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バイエル薬品 抗凝固薬・イグザレルトの患者調査 業界内からプロモーションコード違反とコンプライアンス問う声

公開日時 2017/04/25 03:52

バイエル薬品の抗凝固薬・イグザレルトの患者調査をめぐり、同社が作成した製品情報概要の特定版と、同時期に医学専門誌に掲載された記事体広告の図表について、プロモーションコード違反と、社内のコンプライアンスを問う声が製薬業界内からあがっている。同剤の特徴である“1日1回1錠”を強く打ち出す根拠となった患者調査の結果が、製品情報概要の特定版に掲載されており、このデータとキーメッセージの内容が一致しないとの声も聞かれる。一般にこうした販促用資材のチェックは本社のメディカル本部を含む複数部署の承認が必要となる。ただ、原著論文の下書きから、販促資材へのデータ掲載、製品情報概要など資材としての承認プロセスにおいて、本社内のチェック体制が機能しなかったことに対し、業界内からは、本社のコンプライアンス体制を指摘する声が日増しに強まっている。

本誌は独自に、2013年1月~14年2月までの製品情報概要11編、13~14年に医学専門誌メディカルトリビューンや同社の自社媒体に掲載された記事広告10編を入手した。

バイエル薬品のMRが患者のカルテを不適切に閲覧したと告発したことに端を発したこの問題は、患者の嗜好性を問うアンケート調査そのものが、本社の意向で実施され、そのデータが製品情報概要の特定版や、記事体広告に使用され、当該薬剤・イグザレルトのプロモーション資材として活用されていたことが問題視されている。2012年当時プロダクトマネージャー、その後13年にメディカル・アフェアーズ部門でイグザレルトの責任者を務める社員が、このアンケート調査を企画、論文の執筆にかかわり、その後、営業用資材の審査に関与した可能性も浮上している。データは、“1日1回1錠”の有用性を訴求する同社のプロモーションに合致する。パンフレットへの掲載がすでに明らかになっていたが、同時期に発行された医学専門誌にこのデータを用いた座談会形式の記事体広告が掲載され、うち一部は、このアンケート調査に関わった医師も参加していたことが明らかになった。


◎宮崎と香川 2つの患者調査の点と線


本誌が入手した記事体広告10編のうち、全てに宮崎県の診療所(えとう循環器科・内科、江藤琢磨医師)で行った患者調査のデータが掲載されていた。さらに、調査を行った宮崎県の診療所の医師が記事体広告の座談会に出席し、「リバーロキサバンは1日1回1錠と服薬回数が少ないことから、多くの薬剤を服用している患者さんの負担を軽減しうるのではないかと考えます」(メディカルトリビューン・2014年12月25日付)と語っている。別の記事体広告では、別の複数の医師が宮崎県の診療所のデータを用い、同様の発言を行っていた。バイエル薬品がこの時期に、リバーロキサバンの製品特性である1日1回1錠のメリットを強力に訴求していたことを裏付けている。

一方で、当時の製品情報概要の特定版と記事体広告をつぶさにみると、宮崎県の診療所とは別に、香川県の医療機関で同時期に似た患者調査を行っていることも分かった。この調査については、論文上には企業の関与について明記されていない。ただ、2014年2月作成の製品情報概要の特定版には、「残薬からみた完全服用率 日本人において、イグザレルトの服薬アドヒアランスは良好でした」との見出しで、香川県の医療機関のデータが宮崎県の診療所のデータと併記される形で紹介されている。

実際、この2つの患者調査は共通点も多い。まず、掲載されている論文が、「Progress in Medicine」2013年12月号に掲載されていること。さらに、製品情報概要の特定版への掲載、記事体広告への掲載が行われている点だ。2014年12月25日付の記事体広告には、双方の患者調査に直接関わっていない医師が、2つの調査結果をそれぞれ説明し、当該薬剤の利便性を訴求している。すなわち、2つの患者調査が出揃うことで、説得を増すデータとして活用していた可能性もある。

さらに言えば、論文には「心房細動の病態や治療薬に関する認識が高いほど、服薬アドヒアランスも良好であった」と記されている。しかし実際のデータをみると、服用率が最も高いリバーロキサバンの薬剤名の認知度が最も低いなど、データと結論も不一致であることもわかった。プロモーションとしてのメッセージを発信することを主眼にデータを活用していた可能性まで浮上することになる。


