有識者検討会 長期収載品に依存する新薬メーカーの産業構造が論点に 製薬協加盟社の収益2割が長期品
公開日時 2022/10/13 06:35
厚労省の「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」(座長:遠藤久夫・学習院大経済学部教授)が10月12日開かれ、革新的な医薬品の迅速な導入に向け、長期収載品に依存する新薬メーカーの産業構造が論点にあがった。新薬創出等加算が導入されて10年以上経過しているが、製薬協加盟社の収益の約20%が長期収載品であると説明。医療費の中での薬剤費率が欧米よりも高いとのデータも示されるなかで、薬剤費の分配についての意見が集中した。製薬業界側は薬価上の評価のあり方として、医薬品の多面的な価値評価を求めているが、遠藤座長が画期性加算など補正加算を引き合いに、「実はいまでも価値は補正加算という形で評価しているということだ」と述べる一幕もあった。
◎成川構成員 医療費全体の伸びと同じ歩調で伸びない医薬品市場に「違和感がある」
社会保障財源をめぐっては、自然増抑制に向けて薬価改定による削減額が一定程度充てられてきたことが指摘されており、成川衛構成員(北里大薬学部教授)は、「(薬剤費は)少なくとも医療費全体の伸びと歩調を合わせるくらいには医薬品の市場も伸びないことにはやはり違和感がある」との見解を表明した。
この日、厚労省は医療費総額に占める薬剤費の割合は21%前後で推移しているとのデータを提示。遠藤座長は、「国民医療費に占める薬剤費の割合は21%ぐらいで、ほぼ固定している。現状においてはほぼ同じように伸びているという理解ができる」と述べた。薬剤比率は1993年度の28.5%から98年の20.1%下落しているが、「実際に薬剤費が減ったのではなくて、この間に病院の入院医療の包括化が急速に進み、包括されたものはこの統計では薬剤費としてはカウントしないのでここまで下がった」と遠藤座長は説明。包括化された部分については以前、自身が社会保障審議会医療保険部会で厚労省保険局医療課に質問したとして、DPC病院や療養病床など、包括化が進んでいる部分を加えると、「(薬剤費は)大体2~3%ぐらい上振れする」ことも紹介した。
◎坂巻構成員 2015年の薬剤費減の要因 C肝薬ピークアウト、GE使用促進、多剤投与の適正化など
坂巻弘之構成員(神奈川県立保健福祉大大学院教授)も、「2015年に薬剤費はかなり減っている。これはよく言われる話で、C型肝炎治療薬がピークアウトしたこと。また、この時期は少し前からだがジェネリック医薬品の使用が非常に進んできたこと。もう一つは、日本では多剤投与が多いと言われたが、ここもかなり改善してきたのだろうと思う。こういった薬の使い方によって薬剤費が下がってきたという部分もある。単純に薬価によって薬剤費の伸びが抑えられているのかどうかというところに関しては、きちんと峻別できるようなデータを提出していただきたい」と述べた。そのうえで、「いまのように、後発品の使用促進や医薬品の適正使用が推進されるなかで、単にまとめて薬剤費を医療費あるいはGDP並みに伸ばして良いかというと、また無駄な医薬品の使い方というモラルハザードが起きる可能性がある。そこはきちんと、どの部分を伸ばすのかという議論をすべきだろう」と指摘した。
◎論点案 ⾧期収載品から収益を得る構造から脱却、新薬の研究開発への再投資を促進
厚労省はこの日、革新的な医薬品の迅速な導入に向けて、産業構造の課題として、「⾧期収載品のカテゴリや製造企業の実態を踏まえつつ、先発企業が⾧期収載品から収益を得る構造から脱却し、新薬の研究開発への再投資を促進するための方策について、どのような取組が必要か」との論点案を示した。同省は、医薬品の分類ごとの売り上げなどの21年度調査結果を示し、「新薬系メーカーにおいても、約20%は⾧期収載品で収益を得ている実態がある」ことを示した。
◎菅原構成員 「薬剤費のアロケーションのあり方がおかしいのではないか」
