【ESC事後特集】JART Extension Studyを読み解く 一次予防 高リスク群へのスタチン投与は“the longer , the better”
公開日時 2012/10/15 05:00
日本人脂質異常症患者においても、積極的な脂質低下療法の意義は二次予防では確立されてきた。一方で、一次予防では対象患者や治療期間をめぐる明確なエビデンスが依然として構築されていないのが現状だ。「JART(Justification for Atherosclerosis Regression treatment)」の結果からみえた、動脈硬化の最適な治療ストラテジーは何か。一次予防を中心に、田附興風会医学研究所北野病院 副院長・心臓センター長 野原隆司氏に話を聞いた。
まず、今回の解析結果から、一次予防であっても、心血管イベントの高リスク群には“the lower,the better(低ければ低いほど良い)”はもちろん、“the longer,the better(長ければ長いほど良い)”と伝えたいですね。
頸動脈内膜-中膜肥厚(IMT)は、ロスバスタチン投与により、投与開始12カ月時点では、加齢による経時的変化にとどめることができたと解釈しています。今回発表した24カ月の解析ではさらに、ベースラインから0.005±0.104mm減少していることが示されました。つまり、長期間投与することで、加齢によるIMTの変化の抑制に加え、退縮までみられたと考えられます。
◎標準用量でIMT退縮効果示す
低リスクの欧米人を対象に、ロスバスタチンの有用性を検証した「METEOR(Measuring Effects on Intima-Media Thickness: an Evaluation of Rosuvastatin)」でもIMTの退縮が報告されていますが、ロスバスタチンは40mg/日投与されています。JARTでは、 24カ月時点の平均用量は、7.87±2.9mgでした。日本の実臨床に基づいた用量で、IMTの退縮がみられたことも重要なポイントだと思います。
対象には、一次予防の患者さんも49.6%(56例)含まれています。もちろん一次予防では、食生活の改善と運動は非常に重要です。運動不足の人は多く、特に高齢者には、プールで歩くことなども勧めています。プールでは、身体が浮くので、関節にもやさしく、怪我をすることも少ないためです。
ただ、一次予防であっても、高リスクの患者さんはそれだけでは十分でないケースも少なくありません。IMTが
1.1mm以上あり、さらに危険因子があるような患者さんであれば、積極的な脂質低下療法も含めた多面的な治療が重要だと考えています。
費用対効果への懸念もあるかと思いますが、動脈硬化は破たんするまで症状が出ない、いわば“サイレントキラー”です。スタチンはこれまでの投与経験から、副作用も少なく、認知症や骨粗鬆症へのプレオトロピックエフェクト(多面的効果)があることも期待されています。このような点も踏まえ、患者さんに十分説明した上で、治療方針を決めていただければと思います。
◎プラークの量的変化 質的変化に続き起きる可能性示唆
今回の結果から、プラークの質を考慮することの重要性も示されたと考えています。解析では、プラーク性状の定性的診断法として、画像をコンピューターソフトで取り込み定量化する“グレースケールの中央値(Gray scale median;GSM)”を用いて、質的変化も検討しました。GSMは、日常臨床でも簡便に用いることができる有用なツールです。
GSMとIMTとの関連をみた結果、12カ月時点では有意にGSMが変化し(p=0.017)、その後IMTの変化がみられました(p=0.019)。つまり、先にプラークの質的変化が起き、その後24カ月時点では量的変化が起きているということです。何が起きているのかは今後検討していく必要がありますが、炎症細胞、中でもマクロファージ(単球)が減少して、線維化(ファイブローシス)が進み、プラークが安定化したのではないかと考えています。