日欧米製薬団体 費用対効果評価の本格導入へ薬価基準制度との整合性求める
公開日時 2017/10/12 03:51
日本製薬団体連合会(日薬連)など日米欧の製薬団体は10月11日、中医協の費用対効果評価・薬価・保険医療材料の各専門部会の合同部会で意見陳述し、2018年度からの本格導入が予定される費用対効果評価について、薬価基準制度との整合性を踏まえた制度の構築を求めた。同時並行で、新薬創出・適応外薬解消等促進加算のゼロベースでの抜本的な見直しなど、薬価制度の抜本改革に向けた議論が進められている。日薬連の多田正世会長は、費用対効果評価の本格導入により、「(薬価制度により)長く安定し、ある程度予見性を持って対応できるものが根本から崩れることになるという懸念がある」と述べ、“慎重かつ丁寧な議論”を求めた。
◎加算前の価格を下回る調整「断じて容認できない」
日薬連・日本製薬工業協会(製薬協)は連名で、「薬価基準制度における医薬品の価値評価が費用対効果評価の導入によって損なわれないこと」を訴えた。現行の薬価制度では、革新的新薬に対して画期性加算や有用性加算など補正加算で、薬価上の評価がなされている。費用対効果評価の分析結果が絶対的な数値ではないとし、「あくまで補足的な手法として、限定的に位置づけられるべき」とした。
対象品目については、「一定率以上の加算が適用され、かつピーク時売上高が一定額以上になると予測される品目」に絞り込みを行い、薬価の調整範囲も加算率の補正に限定すべきと主張した。
類似の改定を経た場合には薬価上の補正加算の範囲が明確ではないとの指摘もあったが、薬価算定時における補正加算の割合を導き出し、加算の範囲内で、引下げだけでなく、引上げを考慮する必要性を指摘。「加算前の価格を下回る調整については断じて容認できない」と断じた。
費用対効果評価の対象品目に該当すれば、専門知識を有する外部有識者を含めた体制整備を敷くことも必要になる。「金額的には数千万円は最低でもかかるだろうと聞いている」(多田会長)と企業側の負担が大きいこともあかし、理解を求めた。
多田会長は、この日の意見陳述で、「費用対効果評価方式と薬価基準制度が、ケースによって矛盾する、整合性が取れなくなるということが一番の懸念点だ」と述べ、薬価制度の基本骨格を維持することを繰り返し訴えた。
昨年12月に4大臣合意された「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」では、新薬創出・適応外薬解消等促進加算の“ゼロベースでの抜本的な見直し”とあわせて、「費用対効果の高い薬には薬価を引き上げることを含め、費用対効果評価を本格的に導入する」ことが盛り込まれた。厚労省保険局医療課の中山智紀薬剤管理官は、「基本的に、これまでの薬価基準制度があって薬価を設定するという長い歴史を経てできている」と述べ、これをベースに薬価制度の抜本改革に向けた議論が行われていると説明。「薬価基準制度の見直しと合わせて、それをベースに、費用対効果評価の整合性という観点で両方を合わせて考えていくということだと考えている」と応じた。
◎価格が下がるしかない特殊な市場 価格引き上げも選択肢に
薬価の“引上げ”を業界陳述に盛り込んだ点について、診療側、支払側各側から「薬価の引上げはあり得ない」との声が上がったが、多田会長は、費用対効果評価が薬価基準とは異なる角度から評価するものであるとすれば、「下げることだけというのはおかしいのではないか」と指摘し、薬価上での引上げ、引下げ双方の選択肢を残す必要性を強調した。
その上で、現在の薬価改定が市場実勢価格に基づいてなされていることに対し、「日本は価格が下がるしかない特殊な市場だ」と指摘し、市場実勢価格が医薬品の価値を真に反映しているか、疑問を示した。多田会長は、政府が医薬品産業を成長産業のひとつに位置付ける中で、中医協の場でも”イノベーション”の議論が十分なされていないことにも疑問を呈し、「確かにこの場は医療費をどう抑えるかが議論の中心だが、イノベーションは今の制度で十分に評価されているのか」と指摘し、費用対効果評価の議論をきっかけに議論をする必要性も指摘した。
費用対効果評価により価格が想定よりもはるかに低くなった場合の企業側の判断、行動について問う声に対しては、すでに上市されている品目については撤退する可能性を3団体ともに明確に否定。上市前の段階では、「基本的に製品ごとの判断は企業がすべきだ。薬価基準制度というものを一方で議論しながら、HTAの議論がなされている。進行中の制度とどう整合性をとっていただけるのかということを申し上げている。業界として無視するのか、供給しなくなるのかという議論は飛躍しすぎている」と述べた。
そのほか、企業による分析・データ提出、第三者によるデータ分析を経て行われる総合的評価についてでは、増分費用効果比(ICER)を用いた上で、倫理的・社会的影響を総合的に検討することとされている。ICERについては、多くの前提条件を設定してシミュレーションされており、前提条件により結果が大きく変動することから、医薬品の価値を反映する「絶対的な数値ではない」と指摘し、倫理的・社会的影響等に関する観点からの評価を十分反映することを求めた。
◎PhRMA、EFPIA 世界同時開発進む中でのドラッグ・ラグ再燃を懸念
米国研究製薬工業協会(PhRMA)、欧州製薬団体連合会(EFPIA)は、ドラッグ・ラグの再燃への懸念に言及した。PhRMAのパトリック・ジョンソン在日執行委員会委員長は、国際共同治験などが浸透する中で、日本発の創薬も生まれている現状を指摘し、「革新的新薬の予見性を損なわないことが重要だと考えている。薬価の予見性が損なわれることで、同時開発にも影響を及ぼす可能性がある」とし、ドラッグ・ラグが再発することで、患者に不利益を及ぼす可能性を指摘した。
EFPIAのハイケ・プリンツ理事は、IMSデータを引き合いに、日本の市場は薬剤費が十分コントロールされていると指摘。「実際に費用対効果を取り入れてている国でも、日本ほど精緻な薬価基準制度を取り入れている国はない」と述べた。その上で、費用対効果評価を導入した国でも当初から確固たる制度として運用された国はないとし、試行導入で明らかになった課題を十分に踏まえて、関係者の意見も取り入れた見直しも必要だと主張した。