PTSD関連学会 プライマリケア医の診療向上に期待 治療薬の登場で
公開日時 2013/12/09 03:50
日本トラウマティック・ストレス学会会長の奥山眞紀子氏ら学会関係者は12月5日、「外傷後ストレス障害(PTSD)薬物療法への期待」と題したメディアセミナーで講演した。同学会はこの9月からプライマリケア医向けのガイドラインや初期対応のマニュアルを学会サイトで公表するなど、PTSDの適正治療に向けた取り組みを行っている。この11月にはパロキセチン(製品名パキシル)が国内初のPTSD治療薬として承認されたため、奥山氏らは、プライマリケア医によるPTSDの対処や薬物治療が向上していくことへの期待感を示した。セミナーはパキシルを手掛けるグラクソ・スミスクラインが主催し、同学会の後援で開催された。
PTSDは、災害や事故、犯罪被害などを直接体験したり身近に目撃したりするなどの強い恐怖を感じた後に、トラウマとなって恐怖を感じ続ける疾患。通常は1カ月程度で回復に向かうが、罪責の念や不安などが高まり悪循環に陥ると日常生活に支障が生じ、治療が必要になる場合もある。奥山氏(写真左)は、PTSDに有効な対応として▽呼吸を整えるリラクゼーション法▽不安を肯定するなどの心理教育▽認知行動療法▽薬物療法―を挙げた。本来は、それらを組み合わせて対応できる専門医による診察が望ましく、非専門医が対応する場合も専門医へコンサルト出来る環境が望ましいとした。ただ、専門医が不足していたり、実地医家での治療を望む患者が多かったりして、プライマリケア医による診療が中心となっているのが現状だ。
そこで学会は、非専門医にもわかりやすい「PTSD初期対応マニュアル」や「PTSDの薬物療法ガイドライン」を作成し、この9月から学会HPで公表している。それらの中では、PTSD患者へ接する場合に医師がまず取り組むべき点として▽信頼関係構築に必要な姿勢を示す▽誰にでも起こり得る病態と理解してもらう。リラクゼーションの方法を紹介する▽公的な相談窓口や専門医との連携を示す―を挙げている。そして、薬物治療は「3~6カ月を経て病状が持続している場合」と位置づけられており、薬物治療ありきではないことが示されている。
そのうえで、薬物治療が必要な場合の推奨薬にSSRI(セロトニン再取り込阻害薬)のパロキセチンまたはセルトラリン(ジェイゾロフト、ただしPTSDでは国内未承認)が挙がっている。国内でPTSDの治療状況を調査した防衛医科大学校精神科学講座講師の重村淳氏(写真右)は、パキシルが承認される前からSSRIが多くの患者で使用されていたと報告した。ただ、中にはガイドラインで「PTSDの中核症状には無効、依存を形成しやすく長期連用は推奨されない」とある抗不安薬が使用されていたケースもあったと指摘。重村氏は「これまでは承認薬がなかったため、薬物治療の情報が提供しづらい状況だったが、今後は変わっていくだろう」として、適正な薬物治療の浸透に期待した。
PTSDでは自然に軽快する患者もいる一方で、他の精神疾患を合併したり、重症化して自殺に至る場合もある。福島県立医科大学災害こころの医学講座教授の前田正治氏(写真左)は、PTSD患者での自殺率がうつ病患者と比べて高い点を挙げ、「東日本大震災からもうすぐ3年目を迎えるが、阪神淡路大震災後の経験を踏まえて考えると、被災地ではPTSDの発症や自殺のリスクが高い状況にある。プライマリケアの先生方にも関心を持ってもらい、適切な対応に結び付けていただきたい」と述べた。学会では、今後も継続的に被災地のプライマリケア医向け研修会を実施していく。