EFPIA・ベック会長 「新薬はコストではない」 長期的な医療費抑制に寄与 引き続きイノベーション評価を
公開日時 2017/06/01 03:50
欧州製薬団体連合会(EFPIA Japan)のオーレ・ムルスコウ・ベック会長(ノボ ノルディスク ファーマ社長)は5月31日、東京都内で開いた医薬品市場予測に関するメディアセミナーで、新薬創出加算の見直し論議が本格化していることを念頭に、「新薬は社会に対するコストではない」と指摘し、疾患の治癒や重症化予防によって長期的な医療費節減を実現する「解決策だ」と強調した。
ベック会長は、「短期的な今後数年間の予算だけを考えて、(新薬創出加算を)やめていいものではない」「気やすく弄んでいいものではない」と述べ、日本政府に対し、日本市場における新薬の開発促進のために機能している新薬創出加算を継続するよう強く求めた。
新薬創出加算をほぼ現行ルールのまま継続しても、後発医薬品(GE)の市場浸透や乖離率の大きい品目の毎年改定によって、2026年度まで日本市場は微減で推移するとの分析結果を紹介。その上で、「分析結果は日本が引き続きイノベーションを評価し、同時に薬剤費の節減をできることを示している」と述べ、新薬創出加算を現行ルールのまま継続しても薬剤費トータルは増えず、むしろ減少すると主張した。現行ルール以上に同加算の要件を緩和しても、薬剤費トータルは今後10年間は横ばいから微減で推移するとも説明した。
EFPIA Japanのフィリップ・フォシェ副会長(グラクソ・スミスクライン会長)は、日本市場でイノベーションを適切に評価する仕組みがなくなると、研究開発型の製薬企業にとって日本市場の魅力が低下し、投資判断に影響すると指摘した。
その上で、「日本政府のトップリーダーには、(新薬創出加算のあり方についての政府方針となる)『骨太の方針』を決めるにあたって、日本の患者さんの未来、業界の未来、世界における日本市場の位置付けをきちんと考えていただきたい」「正確な判断をしてほしい。新薬創出加算の制度自体は決して悪いものではない。(ドラッグラグの解消など)意図した成果を出している」と語った。
■「イノベーション評価の余地は十分に存在」 GE浸透と毎年改定で
EFPIA Japan薬価・経済委員会の原邦之委員長(サノフィ医療政策統括部長)はメディアセミナーで、5月17日の中医協薬価専門部会に示した日本の医薬品市場予測を解説した。
市場予測の結論は、新薬創出加算をほぼ現行のまま継続しても、15年度から26年度まで年平均成長率がマイナス1.50%で推移するというもの。医薬品市場は15年度の10.6兆円が26年には9.0兆円に縮小し、その内訳は新薬市場が15年5.4兆円→26年4.9兆円、長期収載品市場が同3.1兆円→1.7兆円、後発医薬品(GE)市場が同1.4兆円→1.9兆円――などと予測した。
主な前提条件は、▽新薬の上市成分数は45成分/年、この4分の1がバイオ製品▽低分子化合物のピーク時売上は平均108億円(6~7年後)▽バイオ製品のピーク時売上は平均124億円(約6年後)▽特許切れ時期は上市後約11年▽新薬創出加算対象品目は55%▽GE普及率は20年に80%達成。浸透スピードはGE発売後2年半で80%、バイオシミラーは発売5年後で50%▽乖離率の大きい品目は薬価を毎年改定――とし、クインタイルズIMSのデータベースをもとに疾患分類ごとに重みづけもした。
このシミュレーションにより、新薬創出加算による薬剤費の増加は年平均で4380億円となる一方、GEや毎年改定によって薬剤費は年平均で1兆3480億円の削減が見込めると分析した。原委員長は「GEによる薬剤費の抑制の方が勝っていて、イノベーション評価が弱い」と説明した。
これは「基本シナリオ」として紹介したものだが、新薬創出加算の要件が今よりも緩和されて、特許期間中の新薬の全品目が同加算の対象となるなどの「拡大シナリオ」も解説。拡大シナリオでも医薬品市場は15年度の10.6兆円が26年度に10.3兆円となり、15年度~26年度の年平均成長率はマイナス0.31%とほぼ横ばいで推移するとして、「薬剤費の上昇を伴わないでイノベーション評価ができる。イノベーション評価の余地は十分に存在する」と語った。