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MSD・タトル社長 医師に「すぐ、確実、シンプル」に情報提供できる手段構築へ 医師の働き方改革で

公開日時 2023/04/06 04:52
MSDのカイル・タトル社長は4月5日、東京都内で年次定例会見にのぞみ、2024年度からの医師の働き方改革を念頭に、医師が同社に連絡を取りたいと思ったタイミングに即、対面やオンライン面談などで情報提供できる手段を構築することに意欲を示した。具体的な方法は「引き続き模索する」としたものの、イメージとしては医師との接点となるデジタルチャネルを増やし、オムニチャネル型の活動をより推進して医師のニーズを把握。そして、「医師が当社にすぐに連絡を取りたい、質問があると思ったときに、すぐに、確実に、シンプルに、医師が望む形で情報提供できるようにしたい」と述べた。

「医師が何を必要としているかを確認・連絡できるチャネルを増やしたい。MRの役割は引き続き重要だと思うが、MRにだけ頼るのではなく、MRの代わりになるチャネルを作り出して情報提供していきたい」――。タトル社長はこう話し、医師の情報ニーズの把握や情報提供活動をMRだけに求めるのではなく、オムニチャネル型の活動をより推進して実現していく構えをみせた。

24年4月から順次施行される医師の働き方改革によって、医師の時間の使い方は大きく変わり、MRはこれまで以上に医師に会いにくい環境になると言われている。ノバルティス ファーマのレオ・リー社長は3月24日の会見で、医師が情報収集したい時にすぐにオンラインなどでつながることができる社内体制整備に注力する考えを示していた。MSDのタトル社長も同様の考えを示した格好で、24年4月以降、医療用医薬品の情報提供・収集活動のデジタル化、オムニチャネル化が急速に進む可能性がありそうだ。

◎22年売上2920億円 24%増収 成長ドライバーはラゲブリオ、ガーダシル、キイトルーダ

MSDの22年の国内売上は2920億円で前年比24%増だった。この売上には経口新型コロナ治療薬・ラゲブリオの国購入分やライセンス収入は含まない。国購入分の売上は非開示。22年の成長ドライバーはラゲブリオの国購入品及び一般流通品、22年4月から定期接種の積極的勧奨が再開されたHPVワクチン・ガーダシル、22年に5つの適応を追加したがん免疫療法薬・キイトルーダ――となる。

◎新型コロナの次の“波”に備え「十分な量のラゲブリオを供給できるよう努力」

ラゲブリオは22年に、国購入品は60万人に使用され、一般流通品(9月16日から一般流通開始)は1日の新規感染者数が20万人を超えた日もあった“第8波”の期間(10~12月)に約73万本を出荷した。これらの数字を引き合いにタトル社長は、「(22年に)100万人以上の新型コロナ患者にラゲブリオをお届けし、重症化を防ぐことに成功した」と述べた。新型コロナは現在、落ち着きを見せているが、タトル社長は「今後もコロナの波は来ると思う。引き続き十分な量のラゲブリオを供給できるように努力していく」と語った。

ラゲブリオを含む新型コロナ治療薬の費用は9月末まで公費負担で、10月以降の取扱いは政府の検討課題になっている。医師でもある白沢博満上級副社長(グローバル研究開発本部長)は会見で、高齢者や重症化リスクの高い人の新型コロナによる死亡リスクを踏まえ、「新型コロナ治療薬はとにかく早く使うことがポイントだが、患者負担で使えない、使用が遅れるということになると非常に良くない結果になる。医学的観点からも熟慮が必要。一般の方の感染とは訳が違う」と強調し、高齢者や重症化リスクの高い人の患者負担は慎重に検討すべきと訴えた。

◎シルガード9の情報活動強化 関係者と協力してワクチン接種率向上の啓発活動も

HPVワクチンは22年4月から、9年ぶりに定期接種の積極的勧奨が再開された。同社によると、22年度の同ワクチンの接種者は50万人以上だったが、接種対象者のうち700万人が未接種で、接種率は10%未満の状況にとどまる。

タトル社長は、日本はG7(先進7カ国首脳会議)の中でHPVワクチンの接種率が最も低く、子宮頸がんの発症率はG7の中で最も高いと指摘。さらに日本では年間3000人、1日当たり8人が子宮頸がんで死亡している現状も説明しながら、「日本でこれだけHPV関連疾患が多いのは、(定期接種の積極的勧奨が行われてこなかった)9年間の空白期間によるもの」との見方を示した。

