにすれば、日本は投資対象の一つにすぎず、市場の成長に魅力がなくなればリソースの配分を中国や東南アジアに切り替える。欧米トップの発言を一言でいえば、「我々の要求を呑まないのであれば、日本人社員のクビを切る」と脅しているようにも聞こえた。こうした発言は厚労省や財務省、中医協委員に向けられたものである。しかし、その背面の日本法人社員に対しても、その時の覚悟を呼びかけたようにも読み取れる。決して穏やかな話ではないが、マーケットの成長が伸びないのであれば、リソース配分は確実に変わる。すなわち社内組織の見直しは不可避になるという訳だ。

■需要量に見合う医薬品をパッケージで供給

産業構造転換という切り口では、これから3年間の「猶予期間」において、新たな製薬ビジネスの創造のきっかけにもなる。2018年から25年までの間は地域包括ケアシステムの構築が急ピッチで進み、各都道府県を軸に、医療構想区域(原則2次医療圏)単位で病院の機能転換・再編、かかりつけ医を中心とした介護との連携、加えてカルテやレセプトなど診療情報の共有化を目的とした地域医療情報ネットワークの敷設などが進む。施設完結型から地域・エリア完結型への転換が図られる訳で、製薬企業側のマーケットに対するアプローチの仕方にも変革が求められることになる。

18年4月からは全国47の都道府県が医療保険の運営権者となり、生活習慣病、認知症、がんなど自治体が行う疾病対策の全てを事業化し、PDCAで管理しながら、その成果をアウトカム評価する。すでに各自治体とも2025年までの人口推計や医療必要度(必要病床数)を推計しており、これをベースに医療費の支出を管理し、目標達成した場合は、健康ポイントとして住民に還元する。

この意味するところは大きい。これまで一つの医療施設ごとに管理された医薬品の供給量が地域単位で管理されることになる。例えば、ある自治体の医療構想区域内に供給される生活習慣病薬はNDBオープンデータでその実績を把握できる。前年実績をベースに、この地域で使う降圧薬や糖尿病薬の合計金額をあらかじめ試算し、これを超えないような事業計画を保険者と一緒に立案する。あとは月次の進捗を確認するだけ。計画を上回ることがあれば、NDBなどのビッグデータを用いて検証し、必要に応じて保険薬局や診療所・病院に薬剤購入の是正・改善を求める。

一方、県立や市立病院は、年度予算の編成に際して議会承認が必要なため、自治体の事業計画に沿った薬剤購入予算案に一定のシバリが入る。すでに後発品への切り替えが進んでいる病院であっても、今後は地域・エリア内での医薬品の共同購入やフォーミュラリの作成などが急ピッチで進むことになるだろう。

ここまでご紹介してきたように、18年以降は医療サービスの提供体制の変化も著しく、特に医薬品のマーケットへの影響も目に見える形で動き出すことになる。ただ、ここで重要なメッセージは、先の薬価制度改革の中で政府がメッセージとして刻み込んだように、長期収載品や後発品市場へのアプローチはローコストオペレーションに徹せよということだ。これまでのようにMRの頻回訪問を是正し、むしろ地域・エリアに対し、需要量に見合う医薬品をパッケージとして供給することを求めている。営業コストをいかに抑えて生産性を向上させるかがカギを握る。

■革新的新薬担当8割、エリア担当2割に再編

医薬品卸は、こうした市場環境の変化を先読みし、保険薬局や病院・診療所に対するサービス提供の多様化に動き出している。製薬企業はというと、まだ動きが鈍い。地域・エリアにキーアカウント・マネージャー(KAM)を配置するなどの動きはあるが、ビジネス化に至っていない。

長期収載品や後発品のビジネスについては、第3者の企業が先発・後発メーカーの複数製品とアライアンスし、製品パッケージとして市場供給する「販売会社」の創設も一案ではないか。これにより各社の営業コストを一定程度抑えることも可能となる。

ミクス編集部の考える生産性向上戦略を提案したい。まずは47都道府県にある医療構想区域の実情を把握し、その上で、患者の流れにあわせたMR配置に見直してみてはどうだろうか。いまのMR配置は、①基幹病院担当(大学病院含む)、②エリア担当(中小病院と診療所)、③製品担当(スペシャリティ製品担当)――に分かれる。これを全部廃止し、①革新的新薬製品担当(発売後数年間のみ、領域別も可)、②エリア担当(流通担当、KAMは別組織)――の2軸に分ける。リソースの掛け方は、それぞれイーブンでなく、革新的新薬担当に8割、エリア担当に2割のイメージだ。もっとも現有MRは維持でなく、ダウンサイジングした後のサイズに照らす。先に述べるが、エリア担当はローコストオペレーションの観点から、47都道府県の医療構想区域を参考に県にMR数人を配置する。

エリア担当MRは地域のステークホルダーとネゴシエーションでき、共同購入やフォーミュラリの策定動向を探るKAMの部隊と、地域の特約店担当、そして新薬担当MRと連携して行う。エリア戦略を成功に導く鍵は、地域・エリア内での患者の流れを正確に掴むこと。厚労省は18年度の診療報酬改定に際し、高度急性期、急性期、回復期、慢性期のすべての段階に至る入院施設にデータ提出を求めた。すなわち、自治体もこのデータを分析し、患者の流れを把握することになる。すでに、患者の流れを分析できるツールの開発も進んでおり、このノウハウを活用したマーケティングが今後台頭するだろう。

新薬価制度がスタートする2021年度までの、これから3年間は製薬ビジネスの産業構造転換にとっての「猶予期間」に相当する。この間に各社がどこまで社内の構造改革に着手できるかがカギとなる。

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