菅原構成員は、「薬剤費のアロケーションのあり方がおかしいのではないか」と指摘。「画期的な新薬や先発品メーカーの中にも、わが国では20%位は長期収載品頼らないと、やっていけないような構造になっているということも示されていた」との見方を示したうえで、他国での状況についてのデータ提示などを求めた。菅原構成員は、「先発品、画期的な新薬のピーク時の売上高が何年目にきていて、どれぐらいの期間で回収できているかということがある程度見えてこないと、長期収載品依存というものを是正して、なるべくアロケーションを前倒ししていくという話にはつながっていかない」
製薬業界側は「主要国のなかでマイナス成長が予想されているバイオ医薬品市場は日本市場のみ」として、”なぜ日本市場だけ魅力がないのか”などと訴えている。遠藤座長は厚労省が提示した「日本の販売額5年平均成⾧率(2015~2019)は、2.8%で米国、中国、ドイツを下回るが、フランス、英国を上回る」とのデータを示したことを引き合いに、「今後の予測では、先進10か国の中で日本だけがマイナスまたは横ばいの成長ということも書かれているのだが、足下はこういう動きだが、どういう根拠なのか。これは、厚労省が言っているわけではないのだが、そういうところが疑問に思った」との見解を表明し、“エビデンスベース”での議論の必要性を指摘した。
薬価の価格が欧米諸国よりも低い傾向があるとの分析結果についても、遠藤座長は「日本の場合はご承知の通り、薬価を決める際に、最後に外国平均価格調整を行う。機能していれば、日本だけ異常に低くなっているということはあり得ない話だ。もしこれが実態だとすると外国平均価格調整がうまく機能していないということを意味しているのではないか」とも指摘した。
◎遠藤座長 新薬創出等加算の見直し「画期性の高くないものが結構あった」
製薬業界が新薬創出等加算や市場拡大再算定の見直しを主張するなかで、「現在の新薬創出等加算や市場拡大再算定の運用や制度のあり方、経営や投資計画に影響を与えうる薬価改定ルールの改定頻度についてどう考えるべきか」も論点にあがった。遠藤座長は自身が中医協会長、薬価専門部会会長を務めていたことから、制度改革議論を振り返った。2018年度薬価制度抜本改革では新薬創出等加算が見直されたが、「価格差が小さい薬を調べてみると、あまり画期性の高くないものも結構あった。やはりこれはまずいだろうということで評価の仕方をガラッと変えた」と説明した。新薬創出等加算の対象品目は大きく減少したが、「むしろ平均乖離率以下ならば画期性があるという評価方法を個別の評価に変えたことによって、数が下がってしまった。これがいまの現状だ」と説明した。
製薬業界は医薬品の多面的な価値評価を求めているが、遠藤座長は「ご承知の通り、類似のものとして画期性加算などの補正加算がある」と指摘。「もう一つは、それぞれの加算項目が一体何を評価しているのかということだ。それがわかるようにすると、実はいまでも価値は補正加算という形で評価しているということだ。ただ、それが何を見てどういう基準で評価しているのかということと、実際はどれくらい評価されているケースが多いのかなどはやはり知りたいところだ」と述べ、事務局にデータの提示を求めた。
◎芦田構成員 新薬候補獲得でベンチャー企業との提携「やはり資金力が必要、内資では限られる」
また、革新的新薬の創出に向けて日本では、米国などと比べてアカデミアやバイオベンチャー企業由来の開発が少ないことも指摘されるなかで、アカデミア・バイオベンチャー企業等におけるシーズの開発・導出を促進するための取り組みも論点にあがった。
芦田耕一構成員(INCJ執行役員ベンチャー・グロース投資グループ共同グループ長)は、「創薬ベンチャーがライセンスアウトしたい、という製薬企業は臨床開発力があり、そして販売力がある会社だ。市場が大きい海外で開発・販売をしている会社の方がより魅力的にはなる。そうすると、ライセンス先、ライセンス候補先は日本の製薬企業だけではなく、欧米の製薬企業も含まれてくるということになる。実際に日本の創薬ベンチャーのなかには、欧米の大手製薬企業にライセンスした例はいくつかある。今後それが増えていくという風には期待されている」との見解を表明。「日本の製薬企業で創薬ベンチャーから導入している事例を見ると、やはりある一定の売り上げ規模以上を持つ一部の会社が多い。ベンチャー企業と提携し、特に革新的な新薬候補を獲得するには、やはり資金力が必要になる。その投資力を持つ会社は、国内の製薬企業のなかでも限られているのが実態ではないか」とも指摘した。