同社としては23年に、4月から定期接種やキャッチアップ接種に追加された新規のHPVワクチンのシルガード9の情報提供活動を強化するとともに、厚労省や医療従事者らと協力しながらワクチン接種率向上のための啓発活動に取り組む方針で、「HPV関連疾患から女性や女の子を守っていきたい」と強調した。

◎再算定4回のキイトルーダ 17年以降の国内開発に800億円以上投入、「相応のリターン」を

同社最主力品のキイトルーダは、22年に腎細胞がんの術後補助療法など5つの適応を追加し、17年2月の上市以降計19適応症を持つ薬剤となった。処方患者数は順調に伸びているが、四半期ごとの売上は19年第3四半期をピークに減少。20年、21年と横ばい傾向が続いていたが、22年4月改定で薬価が維持されたため22年は再び右肩上がりに推移している。

四半期売上が20年、21年と2年間横ばいだったのは、市場拡大再算定や再算定類似品(共連れルール)による薬価引下げを複数回受けたため。具体的には、▽20年2月に市場拡大再算定(>1000億円)で17.5%引下げ、▽20年4月に市場拡大再算定(>1500億円)で20.9%引下げ、▽21年8月にテセントリク類似品として11.5%引下げ――を受けた。ちなみに18年4月にもオプジーボ類似品ということで薬価が引き下げられており、キイトルーダはこれまでに市場拡大再算定2回、共連れルール2回の計4回再算定を受けた。

◎24年度薬価制度改革で共連れルールの廃止求める

タトル社長は17年以降、キイトルーダの国内開発に800億円以上投じてきたことを明らかにした上で、「研究開発に対して相応のリターンがあることは重要だ」と強調。「キイトルーダは日本の多くの患者さんのがん治療に貢献してきた。当社はキイトルーダへの患者アクセスを確保するために、大変な努力をしてきた」と語り、24年度薬価制度改革では特に共連れルールの廃止を求めていく考えを示した。キイトルーダは現在8つの適応症の開発が進行中で、87の臨床試験を行っている。

◎23年は最大10前後の申請・承認取得を予定

開発戦略を説明した白沢氏は、「23年は最大10前後の申請・承認を予定している」と述べた。申請や承認取得を見込んでいる具体的な開発プロジェクトは明らかにしなかったが、オンコロジー領域とオンコロジー以外の領域に分けてパイプラインを紹介した。

オンコロジー領域については、「プログラム数、多様性、モダリティの点でオンコロジーカンパニーとしてトップクラスのパイプラインと自負している」と話した。現在、▽腫瘍免疫によるがん治療(キイトルーダ、新たな免疫チェックポイント阻害薬(TIGIT、CTLA-4、LAG-3)、個別化がんワクチン)、▽がん増殖を促進する経路へのアプローチ(多様な分子標的薬、ホルモン療法)、▽ADCによる化学療法に対するがん細胞の感受性・選択性の向上(複数の抗体、新たなペイロード、リンカーテクノロジー、他社品でのキイトルーダとの併用)――と、フルラインナップで研究開発を進めていると説明した。

◎開発パイプライン 早期がんの“治癒”目指すプログラム、PAHの疾患修飾薬など

このうち個別化がんワクチン(開発コード:V940)は、モデルナと共同開発しているもので、腫瘍免疫をターゲットにした個別化がんワクチンとキイトルーダを併用して用いるプログラム。白沢氏は「早期がんの術後に使うことで早期がんの『治癒』を目指す壮大なプログラム。我々も力を入れてモデルナと一緒に開発していく」と話した。

オンコロジー以外では、ワクチン、感染症、循環器疾患、代謝系疾患、精神・神経疾患の多岐にわたる開発品を披露。このうち「かなり期待される薬剤」として肺動脈性肺高血圧症(PAH)を対象疾患とするアクチビンシグナル伝達阻害薬・sotaterceptを挙げ、「PAHに対する疾患修飾薬」と紹介した。このほか、高コレステロール血症を対象疾患とする経口投与のPCSK9阻害薬・MK-0616、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)を対象疾患とするGLP1/グルカゴン受容体作動薬・efinopegdutide、シルガード9の男性適応や頭頸部がん予防――などの開発を進めていると説明した。
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