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てんかん学会・協会が緊急シンポ 医療関係者から法改正に慎重意見も

公開日時 2013/05/15 05:02

てんかんなどの発作を有する患者の運転免許制度改正の動きなどを受けて、日本てんかん学会と日本てんかん協会は5月11日、緊急シンポジウムを開催し、参加した医師や患者からは法改正がてんかん患者などによる交通事故減少には必ずしもつながらないとの危惧が表明された。


2011年4月、栃木県鹿沼市でてんかん患者がクレーン操作中に発作に陥り、児童6人が死亡した事件を受け、てんかん、認知症などの運転に支障をきたしかねない疾患を有する患者の免許取得や事故時の取り扱いについて現在、国会では法改正に向けた動きが始まっている。


法改正は道路交通法と刑法の2つ。道路交通法では2002年6月の同法改正の際に免許取得の相対的欠格事由となったてんかん、統合失調症、認知症などの疾患を有する患者の運転免許取得・更新に際して、患者に求めていた罹患申告について故意に罹患を申告しなかった場合の罰則(1年以下の懲役又は30万円以下の罰金)と医師による任意通報制度の新設、刑法改正ではこうした疾患の患者が事故を起こした際の刑法上の危険運転致傷罪の適応を軸としている。道路交通法改正案は既に参議院内閣員会で審議が始まっており、刑法改正も衆議院法務委員会に付託済みである。


◎てんかんセンター長・大槻氏  罰則強化で患者の虚偽説明を危惧


今回の法改正について、てんかん専門医の立場から基調講演をした国立精神・神経医療研究センター・てんかんセンター長の大槻泰介氏は「法改正で本当に事故を減らそうとしているのか。逆効果ではないかと考える」と疑問を呈した。


大槻氏は、てんかん治療の目標であり、なおかつ現行の道路交通法のてんかん患者の免許取得条件でもある、一定期間の発作停止のためには、まずは患者による正確な病状申告が必要であることを強調した。そのうえで今回の法改正による罰則強化により、たとえ患者が専門医を受診していたとしても、発作の有無について虚偽の説明をしたり、運転していることそのものを隠すなどの可能性が高まると指摘。この結果、「発作はあるのに適切な治療が行われず、なおかつ運転を続けて重大事故を引き起こす可能性が増大する」と危惧の念を表明した。


大槻氏は実例として法改正論議に大きな影響を及ぼした栃木県鹿沼市でのてんかん患者による死傷事故について、加害者は過去にも発作で事故を起こしており、これについて居眠りによる事故と虚偽の申告をしていたうえに、医師にも発作が継続していたことや運転していたこと告げていなかったこと、さらに2012年4月に京都で発生したてんかん患者(自身も事故で死亡)による死亡事故に関しては、加害者の患者は発作があることや運転を継続していることを主治医に告げていたが、それでも重大事故を起こしていたことを説明。いずれも今回の法改正のみでは事故は防げなかった可能性が高いとの見解を示した。また、刑法改正に関しては「患者は好きで病気に罹患しているわけではないのに、特定の病気であることを理由に刑罰を重くするのは法の精神として疑問を感じる」と語った。
そのうえで大槻氏は、現状でてんかん患者自身による病状申告は社会的不利益を受ける局面が少なくなく、患者は病気を隠すことで生活が成立している側面があることを問題視。「申告が生活の破綻ではなく、支援に結びつく仕組みが必要。患者さんが病気のことを言える地域社会の形成が求められる」と強調した。


そのために具体的には(1)病状改善までの適切な一時免許停止制度(2)専門医療提供の充実(3)免許停止が就労・生活に影響を及ぼす場合の支援---の構築が早急に求められると提言した。


◎高知大医学部神経精神科講師・上村氏  認知症患者「6人に1人が事故」の現実


02年の道路交通法改正の際に、てんかんと同様に免許取得の相対的欠格事由とされた認知症患者の免許取得に関して、専門医である高知大学医学部神経精神科講師の上村直人氏が、軽度認知症では行き先を忘れることや軽い自損事故を起こす例がありながら運転そのものは可能であり、日本老年精神学会の調査結果では認知症患者の6人に1人が事故を起こしている現実を解説。一方、アメリカでは、米国精神医学会が認知症の中等度から重度では運転中断を強く勧告すべきとの指針があるのに対し、米国神経学会では認知症の確定診断を受けた時点で運転をやめさせるべきとするなど専門医の間でも判断が分かれていることを紹介した。


また、病気の自己申告制度について、認知症患者は物忘れをする特性があるため、医師が運転中止を勧告しても、自己申告そのものを忘れるケースも少なくなく、このような場合を「虚偽の報告として罰することが可能なのか」と疑問を投げかけた。


同時に(1)軽度の認知症では運転適性検査をパスする(2)免許取得や更新時の疾患の自己申告制度は本人に限定され、運転中止を求める家族が医師の診断書を持参しても受け付けてもらえない(3)免許失効した認知症患者が自動車を購入できた事例がある---など法制度上、数々の不備があることを指摘。「自動車運転に関連する全省庁による横断的な問題解決の取り組みが必要」との認識を示した。


 

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