日本高血圧学会は10月30日、学会HPで降圧薬・ディオバン（一般名：バルサルタン）の臨床試験をめぐり、臨床試験の在り方委員会（仮称）の新設など、再発防止に向けた学会の取り組みを報告した。

冒頭で、「バルサルタン関連の臨床試験に関係した高血圧学会員の問題には学会として誠に残念で、混乱を招き遺憾に思っております」と謝罪。データの改ざんが疑われるJIKEI　HEART Study、KYOTO HEART Studyには４人の学会員が関与しているが、会員への対応として倫理委員会で審議していることも明らかにした。

現在の対応としては、①臨床試験の在り方委員会（仮称）の設置②学会員や専門医の教育強化③“学会主導臨床研究ワーキング”の設置――を行っていると説明した。

臨床試験の在り方委員会では、外部委員も含めた新たな委員会を立ち上げ、「透明性を重視した臨床試験の在り方、臨床試験実施能力の向上、不正再発防止の方策などを審議していく」とした。

学会員や専門医の教育強化では、利益相反（COI）マネージメント、臨床実施能力の向上のために学会として教育プログラムを展開するとした。学会総会や臨床高血圧フォーラムなどの教育講演などに加え、専門医の取得や更新に必要な習得単位としての認定システムを構築する。さらに、臨床研究についてのプログラム開発、実施については、専門度委員会と、新設された学会学術委員会の中の“学会プログラムあり方ワーキング”で検討するとしている。

◎「JIKEI Heart Studyの主任研究者・望月氏にヒアリング」　堀内理事長

なお、同学会は10月25日に大阪市で開催した会員総会で、同問題で８月に設置された倫理委員会について、Kyoto Heart StudyおよびJIKEI Heart Studyについての調査に着手する方針を固めた。

総会終了後、取材に応じた同学会の理事長で愛媛大学大学院医学系研究科分子心血管生物・薬理学教授の堀内正嗣氏は、「JIKEI Heart Studyの主任研究者だった望月正武氏（現・東京慈恵医科大学客員教授）にはヒアリングを予定している」と明らかにし、近く望月氏に対してヒアリングを正式に要請することを明らかにした。

会員総会では既にKyoto　Heart Studyの主任研究者だった京都府立医科大学循環器内科前教授の松原弘明氏については既に10月５日に倫理委員会がヒアリングを実施し、３日後の８日に松原氏が学会退会届があり、「定款に沿えば受理せざるを得ない」として10月２２日に受領したことを報告した。同時にKyoto　Heart Studyに関連して事務局を務めた当時の循環器内科講師の沢田尚久氏（現・京都第一赤十字病院循環器内科副部長）やノバルティスファーマの元社員に対してもヒアリングを予定していることを明らかにしている。同Studyではメインの解析論文の筆頭執筆者が沢田氏となっており、その他のサブ解析論文では複数の同科医師が筆頭執筆者になっている。これに関連して堀内氏は沢田氏へのヒアリングの結果次第ではサブ解析論文の筆頭執筆者に対しても「ヒアリングの可能性はある」との考えを示した。

また、総会では同学会理事で横浜市立大学大学院医学研究科病態制御内科学（第二内科）　教授の梅村敏氏から、松原氏について倫理委員会として処分案を検討していることも報告された。退会者に対する処分という異例の対応に関して、総会後に取材に応じた倫理委員会委員長で弁護士の平井昭光氏は「定款では明確な規定はなく、実際の処分については定款の解釈や運用の仕方によって行われることになるだろう」との見通しを示した。

さらに平井氏は社会的な関心の高さなどから、当面はKyoto Heart StudyとJIKEI Heart　Studyの調査が優先されるとの見通しを示し、他にデータ操作の疑念がもたれている滋賀医科大学のSMART、名古屋大学のNagoya Heart Study、千葉大学のVARTについては扱いが未定であると説明。倫理委員会としての調査の最終報告時期については「できるだけ早い時期に」として明言を避けた。