【解説】広告塔化する医師 製薬企業のプロモーションを問う



「リバーロキサバンは1日1回1錠と服薬回数が少ないことから、多くの薬剤を服用している患者さんの負担を軽減しうるのではないかと考えます」。えとう循環器科・内科の江藤琢磨医師はメディカルトリビューン・2014年12月25日付のバイエル薬品の記事体広告の中でこう語っている。

しかし、見逃してはならないのが、本誌が確認できただけで8人の循環器領域のキーオピニオンリーダー(KOL)が代わる代わる2つの患者調査の結果を紹介している点だ。

ここで問いたい。では、医師は、どこで、どのようにこの患者調査の結果を知ったのか?それだけの有名な医学誌に掲載されたのか?その領域の治療を劇的に変えるエビデンスが構築されたのか?
学会発表でも、こうした患者調査が注目をあびる機会は少ない。誤解を恐れずに言えば、こうしたデータは製薬企業が媒介しなければ、医師が目にすることは極めて少ないだろう。一方で、医師の立場で考えてみれば、対照薬のある直接比較試験では直接処方の意思決定に直結する。わかりやすい試験デザインも相まって、解釈に難しさを伴わないことが、かえってデータに注視する機会を削ぎ、気軽に口にしたのではないか。介入研究ではなく、観察研究、さらには単純な研究だという点を逆に製薬企業が活用した可能性まである。

こうして作り上げられたデータを広く活用するためには、論文として掲載することが必須だった。日本製薬工業協会(製薬協)は、製品情報概要に掲載するデータは査読のある医学誌に載った論文であることを求めている。今回問題となった患者調査が掲載された商業誌「Progress in Medicine」誌には査読があるとされている。一方で、投稿数が減少傾向の一途をたどる和文誌は、一部学会誌を除き投稿すれば掲載されるのが実状だとの声も聞く。製品情報概要に掲載する際に、データの詳細が精査されたのか。医学誌などについて掲載する場合に、社内で明確な基準が定められていたのか。疑問を口にする製薬業界関係者も多い。「今の状態では、目立たない範囲でやったもの勝ちだ」との声まで聞く。製薬企業の自主的なガバナンス強化も求められるところだ。

医師側にも課題がある。ディオバン問題で本誌が指摘したJIKEI-HEART Studyでのカプランマイヤー曲線の誤りや、CASE-JでARB・ブロプレスの長期効果を謳ったゴールデンクロスなど、様々な問題が取り沙汰されてきた。2000年代に入り、エビデンス全盛時代と言われる中で、競合品が多い市場ではデータを少しでも良く見せたいという企業の思惑は見え隠れする。当然のことだ。製品のパンフレットは、長所を伝えることが最大の目的なのだから。

日々診療などで忙しい医師、薬剤師には大変恐縮だが、あえて言わせていただく。確かにパンフレットはわかりやすい。しかし、これまで取材の中で、パンフレットの原著にまで当たるという医師、薬剤師には出会ったことがない。臨床研究の専門家であっても、専門外の領域についてはパンフレットを参照する姿を再三目にしてきた。医師や薬剤師には、何が正しいのか見抜く力こそが必要だ。専門家という以上、例え四大誌などの超有名医学誌に掲載されているからと言って、そのまま鵜呑みにしてしまうのはいかがなものか。むしろ日々の診療などを通じて、真実を見抜く目を磨くべきだ。

ディオバン問題をめぐる裁判は、一審で「論文掲載の過程自体は通常の過程と同様であり、それ自体が購入意欲を喚起・昂進させる手段としての性質を有するとは言い難い」として、旧薬事法(現・医薬品医療機器等法)第66条の誇大広告に当たらないと判断。ノバルティス社と元社員を無罪判決とした。現在控訴中のため、最終的な結論は待つ必要がある。しかし、本来学術的な目的で活用されてきた論文を製薬企業がプロモーションに活用してきた実態が存在すること、そしてそれが医師の先にいる数多くの患者への処方を歪めている可能性まであることは、今回の例を見ても否めない。ディオバン問題以降、むしろ製薬企業の手段は巧妙になるばかりだ。再発を防止するためにも、法改正や省令改正も見据えた議論が今こそ必要だ。(Monthlyミクス編集部 望月英梨)
 

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