政策研 欧州のEHDS参考に健康医療情報連携を担う公的組織の設置提案 データに基づく研究開発を実現
公開日時 2024/11/18 04:53
医薬産業政策研究所(政策研)は11月15日、「健康医療情報の効果的な利用に向けた情報の連携」と題するポジションペーパーを公表した。医学研究や医薬品開発につながる健康医療情報の連携基盤について、欧州のEHDS(European Health Data Space)の仕組みを参考に、厚労省の構想する医療データ等の二次利用に向けた情報管理と利用審査を一元的に行う公的組織の設置を提案した。これにより製薬企業は、データに基づく研究開発を実現し、新薬の上市や医薬品に関する新たな情報提供という形で、情報提供者である国民に還元することができると強調した。
国内の医療情報の連携基盤は複数のデータベースが分散して存在しており、多様な情報の保有者(医療機関、行政、学術機関・学会、民間企業、その他)から収集される情報の流通を管理・把握する包括的な仕組みが存在しない。このため個人のライフコース情報などを入手することは困難な状況となっている。一方で、医薬品開発や政策の意思決定に際しては、より精緻な情報が求められ、健康医療情報を包括的に連携させることで、異なる種類の情報や大規模な情報が利用可能になる。近年では、分散化するデータ連携の必要性が指摘され、次世代医療基盤法(2024年施行)で一部医療機関の電子カルテ等の情報とNDBが相補的に連携可能となった。
◎EU加盟国内の健康医療情報の管理と利用審査を一元的に行う「Health Data Access Body」に注目
一方で、欧州では欧州域内の情報を一貫して管理する単一データ市場の創設を目指しており、ヘルスケア分野では他分野に先駆けてEHDS(European Health Data Space)の検討が進められている。特に注目されるのが、EU加盟国内の健康医療情報の管理と利用審査を一元的に行う「Health Data Access Body」という組織の存在だ。この組織が情報流通のハブとなることで、情報利用時のセキュリティ確保とイノベーション促進の両立を行うことが可能なるという。
◎健康医療情報の管理 改組が計画される“社会保険診療報酬支払基金”が機能を担うべき
今回のポジションペーパーでは、EUの取り組みを参考に、「国内の健康医療情報の利用のハブ機能を担う公的な情報流通の中心の組織の設置」を提案。全国医療情報プラットフォームで管理される3文書6情報や介護情報等と公的DBを集中的に管理し、他の機関が保有する情報(電子カルテ、バイオバンク、コホート研究、医用画像、遺伝情報、民間企業)を分散的に管理する方法が望ましいとの見解を表明した。また、同提案の実現と同様に、「欧州のEHDSと同様に、国内において健康医療情報の包括的な管理体制が構築されることが望まれる」とし、「現時点では、医療DXの実施主体として改組が計画されている“社会保険診療報酬支払基金”が機能を担うことが期待される」と指摘した。
ポジションペーパーでは、こうした仕組みや機能を国内に設けることで、「より多様な情報量の多い健康医療情報が利用可能となり、これら情報に基づく制度の高いデータの駆動型の意思決定は、効率的かつ最適な医療の提供や公衆衛生の向上につながる」とし、製薬企業はデータに基づく研究開発を通じた新薬の上市や医薬品の新たな情報提供という形で、「情報の提供者である国民に還元することができる」とした。